加速試験
製品を過酷な条件下に置き、意図的に劣化を進めて寿命を検証する試験。TFTでは電圧を長時間連続的に印加してVthシフトなどの特性変化を評価するバイアスストレステスト、有機ELデバイスでは大気環境において高温多湿下で発光特性の変化を評価する寿命評価試験が知られる。
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キャリア注入障壁
有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池といった有機半導体デバイスにおいて金属電極から有機分子層へキャリアが注入される際の障壁。金属電力のフェルミ準位と有機分子の最高被占軌道(HOMO)や最低空軌道(LUMO)が作るバンド端の界面でのエネルギー差で決定される。単位はeV。
キャリア注入障壁が高いと電極から電子やホールといったキャリアが有機分子層へ効率的に注入されずに、デバイスの効率が低下する。このため、無機電極の仕事関数と有機層のイオン化ポテンシャルが近くなるよう、その間にキャリア注入障壁を低減するバッファ層をインサートする場合が多い。
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キャリアバランス
エレクトロニクスデバイス内における電子とホールの発生バランス。電子とホールが発光層内で再結合して発光する有機ELデバイスや、光が入射するとp型半導体とn型半導体の界面からホールと電子が分離して電流が発生する太陽電池で重要な特性で、これらキャリアの注入または分離バランスがとれていると効率が向上する。現時点で有機ELデバイスは各レイヤーの材料選択の制約からホールリッチ状態になるため、バッファ層の挿入をはじめとする工夫により電子注入特性を改善してキャリアバランスを改善するアプローチが一般的である。
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グレッツェルセル
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▲グレッツェルセルの構造 |
代表的な色素増感太陽電池の構造。1991年にローザンヌ工科大学(スイス)のグレッツェル(Graetzel)教授が図のようなセル構成で従来(1〜3%)を大幅に上回る変換効率7.1%を達成したことから、こう名づけられた。従来との違いは、@半導体層にTiO2ナノ粒子を用いたこと、A吸収帯の広い非対称構造を持つRu色素を用いたこと、B電解液にヨウ素を用いたこと、C透明電極を用いて半導体層側から太陽光を入射する構造にしたこと、の4点である。
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黒欠陥(ショート欠陥)
デバイス上のパターン欠陥で、本来はライン間にスペースがあるべきはずなのに、機能膜そのものの残存や異物などの付着によってライン間がつながってしまっている現象を指す。電極パターンではショート欠陥と呼ばれることが多く、これがひとつでもあると基本的にNG製品となる。このため、レーザービームを局所的に照射して除去するのが一般的である。
※ステラ・コーポレーションではリベア装置「Repair Vision」を製品化しています。
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ゲッター材
密閉状態の電子デバイス内に配置し、内部に残留したり外部から侵入してくる不純物ガスを捕捉するマテリアル。O2、H2、CO、CO2などを捕捉する。キャパシティが飽和しても、捕捉した不純物ガスを再放出することはない。
MEMデバイス、FED(フィールドエミッションディスプレイ)、FEL(フィールドエミッションランプ)、有機ELデバイスなどの寿命改善に用いられる。
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光電変換効率
図は太陽電池のI-V曲線を示したもので、電圧0V時の電流を短絡電流(short-circuit current=Isc)、電流が流れていない時の電圧を開放電圧(open-circuit voltage=Voc)と呼ぶ。太陽電池から最大の電力を取り出すには、電圧と電流の積が最大になる点である最大出力(Pmax)で動作させる必要がある。光電変換効率は、この最大出力を入射光強度で割った値である。
また、最大出力(Pmax)をVoc×Iscで割って得られる値が1に近づけることが特性を高めるのに重要である。このPmax/(Voc×Isc)をフィルファクター(FF:曲線因子)と呼ぶ。
Iscを太陽電池の受光面積で割った短絡電流密度(Jsc)を用いると、変換効率はJsc(A/cm2)×Voc(V)×FF(%)の値を入射光強度で割って求めることができる。 |
色素増感太陽電池
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▲色素増感太陽電池の構造(グレッツェルセル) |
有機薄膜太陽電池と並ぶ代表的な有機太陽電池。基本構造は図の通りで、透明電極付きガラス基板上に多孔質TiO2膜を形成し、その上に増感色素を吸着させた負極を使用。一方、対向基板(対極)は透明または不透明な導電膜上に電気化学的活性を確保するための導電層(触媒)を設け、以上の上下基板で電解質をサンドイッチする。その光電変換効率は6〜12%とSi系薄膜太陽電池に迫る勢いで向上している。 |
仕事関数
物質表面において1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギー。この時、表面上の空間は真空とする。有機ELデバイスなどの無機金属電極ではこれがキャリアの注入特性、フィールドエミッションデバイスのエミッタではエミッション特性を決める。
