STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。

秋季応用物理学会(9月5-8日)


秋季応用物理学会 有機ELの高効率化や色純度向上メソッドに脚光

9月5〜8日、福岡国際会議場(新潟県新潟市)で開かれた「第78回応用物理学会秋季学術講演会」。有機EL、有機TFT、プロセス技術のなかから注目講演を予稿集ベースでピックアップする。

色純度の高いPt系緑色燐光材料が


図2 燐光デバイスのPLスペクトル1)


図1 試作デバイスの外部量子効率1)

 有機ELでは、NHK放送技術研究所が4K/8K超高精細テレビで求められる広色再現性を見据え、きわめて色純度の高い緑色燐光材料を報告した。

 発掘したのはPt錯体材料であるPtN7N(図2)。このドーパントに適したホストを調べるため、まずホスト中に分散したPtN7NのPLスペクトルを測定した。この際、ホストに一般的なCBP、高効率化に適したホストであるDIC-TRZ、BN-Ph2を用いたところ、DIC-TRZではスペクトル半値幅の増加がみられた。そこで、半値幅の狭かったCBPとBN-Ph2をホストに用いてボトムエミッションデバイスを作製した。その結果、図1、2のように従来のIr錯体ドーパントデバイスに比べ半値幅が大幅に狭く、さらにマックス22.2%という高い外部量子効率が得られた。

 また、トップエミッションデバイスを作製しマイクロキャビティ効果を利用した色純度の向上にトライした。この結果、図2のようにx=0.18、y=0.74と極めて色純度の高い緑色発光が得られた。これは、ボトムエミッションデバイスでみられた長波長側のスペクトル成分が抑制されたためと考えられる。

屈折率を低くして有機ELの光取出し効率を向上


図4 燐光デバイスの外部量子効率2)


図3 ホールオンリーデバイスのJ-V特性2)

 山形大学は、有機ELの光取出し効率向上のため有機薄膜を低屈折率化するという試みを報告した。以前から研究グループはフッ素系樹脂を有機半導体材料に混合することにより低屈折率化を試みてきたが、この際、導電性が損なわれることはないものの、膜の平滑性が低下したり、フッ素化樹脂の分解が発生するという問題があった。そこで、今回は新たなフッ素系樹脂を用いることにより、平滑な超低屈折率ホール輸送層を作製することに成功した。

 実験では、コンベンショナルなホール輸送材料α-NPDに対し、perfluoro butenyl vinyl ether重合体(PBVE:屈折率1.34@600nm)を共蒸着によって混合し膜厚100nmの膜を成膜した。また、標準的材料で構成される燐光デバイスA:ITO/MoO3(5nm)/α-NPD(45nm)/8wt%-Ir(ppy)2(acac):CBP(15nm)/TPBi(65nm)/LiF(1nm)/Alと、その一部をPBVE混合層で置き換えたデバイスB:ITO/MoO3(5nm)/55vol%-PBVE:α-NPD(60nm)/α-NPD(10nm)/8wt%-Ir(ppy)2(acac):CBP(15nm)/TPBi(60nm)/LiF(1nm)/Alを作製して各種特性を評価・比較した。


図5 試作デバイスの発光角度分布2)

 図3にホールオンリーデバイス(ITO/MoO3(5nm)/x vol%-PBVE:α-NPD(100nm)/MoO3(10nm)/Al)のJ-V特性を示す。絶縁体であるPBVEを55vo%混合しても導電性が損なわれず、膜の屈折率を1.54にまで低減できることが確認できた。PBVEの強い電子保持特性により混合層内のホール輸送が促進され、絶縁体混合による導電性低下を十分に補っていると考えられる。

 図4に燐光デバイスの外部量子効率実測値、図5に発光角度分布の実測値・計算値を示す。発光角度分布により補正したデバイスAおよびBの外部量子効率はそれぞれ21.5%、25.9%が得られた。一方、光学理論計算により算出したデバイスAおよびBの光取り出し効率はそれぞれ27.8%、33.3%だった。これに発光層のPL量子収率83.6%(実測値)を加味すると、上記外部量子効率実測値がほぼ再現されることが確認できた。つまり、PBVE混合によって低屈折率化が実現し、光取り出し効率も向上したわけである。

新たなバッファ層を用いてオールプリンタブル有機TFTを

 有機TFTでは、山形大学と東ソーの研究グループがオールプリンタブルデバイスを作製したことを報告した。


図7 トランスファー特性3)


図6 試作有機TFTの断面構造3)

 図6は試作デバイスの構造で、コンベンショナルなボトムゲート・ボトムコンタクト構造を採用。全レイヤーとも印刷または塗布プロセスを用い、焼成温度も150℃以下に抑えた。絶縁膜には架橋PVP(ポリビニルフェノール)とPαMS(ポリα-メチルスチレン)バッファ層の2層構造を用い、ソース/ドレイン電極、ゲート電極はAgナノインクをインクジェットプリンティング法で印刷した。また、活性層はジチエノベンゾチエオフェン誘導体であるDTBDT-C6、またはDTBDT-C6とPαMS混合インクをディスペンサ印刷した。

 図7のようにいずれのデバイスとも5V以下という低電圧で動作したが、モビリティはバッファ層レスデバイスが0.28cm2/V・s、同じくバッファ層レスでDTBDT-C6とPαMSの混合デバイスが0.43cm2/V・s、バッファ層上にDTBDT-C6を積層したデバイスが1cm2/V・sだった。また、ヒステリシス、サブスレッショルドスロープ、コンタクト抵抗もPαMSバッファ層デバイスがもっとも高い特性を示した。これは、高分子バッファ層の形成によってPVP絶縁膜表面に付着した水分子や、架橋せずに残留したヒドロキシル基によるキャリアトラップの影響が低減したためと考えられる。

レーザー集光によってCNT膜をダイレクトパターニング

 製造プロセス関連では、ニコンがCNT(カーボンナノチューブ)のパターニング法としてWhat's NEWを提供した。基板上に保持したCNT分散液にレーザーを照射してダイレクトパターニングするというレーザー直描法で、今後、新たなCNT膜パターニング法として注目を浴びそうだ。


図8 CNT-TFTのI-V特性4)

 実験では、まずガラス基板上にCNT分散液を載せ、基板裏面から対物レンズを用いて波長975nmのレーザービームを出力100mWで照射した。レーザー入射後はただちに集光点を中心にCNT粒子が堆積。集光点を基板上で走査するとCNTの堆積も追随し、CNTパターンを描画することができた。集光点のスポット径は約1μmだが、CNT線幅は10〜30μmだった。しかし、走査速度などプロセス条件をふることによりミニマム1.5μmまでファイン化することができた。実際にこのCNTパターンをチャネルに用いたCNT-TFTを試作したところ、図8のように半導体特性を示し、キャリアモビリティ1.4cm2/V・sが得られた。

参考文献
1)大野ほか:高色純度緑リン光有機ELデバイスの開発、第78回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-190(2017.9)
2)佐々木ほか:超低屈折率有機正孔輸送層による有機EL光取り出し効率の向上、第78回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-192(2017.9)
3)塩飽ほか:高分子バッファ層を用いた全印刷OTFTの高性能化、第78回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-407(2017.9)
4)山田ほか:レーザ走査によるカーボンナノチュブ直描技術、第78回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、15-102(2017.9)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

ステラ・コーポレーションでは測長&外観検査装置のローコストモデル「LSTシリーズ」もラインアップしています。
測長機能
外観検査機能