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第67回応用物理学会春季学術講演会(中止:3月12〜15日)


第67回応用物理学会春季学術講演会 プラスチック基板向け転写プロセスの提案が相次ぐ

新型コロナウイルスの影響で開催中止となった「第67回応用物理学会春季学術講演会」。中止決定前に講演予稿集DVDが完成していたため、主催者の応用物理学会は講演発表は成立したと判断。このため、予稿集ベースで注目発表をピックアップする。

水素ドープ&高In組成でIGZO-TFTの特性を向

 まず酸化物TFTでは、高知工科大学の研究グループがIGZO(In-Ga-Zn-O)に水素をドープし、さらにIn比率を高めることにより低温プロセスでも高いキャリアモビリティが得られることを示した。


図1 (a)高In組成IGZOのキャリア濃度のスパッタリングR(H2)依存性, (b)最高温度150℃で作製した高In組成IGZO:H-TFTの伝達特性1)

 今回の実験では、RFマグネトロンスパッタ法で酸素比率R(O2)=10%のもと、高In組成IGZO:H膜を水素比率R(H2)を0〜9%にして30nm成膜。アズデポおよび150℃大気アニール後のキャリア濃度をHall測定により評価した。TFTは膜厚20nmの陽極酸化Al2O3をゲート絶縁膜に、高In組成IGZO:Hをチャネルに用い、最高プロセス温度150℃で作製した。チャネルのW/L=66/20μmで、パターニングはすべてフォトリソグラフィ法を用いた。

 図1-(a)に高In組成IGZOキャリア濃度(ne)のスパッタリングR(H2)依存性を示す。アズデポ膜ではR(H2)≦2%ではneは測定下限だったが、R(H2)≧5%でne>1019cm-3に急増した。一方、これらの膜を150℃で熱処理すると水素未導入膜ではne=5×1018cm-3に増大した反面、水素導入IGZO:H膜はne=3×1017cm-3と水素未導入膜に比べ1桁以上小さく、かつR(H2)=2〜9%でほぼ一定のneを示した。

 図1-(b)に最高温度150℃で作製した高In組成IGZO:H-TFTの伝達特性を示す。陽極酸化Al2O3ゲート絶縁膜は20nmと極薄膜にもかかわらずゲート電流≦1pAであり、モビリティ19.4cm2/Vs、S値0.13V/decと優れた特性が得られた。

ダイレクト光パターニング法はIGZO以外の塗布型酸化物半導体にも有効

 一方、NHK放送技術研究所は独自開発した塗布型酸化物半導体のダイレクト光パターニングプロセスの有効性を報告した。

 まず硝酸インジウム、硝酸ガリウム、硝酸亜鉛を所定の割合で調整し、純水および2-メトキシエタノールを溶媒に用いて半導体前駆体溶液を作製。この前駆体溶液を熱酸化SiO2ゲート絶縁膜付きシリコンウェハー上にスピンコートした。その後、塗布膜にマスクを介して深紫外線を照射して光酸化処理を行った。次に、ウェットエッチング処理で半導体層をパターニングした後、大気中で350℃焼成した。ちなみに、Moソース/ドレイン電極はメタルマスクを用いてスルー蒸着した。

 写真1はパターニングした酸化物膜パターンで、水溶媒比率が高いほど光照射部に均一なパターンが形成された。また、水溶媒溶液を用いて作製したTFTは良好なスイッチング特性を示し、フォトリソグラフィで作製したTFTと同等のモビリティ(5.0cm2/Vs)が得られた。さらに、IZO、InOといった別の酸化物材料でも水溶媒を用いると均一なパターンが形成されTFTも良好な特性を示した。


写真1 光パターニング法で形成した塗布型IGZO膜の顕微鏡写真2)
 これらの結果から、塗布型酸化物の光パターニング法では水溶媒が有効であることがわかった。これは、水の光分解によって生じるヒドロキシラジカルが酸化剤として効果的に作用するためと考えられる。いうまでもなく、カーボンに由来する不純物を排除可能な水系塗布材料へ適用できるため、この方法は良質な塗布型酸化物を簡易に作製する技術として有効といえる。

シリコンウェハー上の単結晶Si膜をプラスチック基板上に繰り返し転写

 フレキシブルデバイス向けTFTでは、広島大学の研究グループが単結晶シリコンウェハー上に作製した高性能Si膜をプラスチックフィルム基板に繰り返し転写可能というユニークなニュープロセスを報告した。


図2 MLTプロセスのイメージ3)

