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第84回応用物理学会秋季学術講演会(9月19〜23日) |
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9月19〜23日、熊本城ホールほか3会場で開催された「第84回応用物理学会秋季学術講演会」。注目講演を予稿集ベースでピックアップする。 窒素原子を持つ複素環材料を有機ELの電子注入層に まず有機ELでは、信州大学が窒素原子を持つ含窒素複素環化合物を電子注入層に用いた際のデバイス特性について報告した。 ITO膜付き基板をIPA中で煮沸洗浄し、酸素プラズマ処理した後、真空蒸着法によって各層を蒸着してITO/NPBホール輸送層(50nm)/Alq3電子輸送層兼発光層(50nm)/電子注入層(1nm)/Alカソード(150nm)素子を作製した。電子注入材料として、図1に示す計13種類の材料を試した。
一方、複数の材料で駆動電圧の低下が確認できた。とくに、TIMePとDPTPCzは2V以上も駆動電圧が低減した。さらに、TIMePを用いた場合、外部量子効率(EQE)も向上した。加えて、DPTPCzを用いた場合、LiFを電子注入材料として併用したデバイス(ITO/NPB(50nm)/Alq3(50nm)/DPTPCz(1nm)/LiF(0.5nm)/Al(150nm))はLiF単独を電子注入材料として用いたデバイスより駆動電圧が低下した。 転写法とメニスカス法を組み合わせてペロブスカイト太陽電池の電子輸送層を形成 次世代太陽電池としてオーソライズされているペロブスカイト太陽電池では、信州大学の研究グループが作製コスト低減を目指しポストスピンコート法を用いて作製したデバイスについて発表した。
図3のように、従来法で作製した素子はVoc=1.00V、Jsc=15mA/cm、FF=は0.73、変換効率=11.1%だった。これに対し、PCBMをメニスカスコートしZnOを転写した場合、Vocは1.02V、Jscは17mA/cm2、FFは0.65、変換効率は11.2%となった。また、発電層上にPCBMをメニスカスコートしその上にZnOをスピンコートした場合、Vocは0.91V、変換効率は10%に低下した。これらの結果はメニスカスコート法で溶液を往復させながら成膜することによりピンホールが少ない均一膜となり、短絡電流密度が向上したためと考えられる。 容易に想像できるように、PCBMやZnOの使用量はスピンコート法に比べ1/10以下に抑えることができるという。 C60に代わってペリレンジイミド誘導体をペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料に
今回の研究では、非フラーレン系電子輸送材料としてPDI誘導体であるケミプロ化成の「KHSET-02」を使用。その上にBCPもしくはβ-NBphenなどを積層した逆型ペロブスカイトセルを作製し、デバイス特性を評価した。 その結果、図4に示すように電子輸送層に従来のC60/BCPを用いたセルは変換効率18.3%、開放電圧1.13Vであったのに対し、KHSET-02/β-NBphenを用いたフラーレンフリーセルは変換効率17.4%、開放電圧1.16Vだった。このため、PDI誘導体であるKHSET-02は逆型ペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料として有望であることが明らかになった。 トップゲート型IGZO-TFTの光ストレス安定性を評価
今回の実験では、トップゲート型IGZO-TFTに対し基板温度60℃で負のゲート電圧(Vg=-20V)を印加し、2,500ルクスの光照射を行うNBTIストレス試験を実施した。ストレス時間は1万秒間で、ストレス前後で伝達特性を評価した。 図5のように、トップゲート型IGZO-TFTはNBTISストレス後にしきい値電圧(Vth)の正シフトを含む特異な劣化現象を示した。各種電気的特性とデバイスシミュレーションの結果から、前記の劣化現象はおもに@NBTIストレス後における低Vg領域でのハンプ発生、A初期特性に対するVthの正シフト、B初期特性に対するドレイン電流の減少、の三要素に分離できる。この劣化現象はトップゲート型TFTの素子構造・形状にも依存することが確認されており、信頼性向上に向けたデバイス設計の指針が得られた。 ITO膜をミストデポジション法により大気圧成膜 製造プロセス技術では、ニコンと東北大学の研究グループがITO膜をミストデポジション法によって大気圧下で成膜することを提案した。
図6にPETフィルム上に成膜したITOナノ粒子膜の透過率および外観写真を示す。可視光領域において80%以上の透明膜が得られ、還元処理を行うことで500Ω/□以下の電気伝導度を示した。 ナノインプリンティング処理で発生する底部の残膜をレス化 一方、東京理科大学の研究グループはナノインプリンティング法でUV硬化樹脂パターンを形成した後に発生する底部の残膜をレス化するニュープロセスを提案した。 大気下でパターン凸の突起部分に紫外線遮光物質であるAgを接着し、モールドとして用いることで残膜レスのパターン形成を試みた。いうまでもなく、真空プロセスを経る必要がないためスループット向上が期待でき、残膜が発生しないため残膜除去の均一性の考慮が不要という利点がある。 図7にプロセスフローを示す。まず、離型処理済みのL&S=100μmのシリコン製マスターモールド上にAgインクをつまようじで広げて塗布した(a)。次に、Agを成膜するためホットプレートで150℃×5分アニールした(b)。続いて、凸の突起部分に残留したAgを取り除くため、PETフィルムをモールド上部に押し付けながら85℃×5分加熱して離型した(c)。その後、凹の溝部分に残留したAgを取り除くため、UV硬化樹脂をマスターモールドとポリエステルフィルムの間に充填した。フィルムの上からUV光を照射し、離型することでポリエステルフィルム側に転写した(d)。転写したフィルムにはパターンの凸の突起部分にAgが接着。このとき用いたUV硬化樹脂は離型成分を含んでおり、Ag表面の離型性向上のためにOptool-DSX 1%で浸漬処理を行った。次に、UV硬化樹脂をシリコン基板と(d)工程で得られたフィルムの間に充填し、フィルムの上からUV照射して離型(e)。最後に、残膜層であるAgの下領域の未硬化部分をエタノールでリンスした(f)。 この結果、写真1のように残膜レスの100μmのLineパターンが形成できた。
参考文献 1)村井ほか:含窒素複素環化合物の有機ELにおける電子注入活性、第84回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-497(2023.9) 2)小池ほか:電子輸送層を転写法で作製した逆構造ペロブスカイト太陽電池、第84回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-426(2023.9) 3)荒木ほか:非フラーレン系電子輸送材料を使用した逆型ペロブスカイト太陽電池、第84回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-456(2023.9) 4)武田ほか:トップゲート型In-Ga-Zn-O薄膜トランジスタの光劣化メカニズム分析、第84回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、16-012(2023.9) 5)西ほか:ミストデポジションによる高性能ITOナノ粒子の大気圧成膜、第84回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、05-208(2023.9) 6)中村ほか:銀インクを用いた大気下における残膜レスパターン形成、第84回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、06-034(2023.9) |
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