PV EXPO 2021 山形大学が有機系太陽電池で孤軍奮闘
3月3日〜5日、東京ビッグサイトで開かれた「第14回[国際]太陽光発電展〜PV EXPO 2021〜」。緊急事態宣言下のなか来場者の激減も予想されたが、来場者は比較的多く、感覚的には通常開催に近いようにも感じられた。ただ、この展示会自体、近年は太陽電池デバイスというよりは発電システムや蓄電池などのシステムが主役となっており、今年もデバイスの出展は多くなかった。このため、有機系太陽電池の出展は山形大学のみだったが、その展示内容には新鮮味が感じられたため、ここでは同大学の出展内容をピックアップする。
ホール輸送材料を最適化しペロブスカイト太陽電池の特性を向上
山形大学は次世代太陽電池として有機薄膜太陽電池とペロブスカイト太陽電池を展示。後者は学会などでは多くの発表があるものの、展示会で実物が披露されるのはきわめて稀れで、筆者も実物を見たのは今回が初めて。
しかも、展示したペロブスカイト太陽電池はデバイス構造的にも独自性があった。周知のように、ペロブスカイト太陽電池は元来、色素増感太陽電池から派生したという経緯から色素増感太陽電池のレイヤー構造・プロセス技術を流用するのが一般的。いわゆるMeso-porous型デバイスといわれる構造で、電子輸送層にポーラスTiO2を設ける。容易に想像できるように、TiO2の焼成には450〜500℃という高温処理が必要で、このため下層に当たる透明電極には耐熱性の高いFTO(FドープSnO2)を用いる必要がある。
これに対し、今回のデバイスは低温形成可能な逆構造型を採用。デバイスはITO透明電極/ホール輸送層/ペロブスカイト光吸収層/電子輸送層1/電子輸送層2/上部メタル電極という構成で、従来の順構造からレイヤー構成をリバースした格好。TiO2を用いないため、透明電極にはコンベンショナルなITOが使用可能で、トータルプロセス温度も150℃以下に抑制できる。したがって、耐熱性の低いプラスチックフィルムをサブストレートに用いることも容易。もちろん、ITO透明電極を用いるため、エッチング加工性や透明性にも優れる。
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図1 ホール輸送層の違いによる特性比較 |
写真1 ペロブスカイト太陽電池 |
今回はペロブスカイトにMAPbI3、電子輸送層1にC60、電子輸送層2にB4PyMPM、カソードにAgを使用。ホール輸送層をレス、PEDOT:PSS、PTAA、TFBと変えてデバイス特性を評価した。その結果、図1のようにTFBを用いると良好な特性が得られ、光電変換効率もリバースサイドで20.2%に達した。いうまでもなく、これはシングルセル構成としてきわめて高い値で、多結晶シリコン太陽電池に匹敵する。TFBによる特性向上メカニズムは詳細を明らかにしていないが、表面の接触角が41度程度と高いため、上部にスピンコート成膜されるペロブスカイトのグレインサイズが300nm以上とラージサイズ化するためと考えられる。
MORESCOがウェットプロセスを多用したR2Rで有機薄膜太陽電池を量産
一方、山形大学と有機薄膜太陽電池の研究で連携しているMORESCOは同大学のブースでフレキシブル有機薄膜太陽電池を披露した。デバイス構造は透明アノード/電子輸送層/バルクヘテロ型光吸収層/ホール輸送層/メタルカソードと一般的だが、電極を除き、ウェットプロセスでかつRoll to Rollプロセスで作製。具体的には、透明電極の加工にはダイレクトレーザーエッチング法、電子輸送層、光吸収層、ホール輸送層はダイコート法、集電電極はスクリーン印刷法で形成。いわゆるフォトリソプロセスや真空プロセスを用いないローコストプロセスで製造可能で、さらに市販のガスバリア膜付きプラスチックフィルムで固体封止した。
写真2 フレキシブル有機薄膜太陽電池 |
サイド
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TCFside(フロント) |
Metal side(バック) |
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16.4V |
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Isc
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246mA |
139mA
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FF |
0.56 |
0.55 |
Pmax |
2.3W |
1.2W |
Vmax |
11.7V |
12.1V |
Imax |
190mA |
101mA |
cell η |
5.1% |
2.8% |
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表1 代表的な性能
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ブースでは緑色と紺色のプラスチックフィルム製デバイス(320×320o)を披露。光電変換効率は5.1%とフレキシブル有機薄膜太陽電池としては最高レベルの値をマーク。現在、デバイスをサンプル出荷中で、近い将来、自らデバイスを量産する考えだという。
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