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映像情報メディア学会技術報告〜情報ディスプレイ(8月2日)


映像情報メディア学会技術報告〜情報ディスプレイ
ニュープロセスで低熱収縮の超薄型偏光板を開発

8月2日、都内で開かれた映像情報メディア学会主催による「映像情報メディア学会技術報告〜情報ディスプレイ」。ここでは、超薄型TFT-LCD向けの超薄型偏光板と、量子ロッドを用いた広色域ディスプレイの二つの講演をピックアップする。

 まず前者については、日東電工の後藤周作氏が「新規超薄型偏光子の特性と展望」と題して講演した。周知のように、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器用TFT-LCDには薄型化要求が強く、TFT-LCDモジュールの一部である偏光板にも薄型化ニーズが常に求められる。しかしながら、偏光板を薄型化すると、その製造過程の問題から収縮力が強くなり、モジュールの反り、表示ムラ、寸法収縮を誘発する。

 偏光板の薄型方法としては、@偏光子をサンドイッチ状ではさむ上下の保護フィルムを薄くする、A偏光子自体を薄くする、の二つがまず考えられるが、@では偏光子の厚さは変わらないため従来よりも収縮力が大きくなってしまう。他方、Aは原材料であるPVA(ポリビニルアルコール)フィルムを薄くすること自体が非常に難しく、工業的には10μm以下にするのは困難とされる。


図2 新たなPVA積層体プロセスのイメージ1)


図1 従来のPVA積層体プロセスのイメージ1)

 そこで、近年提案されているのがPVAをプラスチック基材上にコーティングしてPVA/プラスチック積層体を作製し、これを延伸し染色して薄型偏光板にするPVA積層体プロセス。しかし、基材に熱可塑性樹脂を用いるため延伸方法に大きな制約があるほか、偏光板としてもっとも重要な光学特性が低下するという致命的な問題があった。

 このため、同社は新たなPVA積層体プロセスを開発した。具体的には、図1のように従来プロセスはプラスチック基材を乾式延伸し、この後、ヨウ素によって染色していたが、この方法ではPVA/ヨウ素錯体の配向性が不十分で、光学特性が低下してしまう。そこで、これらの配向性を高めるため、図2のようにまずヨウ素をPVA中に染色した後、水中下において延伸させることにした。いわゆる水中延伸である。この際、ヨウ素の昇華が起こりにくく、PVA/ヨウ素錯体の配向性も大幅に改善される。

 このニュープロセスを用いた新型偏光子は厚さを5μm以下と従来に比べ80%も薄型化。さらに、加熱時の熱収縮性も60%低減させることに成功した。もちろん、光学特性は従来と同等を確保している。

量子ドット・ロッドを用いて広色域ディスプレイを


図3 QD、QRを用いた広色域ディスプレイの構造2)

 他方、メルクの長谷川雅樹氏はここにきて注目されている半導体量子ドット・ロッドのディスプレイへの応用可能性について講演した。BT2020規格に代表される広色域ディスプレイを実現するには現在主流の白色LED+カラーフィルター(CF)では不可能に近いためであり、量子ドット・ロッドを広色域ディスプレイのキーマテリアルにしようという狙いがある。

 周知のように、現在マーケットで採用されている量子ドット(QD)採用ディスプレイは青色LED光源と緑色QD&赤色QDを組み合わせたものである(図3-(a))。もちろん、この方式でも色再現性を高めることはできるが、自発光する量子ドットのアドバンテージを最大限に生かしているとはいえない。そこで、LCDでは(b)、有機ELディスプレイでは(c)の色変換方式が提案されている。どちらも青色LEDをベース光源に使用し、赤色QDと緑色QDをサブピクセル毎にパターニングし、色再現性を高めるとともに光利用効率を高める狙いである。つまり、これらの方式ではマイクロカラーフィルターレスが実現し、とくにLCDではいわゆる自発光ディスプレイになる。そこで、赤色と緑色のサブピクセル向けとして量子ドット・ロッドを偏光板上にインクジェット印刷することにした。


図4 QDとQRの比較2)


図5 QR色変換膜からの発光スペクトル2)


写真1 バンクの顕微鏡写真2)

 ところで、ディスプレイ用途では一般的に球状のコアに球形のシェルをつけた量子ドット(QD)が用いられる。これに対し、研究グループは球状コアを棒状のシェルで覆った量子ロッド(QR)を用いた。これは、図4のように前者が発光スペクトルと光吸収スペクトルが重なる領域があるのに対し、QRではそうした自己吸収がなく発光効率が高いためである。また、ナノ結晶単体で偏光発光するため、QRを配向させれば偏光発光するシートが容易に得られる。

 今回の実験では、CdSe/CdSコア/シェルを合成。緑色QRは径3nm、長さ20nm、赤色QRは径5nm、長さ30nmである。QRを覆う配位子にはトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)とポリエチレンイミン(PEI)を用いた。これらのQRを水、エタノール、グリセリン混合液に溶解させてインクジェット用分散インクを作製した。インク粘度は3cps、QR濃度は4wt%である。

 色変換サブピクセルのパターニング準備として、まずフォトリソで撥水性バンクをアレイ状にパターニング。バンクの底面は本来親水性のSiO2膜のため、QRインクはバンク底面に沿って付着する。写真1は幅74μm、長さ244μmのサブピクセルで、解像度は80ppiである。

 図5にQR色変換膜ピクセルからの発光スペクトルを示す。R-QRの発光ピークは632nm、半値幅は34nm、G-QRの発光ピークは534nm、半値幅は34nm、色度座標は赤色がx=0.70、y=0.30、緑色がx=0.23、y=0.70だった。この結果、BT2020の80%の色域をカバーすることができた。

参考文献
1)後藤:新規超薄型偏光子の特性と展望、映像情報メディア学会技術報告〜情報ディスプレイ(IDY2016-31〜36)、pp.7-11(2016.8)
2)長谷川:量子ドットならびにロッドのディスプレイへの応用、映像情報メディア学会技術報告〜情報ディスプレイ(IDY2016-31〜36)、pp.13-17(2016.8)

 

 

 

 


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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