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第65回応用物理学会春季学術講演会(3月17〜20日) |
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3月17〜20日、早稲田大学・西早稲田キャンパスで開かれた「第65回応用物理学会春季学術講演会」。私見では、有機ELや酸化物TFTでデバイス信頼性を改善する報告が目立っていたように感じた。おもなトピックスをレポートする。 有機蒸着膜は多層にすれば熱安定性が向上 まず有機EL関連では、山形大学の研究グループがアニールプロセスに対する有機蒸着膜の熱安定性を評価した結果を報告した。 周知のように、真空蒸着した有機膜はアニールプロセスによって分子配向性や膜密度が変化し転移が発生する。そこで、膜構成によって転移温度がどう変化するかをin-situエリプソメトリー分析によって評価した。
まず、シリコン基板上にクラシックなホール輸送材料であるα-NPD膜を膜厚100nmで真空蒸着し、昇温速度1℃/minでアニールしたところ、アニール温度111℃で転移が発生した。次に、その上部にTg=152℃のTCTAを成膜したα-NPD/TCTA積層膜を評価したところ、120℃まで転移が発生しなかった。これは、分子運動の自由度が高いα-NPD単層膜の露出した表面をより転移温度の高い有機材料で覆うことによって積層界面のα-NPD分子の運動自由度が低下し、転移のスタートが抑制されたためと考えられる。また、TCTA膜の膜厚に応じて転移のタイミングが遅れたが、膜厚10nm以上ではこうした転移の抑制が飽和し変化がなかった。 さらに、TCTA/NPD/TCTA3層膜では転移温度120℃、転移完了時間5.1分ともっとも転移が抑制された。ここでα-NPD膜の膜厚を20nm、100nm、150nmと変えて評価したが、転移温度の膜厚依存性はみられなかった。いずれにしても今回の研究成果からTgの低い有機蒸着膜を用いる場合、Tgの高い別の有機膜と多層化すれば熱安定性が改善できることが示唆されたわけである。 新たな無機材料を有機ELのホール注入層に
代表的な酸化物半導体であるアモルファスIGZO(In-Ga-Zn-O)を発掘したことで知られる東京工業大学の研究グループは、新たな無機酸化物材料を有機ELのホール注入材料として用いることを提案した。 新たに発掘したのは既存のアモルファス酸化物半導体(AOS)とMoOxの2成分系で、有機層のHOMO準位に匹敵する大きな電子親和力が得られる。コンベンショナルなスパッタリング法で成膜したアモルファスIn-Mo-O(In:Mo=7:3)膜はバンドギャップ3.1eV、電子親和力5.6eV、ホールモビリティ1cm2/V・sを示す。これをホール注入層に用いた試作デバイス(ITOアノード/ホール注入層/α-NPDホール輸送層/Alq3発光層兼電子輸送層/LiFバッファ層/Alカソード)を作製し特性を評価したところ、リファレンスであるMoOxホール注入層素子に比べ特性が大幅に向上した。さらに、ホール注入層の膜厚を95nmと厚くしても薄膜素子(0.7nm)と特性はほぼ同じで、膜厚依存性がみられなかった。このため、比較的厚膜のIn-Mo-Oホール注入材料を用いれば、リーク電流の抑制や歩留まり向上が期待できるとしている。 低ダメージ対向ターゲットスパッタ法がさらに進化しダメージをミニマム化 有機ELのメタルカソードを低ダメージスパッタリング法で成膜する研究で知られる東京工芸大学の研究グループは、メタル膜スパッタ成膜時の有機膜へのダメージをミニマム化するため、赤外線加熱を併用することを提案した。
今回の研究では、ガラス基板上にITOアノード(70nm)/ITOバッファ層(0.6nm)/NPBホール輸送層(40nm)/Alq3発光層兼電子輸送層(30nm)/BCPホール素子層(30nm)/LiFバッファ層(0.6nm)/Alカソード(40nm)という構成の素子を作製。電極膜の成膜にはローダメージ法として知られる対向ターゲット式スパッタリング装置を用いた。そして、上部Al膜はスパッタ装置内に配置したヒーター(ハロゲンランプ、カンタル線ヒーター)によって赤外線を照射しながら成膜した。 図2に、ハロゲンランプで赤外線を照射しながら上部Al膜を成膜した素子の発光特性を示す。図中に示した電圧、電流はハロゲンランプに加えた電圧・電流である。Al膜が堆積すると赤外線反射が起こるために基板裏面に貼ったサーモプレートの温度は43℃以下に保たれているものの、赤外線照射を最適化することにより、発光開始電圧がコンベンショナルな蒸着素子と同等になることがわかる。また、図3から赤外線照射条件に依存して電流-発光特性が変化し、最適化すると上部Al電極を蒸着法で成膜した素子よりも良好な特性が得られた。 IGZOの表面を露出させずにアニールするとTFT特性・信頼性とも向上
