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第76回応用物理学会秋季学術講演会(9月13〜16日)


秋季応用物理学会 有機トランジスタでユニークな発表が相次ぐ
酸化物TFTでは望ましい酸化物半導体のスパッタ成膜条件が明らかに

9月13〜16日、名古屋国際会議場で開かれた「第76回応用物理学会秋季学術講演会」。講演予稿集をベースにおもな講演をピックアップする。

逆構造有機ELの電子注入層はPEIがベスト

 まず有機EL関連では、大阪府立大学が透明カソード上に電子注入層を設けた逆構造有機ELの特性を報告した。


図2 試作デバイスのモジュラスプロット1)


図1 試作デバイスのJ-L-V特性1)

 実験では、AZO透明カソード上に電子注入層としてCs2CO3およびポリエチレンイミン(PEI)をスピンコート成膜した。この後、発光層としてPF8BTをスピンコートして乾燥。最後に、アノードとしてMoO3とAlを連続蒸着し、封止した。素子構造はAZO(膜厚150nm)/PEIまたはCs2CO3/F8BT(150nm)/MoO3(10nm)/Al(50nm)である。

 図1は電流密度-輝度-電圧(J-L-V)特性で、PEIデバイスの方がより低電圧で高輝度な発光が得られた。いうまでもなく、これはCs2CO3に比べ電子注入特性が高いためと考えられる。また、2V付近の電流閾値電圧以下における暗電流から、PEIおよびCs2CO3の存在によってホール阻止能力が大幅に改善されることがわかった。

 図2に直流印加電圧1.5Vにおけるモジュラスプロット(Mplot)を示す。それぞれのデバイスで異なる挙動が観測され、とくにAZO上に直接F8BTを成膜した電子注入層レスデバイス(iOLEDs)と電子注入層ありデバイスではMplotに大きな違いがみられた。これは、F8BTと電子注入層界面付近の電子状態が電子注入層レスデバイスとは異なるためと思われる。

酸化物半導体膜に適したスパッタリング成膜条件とは

 a-Si TFT、低温poly-Si TFTに次ぐ第三のディスプレイ用TFTとして認知されてきたIGZO(In-Ga-Zn-O)-TFTでは、IGZO酸化物半導体の発掘者である東京工業大学 細野秀雄教授の研究グループが酸化物半導体膜のスパッタリング成膜条件について報告した。

 酸化物半導体のRFスパッタリング成膜プロセスでこれまでに報告されている傾向をまとめると、@RF電力が高いほどTFT特性が向上する、A全圧が低いほど膜密度が高くなり欠陥が少なくなる、B基板-ターゲット間距離が広いとTFT特性が悪化する、C酸素分圧は膜の電気伝導度が10-3〜10-6S/cmになるようにするのが望ましい、という4点が共通認識となりつつある。

 これらのうち、@、A、Bはスパッタリング法で成膜する際に一般的に考えられることとは整合しない。これらの条件では成長薄膜に対するイオン衝撃が大きくなり、結晶性が低下すると考えられるためである。しかしながら、酸化物半導体膜は基板をアニールしないか、もしくは100℃程度の低温で行うのが一般的である。そのため、堆積前駆体が成長表面に付着した後に安定構造性を形成するには前駆体自身が運動エネルギーを持つか、プラズマからエネルギーを与えられる必要がある。分子動力学法などで高エネルギーのイオン衝撃により緻密な膜が形成される機構が報告されており、実際、a-IGZOではこのような条件で高密度が得られる。一方で、イオン衝撃による欠陥生成が気になるが、アモルファス酸化物半導体ではイオン結合性が強いため、構造の乱れによって欠陥が発生しにくいという特長があり、実際、上記の条件で作製したTFTはポストアニールしなくても良好な特性が得られる。さらに、室温成膜する場合も均一性、安定性を向上させるには300〜400℃でポストアニールするのが一般的であり、これもイオン衝撃によって形成した欠陥を低減していると理解できる。

