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第22回ファインテックジャパン(4月11〜13日)


ファインテックジャパン フレキシブル&プリンタブルデバイス向けインフラが主役に
アモルファスIGZO-TFTのCu配線向けとしてCu-Mnターゲットが登場

4月11〜13日、東京ビッグサイトで開かれた「第22回ファインテックジャパン(FPD製造技術展)」。昨今の風潮を反映してか、ターゲットデバイスはFPDよりもタッチパネルに比重が移ったようにも見え、FPD関係者からの目で見ると少し寂しい印象が拭えなかった。このため、透明導電フィルムやフレキシブル&プリンタブルエレクトロニクスにトピックスが集中した感が強かった。おもなトピックスをレポートする。


図1 IGZO-TFTのI-V特性(日立電線)


写真1 IGZO層とCu-Mn層の界面(日立電線)

 FPDやタッチパネルといったデバイス用マテリアルで最大のインパクトに映ったのが日立電線のCu-Mn合金ターゲットだった。直前にニュースリリースで発表されたとおり、東北大学が開発した合金ターゲットを同社がリリースしたもので、Cu配線向けとしてMoやTiといった既存のバリアメタル/キャップメタルをリプレースするポテンシャルを秘めている。TFTのゲートとソース/ドレインに使用可能で、ベースストラクチャーはCu-Mn/ピュアCu/Cu-Mnという3層構造となる。ただ、a-Si TFTのソース/ドレインではCu-Mn/Cuの2層構造でも問題ない。もちろん、a-Si、アモルファスIGZOとのコンタクト性、密着性も良好で、酸系エッチャントで容易にウェットエッチングすることができる。また、ピュアCuに比べ耐酸化性にも優れる。

 とくに有効なのが今春から量産が開始されたa-IGZO-TFT。図1はゲート、ソース/ドレインにCuとCu-Mn/Cu/Cu-Mnを用いたデバイスのI-Vカーブを比較したもので、キャリアモビリティは前者が8.21cm2/V・s、後者が10.77cm2/V・sだった。また、Vthやサブスレッショルド特性も後者の方が良好な値を示した。これは、写真1のようにIGZOとCu-Mnが反応し、界面にMnOx層ができるためと考えられる。つまり、IGZO層からO2が一部抜けてMnOx層を形成する。この結果、IGZO膜が酸素欠損状態となりキャリアの生成が増加すると推測される。

  同社はプレーナー型と円筒型のCuターゲットも展示。Cu、Cu-Mnターゲットとも第10世代マザーガラスにも対応可能なことを誇示していた。 


写真2 基板にスミライトを使用したTFT-LCD(住友ベークライト)

低熱膨張フィルムをサブストレートに用いたTFT-LCDが

 ここにきて新たな透明・低熱膨張プラスチックフィルムの開発アナウンスが相次いでいるなか、住友ベークライトはガラスクロス含有フィルム「スミライトTTR」を展示した。スミライトは全光線透過率91%(@550nm)、Tg=250℃以上、線膨張係数9〜11ppm/℃(@30〜250℃)ときわめてハイスペックな透明フィルム。ただ、近年、同社は各種展示会で公開するなどフィルム自体にプログレスがあったわけでない。What's NEWはスミライトをカラーフィルタ(CF)基板、TFT基板に用いたTFT-LCDを展示したこと。この3月で活動期間を終了し解散した次世代モバイル用表示材料技術研究組合(TRADIM)が試作したもので、CFはRoll to Roll対応ラインで作製。外部調達したフィルム製TFT基板と貼り合わせてモジュール化した。サイズは2型クラスで、コントラストが低く欠陥がみられるなど完成度はさほど高くなかったが、スミライトでTFT-LCDが作製できることを証明したといえる。

Agナノワイヤー透明導電フィルムの存在感がさらにUP
 
  ポストITO透明導電フィルムとの呼び声が高いAgナノワイヤーフィルムでは、東レフィルム加工が米Cambrios TechnologiesのAgナノワイヤーインクを塗布した透明導電フィルムを展示した。

