nano tech 2019/先進印刷技術展2019/新機能性材料展2019/JFex2019
材料メーカーが有機EL照明や有機薄膜太陽電池でデバイス市場に名乗り
1月30〜2月1日、東京ビッグサイトで開かれた「nano tech 2019/先進印刷技術展2019/新機能性材料展2019/JFex2019」。目立ったのは有機ELや有機薄膜太陽電池といった有機デバイスで、材料メーカーがこれらの有機デバイスを製品化しようという動きがみられた。おもなトピックスをレポートする。
日本触媒が有機EL照明デバイス市場に参戦表明
写真1 照明用有機EL(日本触媒)
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まずデバイス関連では、日本触媒が照明用有機ELデバイスでスマッシュヒットを放った。同社はこのフィールドではNHK放送技術研究所と共同で逆構造有機ELを開発・提案していることで知られる。カソード/電子注入層/電子輸送層/発光層/ホール輸送層/ホール注入層/アノードという構造で、LiFやLiqといったアルカリバッファ材料の代わって電子注入層に独自材料・レイヤーを用いるのが特徴。その材料自体はノウハウのため明らかにしていないが、有機層/無機層のハイブリッドレイヤーで、前者をウェットプロセス、後者をドライプロセスで成膜する。膜厚は10〜20nmと既存のアルカリバッファ層に比べかなり厚く、ピンホール欠陥がカバリングしやすい。また、外部から侵入してきた水分などの不純物ガスと化学反応しないため、大気安定性がきわめて高い。このため、ガスバリアや封止も簡易的なプロセス・レイヤーでよく、プロセス負荷が減る分、トータルコストもリダクションできる。実際、封止フィルムには一般的な食品包装フィルムが使用でき、要求される水蒸気透過性も10-2〜-3g/m2/24hと通常デバイスに比べ3〜4桁もゆるくていい。
今回はPENフィルム+封止フィルムという固体封止デバイスを展示。その厚さはわずか0.07oで、写真1のように扇風機からの風によってデバイスがなびくデモを敢行。さらに圧巻だったのはその出来栄えで、小型サンプルながら欠陥フリーで輝度ユニフォミティも高かった。しかも、このサンプルはNHKの協力を得ずに、すべて自ら試作したもの。周知のように、NHKはあくまでもシート型ディスプレイを実現するために有機ELを研究・開発しているが、同社は有機EL照明デバイスの開発に特化。デバイス自体を量産して、2022年頃に製品化するという青写真を描いており、外部委託して試作したサンプルをサンプル出荷することも可能だという。ちなみに、サンプルデバイスのスペックは赤色デバイスが輝度5000cd/m2、外部量子効率29%、輝度半減寿命1万時間(@1000cd/m2)と一般的な燐光デバイスと同等レベルだった。
東レが有機薄膜太陽電池の効果的なアプリケーションをアピール
写真3 発電スーツ(理化学研究所) |
写真2 有機薄膜太陽電池サンプル(東レ) |
一方、有機薄膜太陽電池では写真2のように東レが多彩なアプリケーションサンプルを展示。デバイスメーカーとしてこのマーケットに参入する方針を明確にした。独自開発したp型半導体材料と一般的なn型フラーレン誘導体(PCBM)をバルクヘテロジャンクション接合型光吸収層内で混在させた高分子デバイスで、光電変換効率は10〜12%。100ルクス以下という低照度環境でも高効率発電できるのが特徴で、スマートフォン、スマートメーター、各種センサーなどに効果的なことをアピールしていた。ちなみに、スマートフォンのフロントサイドに設けるとフル充電には10時間程度かかるため、この場合、あくまでも電池寿命を伸ばすアシスト電源という位置づけだ。このため、本命は低照度環境で常に光が当たる固定据え置き型機器になる見通し。
東レは理化学研究所(理研)、AOKI、Xenomaとの共同プロジェクトの成果として有機薄膜太陽電池を貼り付けた発電スーツも理研のブースで披露。こちらは簡易蒸着したポリパラキシリレンをサブストレートにしたフレキシブル&ウェアラブルデバイスで、厚さ15μmと極薄のためスーツ形状に沿って貼り付けることができる。素子構造は上記の基本デバイスと同じで、発電量は写真3の10個構成で計280mW。デバイスは紳士服製造工程で生地に熱転写しており、生地の風合いを損なわないデザインとなっている。