 他方、Cに関しては成膜時の酸素分圧が低いと酸素欠損によりドナーを形成するとともに、膜密度が低くなり価電子帯直上欠陥の密度が増加する。また、酸素分圧が高すぎると、結合の弱い過剰酸素が電子捕獲順位を形成することから狭い最適酸素分圧範囲があると考えられる。

トップゲートをマスクにしてトップゲート・セルフアラインIGZO-TFTを作製


図4 IGZO-TFTの伝達特性3)


図3 トップゲート・セルフアラインIGZO-TFTの構造3)

 一方、高知工科大学の研究グループは塗布型有機ゲート絶縁膜を用いたトップゲート・セルフアライン型IGZO-TFTについて報告した。コンベンショナルなボトムゲート構造ではなくトップゲート構造を選択したのは、その形成順序からIGZOの金属原子がゲート絶縁膜中に拡散することがないため。さらに、セルフアライン構造にしたのはソース/ドレイン電極とゲート電極の重なりがないため寄生容量がミニマム化でき、結果的に高速動作が容易になるためである。

 図3にデバイス構造を示す。IGZO酸化物半導体膜をスパッタリング成膜しフォトリソでパターニングした後、熱硬化型シクロオレフィンポリマーを主成分にしたZEOCOAT(日本ゼオン製)を膜厚400nmでスピンコート成膜し、150×60minで熱硬化させた。この後、Alトップゲート電極を真空成膜&フォトリソで形成。このトップゲート電極をセルフアラインマスクにしてゲート絶縁膜をO2プラズマでドライエッチング。続いて、HeプラズマによってIGZOを低抵抗化し、n+のソース/ドレイン領域を形成した。この後、層間絶縁膜としてZEOCOATを膜厚700nmで塗布し、フォトリソでコンタクトホールを形成。最後に、Mo/Al/Moソース/ドレイン電極を真空成膜&フォトリソで形成した。

 図4に作製後、200℃×60minアニール処理したデバイスの伝達特性を示す。CV法で算出したZEOCOATの比誘電率は約3.6Vで、ゲート絶縁膜の膜厚が400nmと厚いにも関わらず、キャリアモビリティ7.8cm2/V・s、Sファクター0.28V/dec、ヒステリシス0.4Vと良好な特性が得られた。

ゲート絶縁膜自体をサブストレートにしたフレキシブル有機トランジスタが

 有機トランジスタでは、今回ユニークな報告が相次いだ、まずは山形大学と科学技術振興機構(JST)の研究グループが発表した基板レスデバイスで、ゲート絶縁膜自体をサブストレートにすることにより基板をレス化することに成功した。
 
  プロセスフローは、まず支持体であるガラス基板上にテフロン(AF1600)をスピンコート成膜して剥離層を形成。その上にAu膜を膜厚50nmで真空蒸着してゲート電極を形成した。続いて、ゲート絶縁膜兼基板フィルムとしてパリレン(diX-SR)を膜厚250nmで気相重合成長反応により成膜。有機半導体層はジナフトチエノチオフェン(DNTT)を膜厚50nmで、ソース・ドレイン電極はAuを膜厚50nmで真空蒸着した。最後に、膜厚250nmのパリレンを成膜して封止した。支持基板から剥離後のデバイス全体の膜厚は500nm、有機層・金属部分を加算しても650nmである。図5からわかるように、有機トランジスタの電極と半導体部分は曲げた場合の歪み中間位置に形成されていることになる。


図5 基板レス有機トランジスタの断面構造4)


図6 試作デバイスの伝達特性(a)と圧縮歪みに対するモビリティとVthの変化量(b)4)

 図6-(a)は剥離後、圧縮試験を行った際の伝達特性で、初期状態から50%に圧縮した状態でも伝達特性はほとんど変化しなかった。キャリアモビリティは圧縮前で0.42cm2/V・s、50%圧縮中で0.41cm2/V・sと、圧縮歪みに対して安定していることが確認できた。圧縮前の値を1としたときの圧縮歪みに対するモビリティとVth変化量を図6-(b)に示す。50%圧縮時の平均変化量はモビリティが4.4%、Vthが0.2%に過ぎず、圧縮歪みを印加しても複数の素子が極めて安定的に動作することがわかった。

