STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。 |
第70回応用物理学会春季学術講演会(3月15〜18日) |
|||||||||||
3月15〜18日、上智大学四谷キャンパス&Onlineのハイブリッド形式で開催された「第70回応用物理学会春季学術講演会」。有機EL、フレキシブルTFT、ペロブスカイト太陽電池に関する注目発表を予稿集ベースでピックアップする。 乾電池1個で有機ELを発光 まず有機ELでは、東工大、JST、富山大、分子研、総研大の研究グループが三重項消滅を介したアップコンバージョン(UC)課程を利用して近赤外光を可視光に高効率変換するUC発光素子を低電圧駆動することに成功した。 今回開発した青色素子では、ドナー材料としてアントラセン誘導体、アクセプター材料としてナフタレンジイミド誘導体、蛍光ドーパントとしてペリレン誘導体を使用。この青色UC-OLEDは462nmにピーク波長を示した(図1-a)。さらに、光エネルギーに相当する電圧の半分程度である1.26Vから発光を開始し、輝度1cd/m2には1.47V、100cd/m2には1.97Vで到達した(図1-b)。これは、従来素子の1/2以下で低電圧発光することを意味する。この結果、1.5Vの乾電池1本で青色発光が得られる(図1-c)。
ITOの結晶性を制御して透明有機デバイスへのダメージを低減 一方、産総研の研究グループは透明有機ELを実現するうえでネックとなっている透明酸化物電極ITOを低応力で成膜してデバイスへのダメージを低減したことを報告した。 実験では、上部ITO電極を対向ターゲットスパッタリング法で成膜した透明有機ELを作製した。ITO膜成膜時は真空チャンバにITOの結晶化を阻害するH2Oガスを10-4Pa程度で微量導入し、その結晶性を制御した。 図2にH2O導入ありとレスの場合のX線回折スペクトルを示す。真空チャンバに7×10-4Paの微量なH2Oを導入すると、ITOは完全にアモルファス化した。図3にH2O導入量とITO内応力の関係を示す。約6×10-4PaのH2Oガス導入により、応力は1.25Mpaから0.3MPaへ減少した。そして、図4のように電流-電圧特性はH2Oガスの導入によって改善された。つまり、ITO成膜時の真空チャンバ内のH2O分圧制御により、透明有機デバイスの特性が改善できることがわかった。
新組成In5GaZnO10でIGZO-TFTのモビリティをさらにUP 酸化物TFTでは、神戸大の研究グループがコンベンショナルなInGaZnO4に代わる組成としてIn5GaZnO10を提案。IGZO-TFTのキャリモビリティを大幅に向上することに成功した。
図6にチャネル長200μmのIn5GaZnO10-TFTのドレイン電流(ID)-ゲート電圧(VG)特性を示す。図のように、作製直後では若干ドレイン電流がゲート電圧で変調するものの、この電圧範囲ではドレイン電流は10mA以下には下がらなかった。他方、作製から13日後・45日後のIn5GaZnO10-TFTではノーマリーオンであるものの、通常のトランスファーカーブが得られ、ID-VG特性から求めた飽和領域のキャリアモビリティは13日後で51.9cm2/Vs、45日後で40.3cm2/Vsだった。これは、時間経過とともにIn5GaZnO10膜表面の酸素欠陥が大気中の酸素を取り込むことでキャリア密度が下がり、作製から13日後以降でIn5GaZnO10膜が半導体的になったためと考えられる。その結果、コンベンショナルなInGaZnO4-TFTを大きく超えるハイモビリティが得られた。 プラスチック製CNT-TFTでも非対称ゲート構造でリーク電流を抑制 酸化物TFTと同様、次世代フレキシブルTFTとして期待されるCNT(カーボンナノチューブ)-TFTでは、名大と産総研の研究グループがリーク電流を低減できる非対称ゲート構造をプラスチックフィルム製デバイスにも応用できることを示した。 背面露光と斜め蒸着法により自己整合的にドレイン-ゲート電極のギャップ長(LGD)を精密形成するプロセスを考案し、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板上に非対称ゲート構造をもつ柔軟なCNT-TFTを作製した(図7)。