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情報ディスプレイ学会(7月25日)


映像情報メディア学会技術報告“情報ディスプレイ”
ITOカソード+新たな電子バッファ層で大気安定な有機ELデバイスを

 7月25日、都内で開かれた「映像情報メディア学会技術報告“情報ディスプレイ”」。このなかでNHK放送技術研究所は、今春プレス発表した逆構造型有機ELデバイスの研究成果を報告。一方、ジャパンディスプレイは次世代スマートフォン用フルHD対応低温Poly-Si TFT-LCDについて発表した。2件の講演をピックアップする。


図1 iOLEDの特性比較 1)

 周知のように、有機ELデバイスは水分や酸素に弱く、封止せずに大気に曝すと数十分もせずに劣化がはじまり、数日後には発光しなくなる。こうした発光劣化要因としてはさまざまな原因が考えられるが、NHK技研と日本触媒の研究グループはとくにメタルカソードと電子バッファ層に大きな要因があると推測。メタルカソードは腐食性のあるAl、電子バッファ層は活性なアルカリ金属であるLiFなどが用いられるためである。そこで、カソードに大気安定性が高いITO、そして電子バッファ層に独自のニューマテリアルを用いた逆構造型有機EL「iOLED(inverted OLED)」を考案した。

 デバイス構造は基板側からITOカソード/電子バッファ層/電子輸送層/発光層/ホール輸送層/Auアノードという構成である。いうまでもなく、この積層構成ではITOカソードと電子輸送層との電子注入障壁が2eV程度もあるため、その注入障壁をミニマム化する電子バッファ材料が必要になる。そこで、日本触媒は不活性なマル秘組成の電子バッファ材料(1、2、3)を開発した。

 図1はIr(piq)3燐光材料を用いた赤色燐光素子の特性比較で、電子注入材料によって特性が大きく変化した。具体的には、電子注入材料1を用いたiOLED-1は最高輝度が10cd/m2しか得られなかった。これに対し、電子注入材料2を用いたiOLED-2は約11%、電子注入材料3を用いたiOLED-3にいたっては約15%と高い外部量子効率が得られた。これは、コンベンショナルな順構造燐光OLEDと同等以上に当たる。いうまでもなく、これらの結果は電子注入材料によって電子注入障壁が大きく変化するためである。

 上記のように良好な初期特性が確認できたため、次に研究グループは最大の研究課題である大気安定性について評価した。N2環境下において有機ELデバイスをガラス枠と市販のバリアフィルム(尾池工業製)で封止した後、大気に暴露して発光の推移を観察した。ちなみに、用いたバリアフィルムの水蒸気透過性(WVTR)は10-4g/m2/day程度で、このクラスなら大型デバイスでもユニフォミティは問題にならないと考えられる。

 図2はその評価結果で、クラシックな蛍光Alq3を用いた順構造OLEDは6日後からダークスポットが発生し、99日後には発光面積がほぼ半分になった。これに対し、iOLEDは大気安定性が高く、なかでもiOLED-3は104日後でもダークスポットがまったく観察されなかった。


図2 バリアフィルムで封止した有機ELの発光変化1)


図3 ディスプレイの断面構造(a)と駆動回路の模式図(b)、(c)1)

 こうした実験結果を受け、IGZO-TFT駆動の5型QVGAパネルを試作した。断面構造は図3-(a)の通りで、ドライブTFTをITOカソードに接合した。その駆動回路図だが、図3-(b)の順構造ディスプレイではドライブTFTのソース・ゲート間に印加するソース電圧(Vgs)が電圧ストレスによって下がりやすく、有機ELに流れる電流が減少し輝度が低下する。これは、画像焼き付きが起こることを意味する。これに対し、図3-(c)のようにiOLEDは電圧ストレスがかかってもVgsが変化しない。したがって、有機ELに流れる電流を一定に保持することができ、焼き付け現象が発生しないというメリットもあるという。

スマートフォン&タブレット用高精細TFT-LCDの消費電力を1/2に削減

 ジャパンディスプレイの金子寿輝氏は、次世代スマートフォン用5型フルHD/タブレット用7型ワイドQXGA対応低温Poly-Si TFT-LCDのキーテクノロジーについて解説した。

 まず、パネルの消費電力を削減するため、RGBにW(ホワイト)を加えたRGBWサブピクセル配列を採用。いうまでもなく、Wサブピクセル部はバックライト光がそのまま透過するため、その分透過率が向上する。また、ゲート方向のブラックマトリクス幅をファイン化。さらに、ポリイミド膜に偏光UV光を照射して配向させる光配向技術を新たに採用した。これらの結果、サブピクセルピッチ14.5μmというハイレゾリューションパネル(431ppi、438ppi)ながら、開口率を従来の48.9%から60%に高めた。図4はバックライトの消費電力比較で、今回のニューパネルは5型フルHDで消費電力を330mW(@500cd/m2)と1/2以下に削減することに成功した。


図5 ネガティブIPSモードとポジティブIPSモードの輝度-電圧特性2)


図4 バックライトの消費電力比較2)

 くわえて、ネガ型液晶を用いるネガティブIPSモードを採用することにより、ITO画素電極上における輝度低下を抑制。図5のように従来のポジティブIPSモードに比べ輝度を20%向上させた。また、前記の光配向プロセスによってフォトスペーサ近傍の光リークをミニマム化し黒輝度を約10%低減。この結果、コントラストは2000:1とモバイル機器用TFT-LCDとしては脅威的な値が得られた。

参考文献
1)深川ほか:大気安定な有機ELデバイスの開発、IDY2013-36、pp.9-12(2013.7)
2)金子ほか:次世代スマートホンとタブレット用5型FHDと7型WXQXGAディスプレイの開発 、IDY2013-36、pp.17-20(2013.7)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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