無溶媒プロセスで有機半導体膜を成膜&パターニング


写真1 (a)静電転写された有機半導体トナーの光学顕微写真、(b)ラミネート法によって形成されたC8-BTBTトランジスタの光学顕微鏡写真5)

 一方、千葉大学と日本化薬の研究グループはユニークな有機半導体層形成プロセスを発表した。環境問題への配慮から有機溶剤を使わずに有機半導体を成膜する無溶媒プロセスで、レーザープリンターやコピー機で広く使われている電子写真技術を有機半導体膜のパターニングに適用することに成功した。

 実験では、まず有機半導体C8-BTBTを粉砕し粒径10μm以下の有機半導体トナー粒子を作製。この有機半導体トナーと帯電付与性を有するFe系キャリア粒子を混合・撹拌することによってトナー粒子を帯電させた後、静電場印加によって基板表面の電極上に転写した。写真1-(a)の光学顕微鏡写真は、磁石に担持されたキャリア粒子と電極の間に静電場を印加することで有機半導体トナーを電極近傍に選択的に転写した結果である。これに引き続いて、ラミネート法によって有機半導体を薄膜化すると、写真1-(b)のような薄膜が得られ、FET動作を示した。つまり、有機半導体膜のパターニングから薄膜化までを一貫して無溶媒で行うことに成功した。今後、この無溶媒印刷プロセスはレーザープリンターのように高精細な多色刷り可能な技術に発展することが期待される。

親フッ素性の高い含フッ素溶媒ほど下層有機半導体へのダメージが少ない

 旭硝子、東京大学、パイクリスタルの研究グループは、有機半導体膜を溶解しないため多層積層プロセスに適するとされる含フッ素溶媒に関する興味深い報告を行った。


図7 有機トランジスタのトランスファー特性 左がPF=0.6、右がPF=126)

 周知のように、含フッ素溶媒にはフルオロカーボン(FC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)など数多くの種類があり、これらが有機半導体にどのような影響を与えるかについて詳細な研究はされていない。含フッ素溶媒は水や一般的な有機溶媒には混ざらず、親フッ素性(Fluorophilicity:PF)の高い材料のみを溶解する。そこで、各種含フッ素溶媒の親フッ素性を測定し、有機トランジスタに与える影響を調べた。

 まず、試料溶媒をパーフルオロジメチルシクロヘキサン/トルエンを用いて液液抽出し、フッ素相/油相の分配係数から親フッ素性(PF)を算出した。次に、各溶媒にC10-DNBDT有機単結晶トランジスタを浸漬し、その前後でのキャリアモビリティ変化率を測定した。その結果、図7のように溶媒の親フッ素性(PF)が高いほどC10-DNBDTに与えるダメージが小さいことが明らかになった。いうまでもなく、この知見は塗布型有機トランジスタを作製するうえで極めて有用といえる。

参考文献
1)高田ほか:異なる電子注入層を有する逆構造有機発光ダイオードの電子物性評価、第76回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-257(2015.9)
2)神谷ほか:TFT用アモルファス酸化物半導体の最適製膜条件の特徴、第76回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、16-049(2015.9)
3)戸田ほか:塗布型有機ゲート絶縁膜を用いたトップゲート・セルフアライン型IGZO-TFT、第76回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、16-062(2015.9)
4)福田ほか:基板レス構造のサブミクロン膜厚有機トランジスタ、第76回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-422(2015.9)
5)酒井ほか:一貫した無溶媒印刷プロセスによる有機半導体材料のパターニングと薄膜デバイスの作製、第76回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、16-062(2015.9)
6)阿部ほか:含フッ素溶媒の“親フッ素性”と有機半導体素子へのダメージの相関、第76回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-331(2015.9)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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