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主鎖
鎖式化合物の主要な炭素鎖で、炭素数が最大となる幹にあたる部分を指す場合が多い。
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白欠陥(オープン欠陥)
デバイス上のパターン欠陥で、本来はつながっているべきラインにスペースが発生してしまっている現象を指す。電極パターンではオープン欠陥と呼ばれる。電極パターンではこれがあると即NGとなるが、絶縁層や電極間のチャネルなどでは致命的欠陥にはならない場合もある。リペア方法はピンやディスペンサによるリペア材料のスポット照射、またCVD(Chemical Vapor Deposition)方式による局所成膜法などが知られるが、いずれにしてもこれらオープン欠陥をリペアした後、その周囲をレーザー照射によって正確にカットするトリミング処理を行う場合が多い。
※ステラ・コーポレーションではリベア装置「Repair Vision」を製品化しています。
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ZnO型セル
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▲半導体層にZnO多孔質膜を用いた色素増感太陽電池 |
半導体層にナノ多孔質構造を持つZnOを用いた色素増感太陽電池。ZnOはグレッツェルセルに用いられるTiO2ナノ粒子に比べ結晶性が高く、高いキャリアモビリティが期待できる。そもそも、グレッツェルセル以前はZnO型が主流であり、1968年に色素増感現象を発見した際のセルはZnO単結晶が用いられていた。図のZnO型セルはその改良版に当たる。
改良点は高い結晶性を維持しながらより多くの増感色素を吸着できるようポーラス膜にしたことで、ZnOと相性のいい有機色素(非Ru色素)との組み合わせにより、グレッツェルセルに迫る変換効率が得られる。また、ZnO膜は40〜70℃という低温プロセスで形成できるため、プラスチックフィルム基板を用いたフレキシブルデバイスが容易に実現できる。 |
水蒸気透過率(WVTR:Water Vapor Transmission Rate)
その名の通り、水蒸気をどれだけ通すかを表した値。単位はg/m2/dayで、24時間でm2当たりに透過する水蒸気の重量を表す。食品包装紙、プラスチックフィルム、デバイスのガスバリア膜などのガスバリア性を評価するために用いられる。求められる水蒸気透過性はデバイスによって大きく異なり、ディスプレイデバイスでは電子ペーパーが10-1g/m2/day、液晶ディスプレイが10-2g/m2/day、有機ELディスプレイが10-6g/m2/dayクラスといわれる。
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ストークスシフト
蛍光スペクトルの線や帯が吸収線や吸収帯よりも長波長側へずれる現象。
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スレッショルド(threshold)
日本語では閾値で、境界となる値。この値を境に上下で意味、条件、判定などが異なるような値を指す。電子回路の高電圧と低電圧の区別、プログラミングの条件判定などでしばしば用いられる概念。例えば、TFTでは動作電圧、ディスプレイでは発光開始電圧などでスレッショルドがよく用いられる。
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側鎖
鎖式化合物の分子構造で最も長い炭素原子の連鎖(主鎖)から枝分かれしている部分。また、環式化合物の環に結合している鎖式炭化水素基。
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素子分離
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▲素子分離のイメージ |
有機薄膜太陽電池は数o角サイズという小型ならアノード、有機層、カソードともベタでいいが、大型化するとアノードの抵抗が大きすぎて発熱による電気エネルギーロスがあるため、極端に変換効率が低下する。そのため、素子を分離するケースが多い。この場合、選択肢は@インクジェットプリンティング(IJ)法、各種オフセット印刷法、メニスカスコーティング法で有機半導体材料をダイレクト印刷する、Aフェムト秒レーザービームなどを照射してベタ膜を短冊状にレーザースクライブする、のどちらかになる。ブランク部の幅は数十μmで、ピッチは10o程度と微細化する必要がなく、薄膜シリコン太陽電池と同様、それぞれのレイヤーを数十μmずつずらして分断加工する。 |
タンデムデバイス
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▲タンデム型有機薄膜太陽電池の構造例 |
文字通り、発光ユニットや発電ユニットをスタックしたデバイス。広義では有機ELデバイスでも使われるが、一般的には太陽電池を指すことが多い。
太陽電池では二つの光吸収層をインターレイヤー(中間電極)を介して縦方向に積層する。このため、エネルギー変換効率がシングルセルに比べ大幅に向上する。つまり、タンデムセルでは変換効率を決めるファクターの一つである開放電圧(Voc)が二つの光吸収ユニットの和になる。いうまでもなく、もっとも効果的なのは光吸収波長が異なる半導体材料を用いるケースである。 |
電子オンリーデバイス