JAPERAがニュープロセスを相次いで開発
デバイス製造プロセス関連では、次世代プリンテッドエレクトロニクス技術研究組合(JAPERA)が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースでそのプロジェクト成果を示した。
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図1 撥液性導体インクを用いた層間接続プロセス(JAPERA) |
まずは撥液性導体インクを用いた層間接続プロセスで、図1のようにまず撥液性を備えたナノサイズAgインクをインクジェットプリンティング(IJ)法で塗布・パターニングする。このナノAgグレインは表面が撥液性保護基でカバリングされているため、基板上でのレベリングが少なく、IJ印刷直後の形状が変化せずにほぼ確保される。つまり、高い接触角が維持できる。この後、絶縁膜を塗布し乾燥すると、熱収縮によってAgポストが絶縁膜を開口する形で露出する。このため、いわゆるフォトリソグラフィレスかつマスクレスで上部電極とコンタクトすることができる。その高さは3.5〜4μmと実用レベルが得られ、TFTを含め各種センサーデバイスに適用することができる。
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図2 新規導電接合技術(JAPERA) |
もうひとつはACF(異方導電性フィルム)に代わる導電接合プロセスで、図2のようにデバイス上の電極とFPC電極を導電バンプによってコンタクトさせる。こちらも表面処理方法を工夫した導電性Agインクを用いるもので、まずμmサイズのAgインクをディスペンス塗布し、絶縁性樹脂を全面に塗布した後、100℃以下という低温で熱圧着する。180℃以上という高温圧着が必要なACF方式にデバイスやFPCに対する熱ダメージが少なく、もちろん材料を含めたプロセスコストも削減できる。
ちなみに、JAPERAは2019年3月末で8年間に及んだ活動期間を終了。茨城県つくば市(NEC内)にある300×400o対応オール印刷連続試作ラインは産業技術総合研究所に無償譲渡され、このラインは新たに設立される産官学コンソーシアム「フレキシブルIoTコンソーシアム」へ移設されて活用される予定となっている。
高純度分離技術によってCNT-TFTのON/OFFレシオが改善
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図3 試作CNT-TFTの特性例(NEC) |
マテリアル関連では、NECがトランジスタ用カーボンナノチューブ(CNT)インクをアピール。ナノカーボンメーカーとして知られる名城ナノカーボンにその製造技術をライセンス供与したことを明らかにした。市販のバルク単層CNTを非イオン性界面活性剤を用いて金属型CNTと半導体型CNTに分離する技術(電界誘起層形成法)で、半導体型CNTの抽出率は実に99%以上に達する。このCNTインクを用いて計256アレイのCNT-TFTを試作したところ、図3のようにキャリアモビリティは4.1cm2/Vsをマーク。CNT-TFTの弱点とされてきたON/OFF電流レシオも上記の高純度分離技術によって106以上が得られた。
QD材料の評価に有機ELで実績のある有機蒸着膜を利用
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図4 QD材料評価のための評価素子構造 左が従来構造、右が新構造(九州大学) |
デバイス評価関連では、九州大学が次世代発光材料とされる量子ドット(QD)材料の新たな評価方法を提案した。QDデバイスは一般的にウェットプロセスで作製されるが、図4のように全レイヤーをウェットプロセスで作製したサンプルでは界面混合現象などによって不安定要素が強くなり、QD材料を正確に評価することが難しい。そこで、有機ELで実績のある蒸着有機膜を使用し、図4-右の逆構造型デバイスを評価構造として用いる。この結果、上記の界面問題のない正確なQD材料評価が可能になるとしている。
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