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第83回応用物理学会秋季学術講演会(9月20〜23日)


秋季応用物理学会 新たなプロセスでレジストを高速エッチング&アッシング

9月20〜23日、東北大学川内北キャンパス&ONLINE形式で開催された「第83回応用物理学会秋季学術講演会」。エレクトロニクス関連では、製造プロセス技術でバリュアブルなトピックスが多いように感じられた。注目講演を予稿集ベースでピックアップする。


InリッチIGZO-TFTではO2流量を増やすと半導体特性が改善しモビリティが向上

 まず酸化物TFTでは、神戸大学の研究グループがさらなる高性能化のため組成比を改良したInリッチのIGZO(In5GaZnO10)-TFTについて報告した。


図1 IGZO-TFTのトランスファー特性1)

 実験では、熱酸化膜付きシリコン基板上に高周波電力100WでIn5GaZnO10(IGZO)膜をスパッタリング成膜。成膜時のガス流量はO2/(Ar+O2)比3.33%、6.67%、10%の3種類にした。そして、IGZO-TFTを作製後、大気中で350℃×30分間アニールした。

 図1はチャネル長200μmのIGZO-TFTのドレイン電流(ID)-ゲート電圧(VG)特性で、O2/(Ar+O2)比3.33%と6.67%のIGZO-TFTでは若干ドレイン電流がゲート電圧で変調するものの、この電圧範囲ではドレイン電流は10μA以下には下がらなかった。これに対し、O2/(Ar+O2)比10.%のIGZO-TFTではノーマリーオンであるものの、通常のトランスファーカーブが得られ、ID-VG特性から求めた飽和領域のキャリアモビリティは14.5cm2/Vsecだった。これは、スパッタリング成膜時のO2/(Ar+O2)比が増加したことによりIGZO膜内の酸素欠陥が減少し、キャリア密度が下がってIGZO膜が半導体的になったためと考えられる.

 研究グループは従来、InGaZnO4ではO2/(Ar+O2)比が1%程度で半導体特性が得られることを報告している。つまり、In比率の高いInGaZnOで半導体的な膜を得るにはスパッタリング成膜時に10倍程度のO2流量が必要であることがわかった。

成長初期にDNTT膜を低速蒸着すると平坦性・結晶性が向上


写真1 DNTT膜のAFM像2)
 有機トランジスタ関連では、大阪工業大学と静岡大学の研究グループが代表的な有機半導体材料として知られるジナフトチエノチオェン(DNTT)を成長初期段階で低速蒸着すると平坦性・結晶性の高い膜が得られることを報告した。

 実験では、まず酸化膜付きシリコン基板をアセトン、イソプロパノール、超純水でそれぞれ5分間超音波洗浄した後、UV/O3洗浄した。そして、DNTT膜は圧力10-5Pa以下で真空蒸着した。

 写真1に蒸着速度を0.2分子層(ML)/minで形成した9MLのAFM表面形状像を示す。算術平均粗さ(Ra)は2.76nmと非常に平坦で、写真からも明らかなようにDNTTグレインの分子ステップテラス構造が観測された。また、X線回折実験の結果、XRRフリンジもXRDの00lピークも明瞭に観測されたことから、非常に平坦かつ高い結晶性のDNTT膜が得られた。

WO3/NiO積層膜をEC層に用いることにより2色表示のECデバイスを実現

 電子ぺーパーデバイス関連では、北見工業大学の研究グループが2色表示のエレクトロクロミック(EC)デバイスについて報告した。

 周知のように、タングステン酸化物(WO3)とニッケル酸化物(NiO)は電気化学的な酸化還元反応により色変化するEC材料で、WO3は酸化状態の透明から還元状態の青色へ色変化し、NiOは還元状態の透明から酸化状態の褐色へ色変化する。そこで、2色表示が可能なWO3/NiO積層膜を用いたECデバイスを作製した。


図3 試作素子の透過率スペクトル3)


図2 素子のサイクリックボルタモグラム3)

 実験では、まずITO透明電極付きガラス基板上にRFマグネトロンスパッタ法でWO3、NiO、ITO膜を成膜。続いて、電解質に20%Nafion分散液を用いてITO/WO3/NiO/(ITO)/Nafion/ITOという構造のEC素子を作製した。WO3膜とNiO膜の膜厚は100nmと200nm、NiO膜上のITO膜も有りと無しを作製した。NiO膜上に成膜したITO膜の膜厚は300nm、シート抵抗は50Ω/□、ガラス基板上のITO膜の膜厚は100nm、シート抵抗は20Ω/□である。


