技研公開2019 塗布型酸化物TFTなどフレキシブルディスプレイ向けの要素技術をPR
5月30日〜6月2日、NHK放送技術研究所(東京都世田谷区)で開催された「技研公開2019」。ディスプレイ関連はこれまでシート型ディスプレイやフレキシブルディスプレイをメインに公開してきたが、今年はいわゆる完成モノのディスプレイではなく、フレキシブルディスプレイ向けの要素技術を中心にデモ。What's
Newとして塗布型酸化物TFT向けのニュープロセスと量子ドット(QD)ディスプレイを紹介した。
写真1 プラスチックフィルム上に作製した塗布型酸化物TFT |
塗布型酸化物TFT向けのニュープロセスに関しては、IZO酸化物半導体溶液を用いたシンプルプロセスを開発したことをアピールした。具体的には、まずスピンコート法などで基板上にIZO溶液を塗布し乾燥させた後、波長200nm付近の深紫外光をマスク越しに照射。光が照射された部分は酸化が進んで酸などのエッチャントに溶解しにくくなる。この後、酸によってウェットエッチングしてパターニングする仕組み。いわゆるフォトレジストフリーで酸化物半導体がファインパターニングできるのが特徴。写真1の試作サンプルはさほど微細パターンではなかったためメタルマスクを用いたが、実際のデバイスではコンベンショナルなフォトマスクを用いる。また、IZO以外の酸化物半導体にもほぼ適用できるという。
写真3 試作した緑色QD素子 |
写真2 UV励起発光の比較 |
一方、QDディスプレイについてはアルバックと共同開発したCdフリーQDを紹介した。内側から順にZnInPコア、第1シェル(ZnSe)、第2シェル(ZnS)という2層シェル構造で、従来の1層シェル構造(コア+ZnSシェル)に比べ欠陥が大幅に減少。この結果、緑色素子で半値幅が従来の61nmから41nmと劇的に改善し、520nm付近のピュアグリーンが得られるようになった。ただし、外部量子効率は1%程度と従来に比べ1/3近くまで低下した。写真3の試作素子はアノード/ホール注入層/QD層/電子輸送層/カソードと有機ELとほぼ同じレイヤーで構成。QD粒径は5nmで赤色、3nmで緑色、1〜2nmで青色が得られる。
ITZO-TFTを次世代撮像デバイスに
写真4 試作した撮像デバイス |
また、次世代撮像デバイス向けでは新たな酸化物TFTを提案した。酸化物半導体をIGZO(In-Ga-Zn-O)からITZO(In-Sn-Zn-O)に、そしてTFT構造をエッチングストッパータイプからバックチャネルタイプに変更したデバイスで、酸化物半導体をプロセスダメージから保護するエッチング保護層をレス化することによってチャネル長を微細化。もちろん、PEP数も従来の6回から5回に削減した。容易に想像できるように、これはITZOがIGZOに比べより耐環境性が高く安定性に優れるためで、上部に設けられるソース/ドレイン電極のパターニングプロセスでダメージを受けることはないという。もちろん、市販の4元系ターゲットを用いてスパッタリング成膜することができ、ポストアニール温度も300℃程度とIGZOとほぼ同じである。
写真4は試作した撮像デバイスで、画素数は320×240、チャネル長は2μm。キャリアモビリティは23cm2/Vs、ON/OFF電流レシオは108と実用上十分な値を確保。ただ、IGZOをはじめ酸化物TFTで問題となるバイアスストレス耐性はまだ評価していないという。 |