 図2に、独自開発したMLT(Meniscus force-mediated Layer Transfer)技術を用いた単結晶Si(c-Si)膜転写プロセスを示す。まず、中空構造を作製するため、SOI(Silicon on Insulator)層をドッグボーン形状にパターニングする(a)。続いて、400nm四方のレジストドットをマスクとして極微細なSiO2 pillarを形成するため、PSI(Pillar Shaping Implantation;P+:1.0×1014、130keV)を行う(b)。そして、BOX(Buried Oxide)層を濃度10%のHFでウェットエッチングし、中空構造のc-Si膜を支えるSiO2 pillarを形成する(c)。この中空構造c-Si膜とPET基板を純水を介して対向密着させ80℃のホットプレート上で水分を蒸発させる。この結果、両基板を引きつける強いメニスカス力が誘起され、c-Si膜がPET基板上へ低温転写される(d)。


図3 局所転写のメカニズム3)

 図3にc-Si膜の局所転写プロセスイメージを示す。PET基板上の非転写領域に疎水性薄膜を30nm堆積させて疎水性領域を形成し、400μm四方の転写領域に対しUVO3処理を行って親水性パターニングを行った(a)。このPET基板を純水に浸漬後、引き上げると親水性領域のみに自己整合的に純水が配置され(b)、この状態でc-Si薄膜と対向密着させることにより、局所転写される(c)。


写真2 光学顕微鏡像3)
 この際、接触角は疎水性領域が114度、親水性領域が30度だった。この高い濡れ性勾配により純水はMLTの際にメニスカス力によって両基板から引きつけられても親水性領域内にピニングされ疎水性領域へ拡大することなく、c-Si膜は親水性領域内のみで局所転写される(写真2)。写真より転写されていない領域の中空構造c-Si膜はダメージなく元の形状を維持していることがわかる。このことから同一SOIウェハーから複数のプラスチック基板へ繰り返し転写が可能となる。今回、液滴量は3nL程度に過ぎないため、局所転写は約20秒と短時間で行われた。これらの結果から、この技術を応用するとプラスチック基板上の必要な領域のみに局所的にc-Siデバイスが高歩留まり、低コスト、高スループットで作製できることが確認できた。

撥水性Cytop上に低分子有機半導体膜を塗布成膜

 有機TFTでは、東京大学と産業技術総合研究所の研究グループが表面エネルギーが低いために緻密なアモルファス有機半導体膜が形成できるゲート絶縁膜材料Cytop上に低分子有機半導体膜を塗布成膜することに成功した。


図4 (a)塗布成膜した単結晶有機半導体膜のクロスニコル像 (b)ボトムコンタクト構造有機TFTの断面図 (c)トランスファー特性 (d)ゲート電圧とSSの関係4)

 今回の実験では、低分子系半導体材料として層状結晶性材料Ph-BTNT-Cnを使用。この低分子有機半導体を溶液を一方向に掃引するブレードコート法でCytop上へ塗布成膜した。Cytop上で得られた塗布膜は、クロスニコル観察から数mm2サイズの単結晶ドメインを有する結晶性薄膜であることが確認された(図4-(a))。この成膜法はあらかじめゲート絶縁膜上にソース/ドレイン電極を設けたデバイス表面にも適用可能で、今回は蒸着Auを用いたボトムゲート・ボトムコンタクト型TFTを作製した。

 試作デバイスは2V以下で低電圧駆動し、ヒステリシスがほぼ消失。かつ4.4cm2/Vsと比較的高いモビリティが得られた(c)。さらに、サブスレッショルド領域において平均72mV/decと理論限界に迫る高急峻なスイッチング特性を示した(d)。

新たな転写法で高移動度有機TFTを作製


図5 (a)半導体膜の転写イメージ (b)8 × 8 cm C9-DNBDT-NW filmの顕微鏡像 (c)電極フィルムの構造と転写イメージ (d)トランスファー特性5)

 他方、東京大学、物質・材料研究機構、JST、パイクリスタルの研究グループは製造プロセスの自由度を広げるため、有機半導体層とソース/ドレイン電極をそれぞれ別の基板で作製した後、転写する新たな転写プロセスを報告した。

 図5-(a)のように、超親水性のガラス基板と高撥水性の有機半導体単結晶膜の表面エネルギー差を利用し、水のみを用いて単結晶膜を転写する。p型有機半導体C9-DNBDT-NWの単結晶膜を成膜・転写したところ、8cm角の大面積で転写することに成功した(b)。他方、剥離層付き基板上で電極をパターニングし、その上に薄いPMMA層および厚い水溶性ポリマーPVA層を塗布した後、剥離することで電極フィルムを作製する。これをC9-DNBDT-NW単結晶薄膜上に貼り付けPVA層を水に溶解させると、薄いPMMA層の静電気力によって電極フィルムが貼り付く(c)。この結果、単分子層単結晶膜を用いて10cm2/Vsクラスというハイモビリティを有する有機TFTが作製できた(d)。