写真2 色変化の様子3)
 その結果、NiO膜上にITO膜を形成すると、WO3膜とNiO膜の双方の着脱色が確認できた。また、WO3膜とNiO膜の膜厚が100nmの素子よりも200nmの素子の方が透過率変化が大きかった。図3に、NiO膜上にITO膜を形成しWO3膜とNiO膜の膜厚を200nmにした素子のサイクリックボルタモグラムを示す。測定電位幅は-2.5〜+2.0V、電位走査速度は20mV/seである。この図より、-2.5Vと+0.8VにWO3の還元と酸化、+2.0Vと+1.3VにNiOの酸化と還元に対応した電流ピークが観測されることがわかった。

 そこで、WO3膜とNiO膜がともに還元された(a)点、WO3膜は酸化状態でNiO膜は還元状態の(b)点、WO3膜とNiO膜がともに酸化された(c)点における素子の光学特性を調べた。図4に示した透過スペクトルと写真2により、素子は(a)点では青色、(b)点では透明、(c)点では褐色に色変化することがわかった。つまり、WO3/NiO積層膜を用いることにより青色と褐色の2色表示可能なECデバイスが実現できることが確認できた。

ホール輸送にSAMを用いてペロブスカイト太陽電池の特性を改善

 次世代太陽電池として有力視されるペロブスカイト太陽電池に関しては、埼玉大学と産業技術総合研究所の研究グループがホール輸送層にSAM(Self Assembled Monolayer)を用いることを提案した。


図4 作製した太陽電池のJ-V特性4)

 今回の研究では、ITO透明導電膜付きガラス基板上にSAMをホール輸送層として吸着させ、その上にペロブスカイト層、電子輸送層を積層後、裏面電極を蒸着した。リン酸カルバゾール系SAMは従来材料であるメトキシリン酸カルバゾール(MeO-2PACz)、置換基の異なる新規材料F47、F48を用い、エタノールで希釈した溶液をスピンコートし100℃×10分加熱してITO上に吸着させた。また、ペロブスカイト層はセシウム(Cs)、鉛(Pb)、有機アンモニウム塩としてホルムアミジウム(FA)およびメチルアンモニウム(MA)のヨウ素(I)および臭素(Br)の塩から成るCs0.05(FA0.83MA0.17)0.95Pb(I0.83Br0.17)3組成のペロブスカイトを用いた。

 図4に試作素子のJ-V特性を示す。従来材料(MeO-2PACz)を用いた太陽電池に比べ、F47 を用いた場合は開放電圧(Voc)・曲線因子(FF)が向上し、わずかながら短絡電流密度(Jsc)も向上した。

反応性大気圧熱プラズマジェットでレジストを高速エッチング&アッシング

 製造プロセス関連では、広島大学の研究グループが反応性大気圧熱プラズマジェット(R-TPJ)法によってフォトレジスト膜を高速エッチングするというユニークな研究成果を報告した。そのメカニズムは、ArとO2を用いた反応性大気圧熱プラズマジェットによってワークのエッジ部を局所加熱すると同時にアッシングを行うことにある。

写真4 フォトレジスト膜のSEM像5)


写真3 フォトレジスト膜の顕微鏡像5)
 実験ではSiウェハー上にフォトレジスト(東京応化工業製TSMR iP-3300 17cP)を回転速度4400rpmでスピンコートし、130℃×2分ベークした。アッシングは大気圧下において電極間距離ES=2mm、放電電流I=20A、基板間距離d=1mm、噴出孔径1mmより発生した大気圧DCアーク放電をスキャン速度v=20mm/sで掃引。Arを流量を1.0L/min、O2流量fo2を0.3〜0.7L/minで変化させた。

 写真3にfo2を変えた条件での処理前後のフォトレジストの光学顕微鏡像を示す。R-TPJ 照射により(b)〜(d)に干渉色の変化が観察され、(d)fo2=0.7L/minではSiウェハー表面の露出がみられた。