有機ELや有機薄膜太陽電池で電子の注入特性を評価するための評価デバイス。例えば、有機ELではメタルカソード/電子輸送層/発光層/電子注入層/メタルカソードという構成の素子を作製し、電子注入特性を評価する。
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電流密度
単位面積に垂直な方向に単位時間に流れる電気量(電荷)で、単位はA/m2。電極の単位面積当たりの電流の大きさを表すのに用いられる。
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突起欠陥
周辺に比べ極端に膜厚が厚くなり、突起物のようにみえる欠陥を指す。とくに問題となるのは平滑性が要求される膜で、絶縁膜、Si膜、マイクロカラーフィルターのRGB着色層などではリペアが必須となる。リペア方法はテープ研磨やレーザー照射が一般的である。
※ステラ・コーポレーションではリベア装置「Repair Vision」を製品化しています。
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バルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池
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▲バルクヘテロ接合型高分子有機薄膜太陽電池の構造例 |
バルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池は、p型有機半導体とn型有機半導体を分子レベルで混合した光吸収層を用いる。低分子型ではp型とn型を共蒸着することによって傾斜組成にしてi層にする。他方、高分子型ではp型材料とn型材料を混合して塗布する。いずれにしてもp型半導体分子とn型半導体分子の接触面積が増えて光電変換効率が向上する。このため、バルクヘテロ接合が事実上のデファクトスタンダードとなっている。 |
バンドギャップ
結晶のバンド構造において電子が存在できない領域全般を指す。ただし、半導体や絶縁体では、バンド構造における電子に占有された最も高いエネルギーバンド(価電子帯)の頂上から、最も低い空のバンド(伝導帯)の底までの間のエネルギー準位を指す。
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p-i-n接合型低分子有機薄膜太陽電池
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▲インライン蒸着(p層、i層、n層連続蒸着)のイメージ |
文字通りp層、i層、n層という3層の光吸収層を設けた有機薄膜太陽電池。アノード基板上にまずp型を成膜した後、p型とn型を共蒸着してi層を形成し、最後にn型を成膜する。i層によってp型半導体分子とn型半導体分子の接触面積が増えて変換効率が向上するため、低分子デバイスのデファクトスタンダードとなっている。
i層は膜厚方向にしたがってグラデーション組成にするため、p型、n型の蒸着源を配置して共蒸着しそれぞれの蒸着レートを随時コントロールするか、またはインライン蒸着装置によりp層、i層、n層を連続蒸着する。 |
p-n接合型有機薄膜太陽電池
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▲p-n接合型有機薄膜太陽電池の基本構造 |
文字通り、p型有機半導体層とn型半導体層を積層した有機薄膜太陽電池。バルクヘテロ型に比べ光電変換効率が劣るため、近年、研究開発は下火になっている。
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PCBM
[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester(フェニルC61酪酸メチルエステル)の略称。フラーレン誘導体で、フラーレンと違い、クロロベンゼン、クロロホルム、トルエンなどの有機溶媒に可溶なため、塗布型有機薄膜太陽電池のn型有機半導体としてよく用いられる。 |
PEDOT/PSS
ポリエチレンジキオシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸の略。代表的な導電性ポリマーで、フレキシブル透明電極のほか、ホール注入特性に優れるため有機ELのホール注入層に用いられる。塗布液は青みがかっており、膜の透明性と比抵抗はトレードオフの関係となる。耐食性が非常に高いため、ウェットエッチング法でパターニングするのは困難で、基本的には各種塗布法や各種印刷法で成膜される。
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ピンホール欠陥
膜中に針でつついたような穴ができた現象を指す。広義では白欠陥に分類される。電極パターンでは完全に断線していない限り問題にならない場合が多い。一方、ディスプレイの画素電極やマイクロカラーフィルターでは大きさによってはリペアが必要になったり、NGになったりするケースもある。
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プリンタブルエレクトロニクス(別名プリンテッドエレクトロニクス)
インクジェットプリンティング(IJ)法、スクリーン印刷法、グラビアオフセット印刷法、凸版印刷法などの各種印刷法でエレクトロニクスデバイスを作製することをいう。別名プリンテッドエレクトロニクスともいう。