特性
Agナノワイヤー
ITOフィルム(タッチパネル用)
表面抵抗値
50〜250Ω/□
270Ω/□
全光線透過率
90〜91%
90%
ヘイズ
0.8〜1.3
0.8

表1 透明導電フィルムの特性比較(東レフィルム加工)

 PETフィルム上にAgナノワイヤー膜とUV硬化型オーバーコート膜を塗布したフィルムで、径数十nm、長さ20〜30μmのAgナノ粒子が塗布後にネットワーク状となって透明導電膜になる。表1のように、表面抵抗値、可視光透過率ともITOフィルムを凌駕。明確な価格こそ聞けなかったが、「ITOフィルムよりは安い」という。もちろん、ウェットエッチングによってパターニング可能で、用いるエッチャントによりオーバーコート材料の種類や膜厚をカスタマイズできる。今回展示したのは500o幅だが、マックス1000o幅まで出荷可能で、背面にオリゴマーブロック層やハードコート層を設けたタイプも出荷できる。

新たなネガ型ポリマーでTFTの絶縁膜を


写真4 PETフィルム上にパターニングした絶縁膜サンプル(AGC)

写真3 Cu膜をスクリーン印刷したガラス基板(AGC)

 フレキシブル&プリンタブルエレクトロニクスデバイス関連では、旭硝子(AGC)がトピックスを連発した。まずは酸化しないCuペーストで、大気中で150℃×30分焼成するだけでCu配線が得られる。つまり、焼成後の還元処理は必要ない。詳細はノウハウのため明らかにしなかったが、粒径5μm程度のCu粒子に酸化を抑制する保護基をつけているため、還元処理しなくても酸化しないらしい。気になる比抵抗は2〜3×10-5Ω・cmで、120℃焼成でもさほど上昇しない。ブースでは、L&S=70μm/70μmの配線パターンをスクリーン印刷したガラス基板を展示。タッチパネルの周辺電極として実用可能なことを示した。

 同社はTFTのゲート絶縁膜、パッシベーション膜、平坦化膜、層間絶縁膜向けとして新たな含フッ素ポリマー「AL-X6」も紹介。1%重量減少が220℃と耐熱性が高く、パターニング可能なネガ型ポリマーで、光透過性も99%(@400nm)、絶縁破壊電圧も7MV/cmとハイスペックを確保。UV照射(220mJ/cm2)または150℃で熱硬化させた後、365nmのUV光を照射して現像すればパターニングできる。ブースではPETフィルム上にフォトリソでパターニングしたサンプルを披露。写真4のようにその透明性をアピールしていた。


写真6 Agペーストをグラビアオフセット印刷したPETフィルム(DIC)

写真5 グラビアオフセット印刷用ガラス版の断面像(DIC)

グラビアオフセット印刷用高精細ガラス版が登場

 ここにきてプリンタブルエレクトロニクス用マテリアルに力を注いでいるDICは今回、グラビアオフセット印刷関連プロダクトを中心にデモを敢行。まずは100%子会社のトピックが作製したソーダライムガラス製エッチング版で、独自のウェットエッチング技術によって最小25μm(深さ10μm時)の溝パターンが加工できる。エッチング深度は5〜20μmで、写真5のようにエッチング断面形状がシャープなのが特徴。最大28×32インチまで対応可能となっている。周知のように、平版を用いる高精細オフセット印刷は大型&高精細版が存在しないことが普及のネックとなっていたが、トピックのガラスエッチング版はこうした問題を解消したといえそうだ。

 ブースではこのガラスエッチング版を用いてDICオリジナルのグラビアオフセット印刷用Agペースト「GOAGTシリーズ」を印刷したPETフィルムサンプルも公開。最小線幅は30μmで、PETフィルムはもちろんのこと、ITOフィルム、ガラス基板にもダイレクト印刷できる密着性を確保。110〜140℃と低温焼成タイプながら2〜4×10-5Ω・cmという低抵抗化を実現した。