チャネル長(LSD)は5μm、10μm、50μm、100μm、チャネル幅は100μmである。 半導体性CNTを成膜した後、ソース・ドレイン電極(Ti/Au)を形成。水酸化カリウム/クラウンエーテル(KOH/CE)を用いて電子ドーピングを施した後、Al2O3ゲート絶縁膜(45nm)を成膜した。ゲート電極形成工程では透明なPEN基板を介して背面から露光し、ソース・ドレイン電極をマスクとしてパターンを形成した。次に、基板に対して斜め(角度φ)からゲート電極(Ti/Au)を蒸着した。φは18度、33度、52度と3個のサンプルを作製した。 図8のように、LGDはφにしたがって増加。フォトレジスト高さとφから計算した予想と一致し、φによるLGDの制御が可能であることが確認された。図9は飽和領域におけるリーク電流のLGD依存性で、LGDの増加にともなってリーク電流が減少し、とくにチャネル長の短い素子において非対称ゲート構造の効果が大きかった。これらの結果はプラスチック基板上でも精密に非対称ゲート構造の形成が可能で、リーク電流の抑制が可能であることを示している。
Sn系ペロブスカイト太陽電池で新たな塗布型ホール輸送材料を フレキシブル太陽電池の本命といわれるペロブスカイト太陽電池では、エコロジーなポストPb系デバイスに対する期待が高くなっている。その有力候補がSn系やBi系デバイスで、電気通信大学の研究グループはSn系ペロブスカイト太陽電池(Sn-PVK PV)の新たな塗布型ホール輸送材料について報告した。
Fig.10に塗布型酸化スズ層の作製温度を変えた場合のI-V特性を示す。作製温度が高くなるほど短絡電流密度が高くなり、作製温度350℃のときに光電変換効率8.54%が得られた。 Bi系ペロブスカイト太陽電池でも新たな電子輸送材料を模索 一方、電通大と桐蔭横浜大学はヨウ化銀ビスマス(SBI)系デバイスの特性を改善するため、新たな電子輸送材料として酸化亜鉛ナノワイヤー(ZNW)を用いることを提案した。 実験では洗浄したFTOガラス基板上に酢酸亜鉛二水和物、エタノールアミンのメタノール溶液をスピンコートし、焼成して種結晶層に。この基板を硝酸亜鉛六水和物、ヘキサメチレンテトラミン、ポリエチレンイミンの混合水溶液中に浸漬し、90℃×1hの水熱合成により得られたZNW膜を洗浄・乾燥して電子輸送層を形成した。この後、Ag2BiI5/DMSO溶液をスピンコートしアニールして発電層を形成。そして、P3HTホール輸送層、Au対極膜を積層して試作デバイスを作製した。
参考文献 1)伊澤ほか:乾電池1本で光る青色有機EL、第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-104(2023.3) 2)末森ほか:上部ITO電極の結晶性制御による透明有機デバイスの特性改善、第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-260(2023.3) 3)中野渡ほか:スパッタリングにより作製したIn5GaZnO10薄膜トランジスタの特性評価、第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、16-018(2023.3) 4)堀ほか:自己整合プロセスによる非対称ゲート構造カーボンナノチューブ薄膜トランジスタの作製、第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、15-097(2023.3) 5)北村ほか:塗布型酸化スズ膜を正孔輸送層に用いたスズペロブスカイト太陽電池、第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-078(2023.3) 6)實平ほか:酸化亜鉛ナノワイヤ配向膜を電子輸送層としたヨウ化銀ビスマス-ペロブスカイト太陽電池、第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-081(2023.3) |
REMARK 1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。 2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。 |
フィルムマスクでガラスマスク並みの寸法安定性が得られます。 |