従来の真空成膜+フォトリソ法に比べ、@常圧プロセス、A必要な量の材料だけを使用する(エッチングレス)、B比較的低温プロセス、C工程数が材料印刷〜硬化だけと少ない、D省スペース、といったコストメリットがあり、さらに少量多品種生産にも対応しやすい。とくに有効とされるのは有機TFT、有機ELディスプレイ、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、電子ペーパーデバイス、FPCなどで、これらをプリンタブルエレクロニクス技術で生産できれば劇的なコストダウンが図れるとされる。
※ステラ・コーポレーションではプリンタブルエレクトロニクス向けとしてCAD/CAMソフトウェア「Stella Vision」、測長&外観検査装置「STシリーズ/LSTシリーズ」、リベア装置「Repair Vision」を製品化しています。
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HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)
電子に占有されている最もエネルギーの高い分子軌道(最高被占軌道)。これに対し、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)は電子に占有されていない最もエネルギーの低い分子軌道(最低空軌道)。HOMOとLUMO間のエネルギー差はHOMO-LUMOエネルギーギャップと呼ばれる。有機半導体においてはHOMO準位と真空準位のエネルギー差がイオン化エネルギー、LUMO準位と真空準位のエネルギー差が電子親和力となる。
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ホールオンリーデバイス
有機ELや有機薄膜太陽電池で正孔(ホール)の注入特性を評価するための評価デバイス。例えば、有機ELではITOアノード/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/ホール注入層/メタルアノードという構成の素子を作製しホール注入特性を評価する。
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マイグレーション
電子部品のおもな故障原因とさえいえる現象で、配線や電極である金属が絶縁膜上を移動することにより(マイグレーション現象)、電極間の絶縁抵抗値が低下したり、最終的には絶縁不良によって短絡する。マイグレーション自体は、電界の影響によって金属成分が非金属媒体の上や中を横切って移動する現象を指す。
マイグレーションは、移動現象の違いによりエレクトロマイグレーションとイオンマイグレーションに大別される。前者は電子運動によって、後者は電解現象によって発生する。エレクトロニクスデバイスでもっとも問題になるのは後者で、とくに湿度が高いと発生しやすくなる。Ag、Cu、Sn、Pb、Ni、Auなど多くの金属材料で発生するが、とくにAgはもっとも発生しやすいため、導電性がもっとも高いものの、配線材料として敬遠される傾向は否定できない。
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モコン法
正式名称は等圧法。水蒸気透過率を測定する評価法で、フィルムを透過する水蒸気を赤外線センサーで測定することにより水蒸気透過率を定める。測定限界は通常0.01g/m2/dayだが、最近はセンサーの高感度化により10-4g/m2/dayレベルにまで改善されてきた。有機ELデバイスでは10-6g/m2/dayクラスが要求されるため、いわゆる測定限界でないとNGということになる。
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モスアイ
反射防止(Aintireflection)フィルムのひとつで、蛾の複眼のように、光の波長以下の周期の凹凸構造アレイを設ける。この構造により外光を何度も屈折させることができ、反射率を0.1%以下に抑制できるとされる。ただし、凹凸パターンは周期150nm以下、高さ数百nmときわめてハイアスペクト&ウルトラファイン化が求められ、作製方法としてはドライエッチング法やナノインプリント法が知られる。
ディスプレイでは反射率が劇的に抑制され視認性が向上。太陽電池では光取り込み率の向上により光電変換効率の改善を図ることができる。
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有機薄膜太陽電池
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▲高分子有機薄膜太陽電池(タンデムデバイス)の基本構造 |
色素増感太陽電池と並ぶ代表的な有機太陽電池。基本構造はアノード〜p型/n型有機半導体層〜カソードとシンプルで、有機ELと逆のメカニズム、つまり光吸収によって半導体層から電子とホールが発生し、両電極に移動して発電する仕組み。このため、有機EL技術を流用して作製されるのが一般的である。
おもな特徴は、@デバイス構造が比較的シンプル、A超薄膜構造のため、フレキシブル基板を用いれば超薄型軽量&フレキシブル太陽電池が実現する、の二点に集約される。@は既存の結晶シリコン型太陽電池に比べ大幅にローコスト化できること、Aはウェアラブル向けを中心とするモバイルアプリケーションに適していることを意味する。その一方、光電変換効率は現在、チャンピオンデータで10.6%と他の太陽電池に比べ見劣りする。このため、マーケットボリュームの大きい電力・産業用ではなく、モバイル向けや屋内の小型機器向けを中心とする民生用デバイスと位置づけられている。 |
励起子
英語名exciton。半導体あるいは絶縁体中で電子とホールの対がクーロン力によって束縛状態となったもの。一般に、光励起などによる電子-ホールの対生成によって生成される。
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