 写真4に(a)、(d)の試料断面をSEM観察した結果を示す。処理前に1.17μmの厚みであったフォトレジストが(d)の条件で処理後には完全に消失し、残渣のない清浄表面が確認された。以上の結果から、fo2=0.7L/min、v=20mm/sにおいて1.17μm厚の膜を完全にエッチングしていると仮定し、プラズマジェットの照射幅を4mm(写真3-(d))と仮定すると、エッチングレートは少なくとも5.85μm/sと見積もられる。いうまでもなく、これは従来のウェットエッチング法・ドライエッチング法に対してエッチング速度の大幅な向上を示唆する値である。

塗布型ガスバリア膜で10-5g/m2/dayオーダーと世界最高のバリア性能が

 山形大学は、有機ELや有機系太陽電池デバイスのガスバリア膜としてVUV照射で硬化させるPerhydropolysilazane(PHPS)膜を提案。今回、水蒸気透過性(WVTR)を10-5g/m2/dayオーダーと塗布型ガスバリア膜として世界最高の値が得られたことを報告した。


図5 WVTRとPDSN膜厚の関係6)

 実験では、応力緩和層を設けたポリイミド(PI)フィルム上にPHPS膜をスピンコートした。膜厚はPHPS濃度によって制御。N2雰囲気においてPHPS膜にVUV光(波長172nm)を照射し、光緻密化したPHPS-derived SiN(PDSN)膜を形成した(ドーズ量6,000〜72,000mJ/cm2)。

 図5はWVTRの膜厚・VUV照射量依存性で、最もガスバリア性能が高い条件(膜厚200nm、VUVドーズ12,000mJ/cm2)ではPDMS/PHPSの1ユニット構成で1.8×10-4g/m2/dayが得られた。バリア性能は、VUV光反応によるPDSN膜内部の緻密性分布とクラックなどの欠陥形成によって決定される。また、最適条件で形成した3ユニットのWVTRは4.8×10-5g/m2/dayに達し、従来の塗布型ガスバリア膜に比べ2桁の性能向上がみられた。

マスクレスのレーザー光還元法でサブミクロンのファインメッシュ電極を

 一方、静岡大学の研究グループはフレキシブル透明電極としてレーザー光還元法によってAgラインをファインパターニングしたメタルメッシュ電極を発表した。


写真5 レーザーパワー3mW、描画速度10μm/sで作製したAg細線のSEM画像7)


図6 レーザー光還元によるメタルメッシュ透明電極の作製イメージ7)

 図6はレーザー光還元法のプロセスイメージで、マスクレス方式であるため、使用用途に応じて大きさや形状の異なる多種多様な製品の作製に適する。用いる光還元材料はポリイミド前駆体に硝酸銀を混合したポリマーである。いうまでもなくAgは抵抗率が低く、延性に優れており、屈曲に対する導電性の損失が抑制できる。このプロセスでは、波長405nmの青色半導体レーザーを光還元材料に集光照射することにより、焦点域において局所的に銀イオンを還元する。レーザーパワーは1〜10mW、描画速度は1〜1000μm/sで、Ag細線の線幅と抵抗率の依存性を調べた。

 写真5にレーザーパワー1.5mW、描画速度100μm/sで作製したAg細線のSEM画像を示す。線幅は0.71μmと目視では識別できないサブミクロン線幅が得られた。抵抗率はレーザーパワーの増加と描画速度の低下にともなって向上し、レーザーパワー5mW、描画速度1μm/sで最小抵抗率2.0×10-7Ω・mを達成した。

参考文献
1)中野渡ほか:In5GaZnO10薄膜トランジスタの特性評価、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、16-093(2022.9)
2)廣芝ほか:低速蒸着法によるジナフトチエノチオフェン(DNTT)薄膜の成長過程、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-107(2022.9)
3)阿部ほか:WO3/NiO積層膜を用いたエレクトロクロミック素子の光学特性、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、05-033(2022.9)
4)千明ほか:ペロブスカイト太陽電池におけるホール輸送層としての自己組織化界面修飾材料(SAM)の検討、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、07-074(2022.9)
5)加藤ほか:反応性大気圧熱プラズマジェットを用いたフォトレジストの超高速エッチング、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、07-074(2022.9)
6)佐々木ほか:ガラス並みの高バリア性能を有する塗布型PHPSバリア膜の開発、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-361(2022.9)
7)隼瀬ほか:銀細線レーザーパターニングによるフレキシブル透明電極の開発、第83回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、06-003(2022.9)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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