酸化物TFTでは、日本大学と住友金属鉱山の研究グループが成膜後のアニール方法によってa-IGZO-TFTの特性を改善した研究成果を報告した。 周知のようにIGZOは蒸気圧が高いため、成膜後、表面が露出したアズデポ状態でアニールすると膜質が変化し、とくにNBIS(Negative Bias Illumination Stress)環境でVthシフトが顕著になる。このため、実際のデバイスではパッシベーションが必須となるが、それでもデバイスプロセス中に膜質が劣化する危険が否めない。そこで、成膜したa-IGZO膜の表面を露出させずにアニールしてデバイス特性を評価した。 具体的には、a-IGZO膜を成膜したシリコンウェハー基板を裏返した状態、およびガラス基板で上部をカバリングした状態で大気雰囲気において350℃×1時間アニールした。なお、IGZO膜は150W、0.5Paの条件でO2:Ar比100:1で成膜し、SiO2保護膜でパッシベートした。 この結果、図4のように通常の方法でアニールしたリファレンスデバイスに比べキャリアモビリティ、サブスレッショルドスイング特性とも大幅に向上。さらに、図5のようにNBIS特性も改善されVthシフトが抑制されることがわかった。いうまでもなく、これらはZnOが揮発しにくくなり組成比がほとんど変化しないためと考えられる。 ELA処理により塗布型酸化物TFTの特性を改善 一方、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と九州大学の研究グループはウェットプロセスで作製したInZnO-TFTについて報告した。
今回の実験では、エキシマレーザーアニール(ELA)処理やUV処理といった光アシストプロセスによってInZnOを活性化させるため、ボトムゲート/トップコンタクト構造を採用。まず、InZnOプリカーサ溶液をSiO2ゲート絶縁膜付きシリコンウェハー基板上に膜厚10nmでスピンコートし、300℃で焼成。この一連のプロセスを5回繰り返して最終的にInZnO膜の膜厚を50nmにした。そして、RFスパッタリング法によってPt膜を20nm、Mo膜を80nm成膜してソース/ドレインを形成した。 図6にELA処理前後のトランスファー特性を示す。ELA処理前はモビリティが平均0.15cm2/V・sに過ぎなかったのに対し、処理後は平均3.3cm2/V・sと劇的に向上した。これは、表2のようにELA処理またはUV処理によってInZnO膜のシート抵抗値が減少したためである。 さらに、こうした現象を積極的に利用することによって図7のようなオールウェットプロセスデバイスを作製。つまり、UV光を照射することによって露出した面は半導体から電極に、一方、トップゲートにマスキングされたままのチャネルは半導体のまま自己整合的にパターニングするわけである。 SAMにVUVを照射して電極の仕事関数を制御
有機TFT向けプロセス技術では、東京大学の研究グループがSAM(Self Assembled Monolyaers)を用いて無機電極と有機半導体の電荷注入障壁を低減することを提案した。 試作したのはガラス基板/Cr/Au/FSAMというシンプルな積層デバイスで、まずガラス基板上にCr膜を膜厚1nm、Au膜を30nmで真空蒸着した。この後、基板をフッ素化SAM(1H, 1H, 2H, 2H- perfluorodecanethiol:PFDT)のエタノール溶液(3mM)に18時間浸漬しSAMを形成。そして、波長172nmの真空紫外光(VUV)を照射し表面改質した。 図9に表面改質したデバイスにおける水の接触角を示す。接触角は表面改質時間によって115〜29度の範囲で変化。さらに、大気中光電子収量法により仕事関数を測定したところ、5.7eV〜5.0eVの範囲で連続的に制御できることが確認できた。 参考文献 |
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