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芝浦工業大学新技術説明会(7月4日)


芝浦工業大学新技術説明会 銅錯体にレーザーを照射してCu配線を形成

7月4日、科学技術振興機構(JST)主催による「芝浦工業大学新技術説明会」が開かれた。ここでは、「レーザ照射と銅錯体を用いた大気中での銅微細配線形成技術」と題した工学部応用化学科 大石知司教授の講演をピックアップする。


写真1 銅析出状態の比較1)


図1 グリオキシル酸銅錯体の分子構造1)

 大石教授の研究グループが今回の研究で用いたのはグリオキシル酸銅錯体(GACu)。周知のように、耐熱性の低いフレキシブル基板には低温焼結するナノサイズメタルペーストを用いるのが一般的だが、安価でマイグレーションの心配がないCuナノ粒子は酸化しやすいほか、取り扱いが難しく、結果的にコスト高を招く嫌いがある。そこで、合成・取り扱いが容易で安定的な2価錯体であるGACuを用いて新たなパターニングプロセスを開発することにした。

 図1のように、GACuはOH2部位に各種溶媒が結合するためインク化・ペース化が容易である。また、グリオキシル酸は容易に熱分解するため、サブストレートへの成膜後、膜中に残差がないといった特徴がある。

 そこで、CO2レーザー(波長10.6μm)を用いたダイレクトパターニングプロセスによりピュアCu配線を形成することにした。各種コーティング法でGACuインクを塗布後、CO2レーザーを照射してCuを析出。その後、エタノール溶媒によって非照射部を自己整合的にエッチングすることによってCuパターンを得る仕組み。Cu2++2e-→CuというメカニズムによってCuが析出する一方、配位子は気体として脱離する。写真1は通常の熱処理プロセスとレーザー処理プロセスによる銅析出状態の比較で、500℃熱処理したサンプルはN2不活性雰囲気中では導電性を示したものの、大気中処理では導電性を示さなかった。これに対し、レーザー処理サンプルは大気中でも導電性を示し、Cu配線として機能することが確認できた。


図3 銅析出メカニズムの比較1)


図2 レーザー出力と比抵抗の関係1)

 図2はレーザー出力と比抵抗の関係で、レーザー出力を4W以上にすると導電性を発現し、12Wで3×10-5Ω・cmともっとも低い比抵抗が得られた。つまり、レーザー出力を高めると導電性が向上する。これは、図3のようにレーザー照射によって配位子が脱離して微小なCuグレインが生成され、さらにグレイン同士が融着してラージグレインに成長するためと考えられる。これに対し、大気中熱処理では銅が酸化し、結果的に膜が酸化銅になってしまうわけである。

 さらに、マイクロコンタクトプリンティング法でダイレクト印刷したGACu膜をレーザー照射したところ、ミニマム5μmというファインCuパターンが形成できることを確認。くわえて、アルミナ基板上に上記のプロセスでCuパターンを形成した後、Cuを無電解めっきすることによって厚膜化することにも成功。銅錯体とレーザー照射プロセスを用いた今回の研究成果は、サブストレートやプロセスに対し汎用性が高いことも示した。

参考文献
1)大石:レーザ照射と銅錯体を用いた大気中での銅微細配線形成技術、芝浦工業大学新技術説明会資料、pp.3-7(2017.7)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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