レーザー照射によってナノカーボン膜を転写パターニング

 ナノカーボン関連では、東京理科大学の研究グループがCNT(カーボンナノチューブ)膜をレーザー照射によってプラスチック基板上に転写・ダイレクトパターニングするプロセスを発表した。

 図6にプロセスイメージを示す。まず、有機溶媒で脱脂したガラス基板表面にマルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)を基板温度150℃でスプレー噴霧してMWNTフィルムを作製。この際、MWNTは市販の名城ナノカーボン製MW-Tを用いた。そして、MWNT膜付ガラス基板とポリプロピレンフィルム(PP)を接合し、ガラス基板側から波長450nmのCWレーザー光を照射した。


写真3 描画線幅とレーザーパワーの関係6)


図6 MWNTパターンの転写イメージ6)

 この結果、レーザー照射部はMWNTとPPがコンポジット化し、PPフィルム表面にMWNT配線が形成される。写真3はMWNT配線の光学顕微鏡像で、レーザーパワーに応じて線幅が制御できる。最小線幅は約30μmで、加工速度に応じて線幅が制御できることがわかった。さらに、MWNTのみならず、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWNT)やグラファイトも転写できることが確認できた。

蒸着温度によって有機ELの自発配向分極が制御可能

 有機ELに関しては、九州大学とJSTが蒸着アモルファス有機膜の基板温度(Tsub)とデバイス特性の関係を調べた成果を報告した。

 真空蒸着したアモルファス膜では、分子配向異方性に由来した自発配向分極(SOP)が発現することが知られる。そこで、研究グループはTsubによるアモルファス膜の構造制御がSOPと有機EL特性に与える影響を調べた。

 有機ELデバイス中のSOPの解析には、ヘテロ界面でキャリアが再結合するシンプルな2層構造が適する。このため、過去にTsubとアモルファス構造の関係を検討したホール輸送材料α-NPDと蛍光・電子輸送材料Alq3からなる有機EL[ITO/α-NPD(100nm)/Alq3(80nm)/LiF(0.8nm)/Al(100nm)]を作製した。ITOアノード基板上に膜密度が最大となるTsub=275℃でα-NPD膜を真空蒸着した後、240〜330℃でAlq3膜を蒸着し、最後に室温でLiF/Alカソードを蒸着した。


図7 基板温度とヘテロ界面の蓄積電荷密度・外部量子効率の関係7)

 SOPを検討するために、変位電流測定(DCM)により見積もったヘテロ界面の蓄積電荷密度の絶対値σintをAlq3蒸着中のTsubについて図7にプロットした。高Tsub条件においてSOPの小さいAlq3層が形成されたことによりσintが減少したと考えられ、Tsubによる単一材料薄膜のSOP制御が可能であることが示された。駆動電圧6Vにおける電流密度Jを比較したところ、高Tsub条件においてJが減少した。これは、Alq3層のSOPが減少したことでAlq3/陰極界面に形成されるダイポールの寄与が減少し、カソードからの電子注入に不利に働いたためと考えられる。

 J=20mA/cm2における外部量子効率EQEをAlq3蒸着中のTsubについて図7にプロットした。EQEの増加率は最大42%(0.65% at 246℃→0.92% at 328℃)であり、著しいTsub依存性を示した。増加分のうち、15%は不純物に由来する蛍光量子収率の変化(5%)および分子配向に由来する光取り出し効率の変化(10%)によって説明できる。残る27%の増加分には、キャリアバランスの変化およびヘテロ界面の蓄積電荷による一重項励起子-電荷消滅(SPA)の寄与と推測される。

参考文献
1)古田ほか:水素化InGaZnOxによる高移動度薄膜トランジスタの低温作製-1〜高In比率IGZOへの水素添加効果〜、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、15-005(2020.3)
2)宮川ほか:塗布型酸化物TFTにおけるダイレクト光パターニング、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、15-008(2020.3)
3)平野ほか:単結晶シリコン薄膜のプラスチック基板上への局所転写に関する研究、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、11-375(2020.3)
4)北原ほか:Cytop絶縁層上への低分子系半導体の塗布製膜と高急峻TFTスイッチング、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-347(2020.3)
5)牧田ほか:転写法を用いた有機単結晶トランジスタ作製、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-346(2020.3)
6)磯前ほか:レーザー熱転写法によるナノカーボン配線形成技術の開発、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、14-006(2020.3)
7)江崎ほか:有機アモルファス薄膜の構造制御と有機ELデバイス特性、第67回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-136(2020.3) 。

REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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