レジストにフッ素系撥液剤を添加してバンク表面を改質


写真7 オプトエース上の水滴(ダイキン工業)

 ダイキン工業は、インクジェットプリンティング(IJ)プロセス向けのフッ素系撥液剤「オプトエース」を紹介。フォトレジストに添加してバンク(隔壁)パターンを形成すれば表面改質効果によって、その後のIJプロセスにおけるインク着弾精度を補完するアイデアで、とくに効果的な用途としてLCDのCF作製プロセスを提案。そのプロセスフローだが、まず撥液レジストを基板上に塗布すると、フッ素系撥液成分が膜表面に偏析し、表面が撥水性に変化する。その一方、バンクの側壁など他の部分は親水性を維持する。このため、まずオプトエースを添加したブラックレジストを塗布しフォトリソでブラックマトリクス(BM)を形成。その後のIJプロセスではR、G、Bカラーインクはバンクトップには付着せず、BMパターンで囲まれた溝部分に付着する仕組み。もちろん、レジスト組成物との相溶性や現像性も確保。写真7はその撥水性デモで、オプトエースによって水の接触角が高くなり液滴になっているのがわかる。

フラット封止ガラスに塗布できる液状吸湿剤が

 有機EL向けマテリアルでは、小松精練が液状吸湿剤「KFSレジン」をピーアールした。吸湿剤を配置するためにウェットエッチングによって中空構造に加工したキャップガラスではなく、フラット封止ガラスに対応可能な乾燥剤で、フラット封止ガラス上に塗布する通常プロセスに加え、デバイス上に直接塗布してもアノード、カソードや有機膜と反応しないという。その吸湿キャパシティは16mg/cm2で、同社自ら作製したテストパネルでは60℃、90%RH環境でも2000時間以上というライフを確認。すでに韓国のパッシブマトリクス有機ELDメーカーであるNeoview KOLONの携帯電話サブディスプレイ向けに量産採用されており、今後、日本メーカーへの営業活動を活発化する考えだ。


写真8 有機EL素子を60℃、90%RH環境で1000時間発光させた際の様子(富士フイルム)
左:超ハイバリアフィルム封止、右:ガラス封止

ハイバリアガスバリアフィルムをサブストレート&封止フィルムに

 一方、富士フイルムはフレキブル有機ELデバイス向けとしてPETやPENといったプラスチックフィルム上にハイブリッドガスバリア膜を設けた超ハイバリア性透明フィルムを披露した。詳細は明らかにしなかったが、塗布型有機膜と真空成膜無機膜のハイブリッドレイヤーをマルチスレイヤー化したもので、無機膜はおもにガスバリア性を担う一方、有機膜は無機膜のピンホール欠陥をカバリングするとともに平坦化する機能を担う。トータル膜厚は約10μmで、その水蒸気バリア性は10-6g/m2/dayと測定限界レベル。写真8は60℃、90%RHという過酷な環境下で発光させた有機ELデバイスの様子で、1000時間後も素子の劣化はみられず、コンベンショナルなガラス製デバイスと同等のライフが得られた。可視光透過率も90%(@550nm)、表面平滑性もRa=数nmと良好で、フィルム上にITO膜をダイレクト成膜することもできる。ターゲットはベースサブストレートと封止用フィルムで、後者の場合、有機ELデバイス上に接着剤を介して接着することになる。ただ、この際の有機膜とのコンタミネーション性についてはまだ確認していないようだ。

露光装置技術を活用してa-Si膜を選択的にPoly-Si化


図2 EGIS技術を用いたレーザーアニールプロセスのイメージ

 製造装置ではブイ・テクノロジーがWhat's NEWを演出した。同社は外観検査・リペア装置メーカーとして知られるが、近年、CCDセンサーカメラで撮像した下地パターンに合わせてリアルタイムで露光パターンを補正するEGIS(Exposure Guided by Image Sensor)技術を用いた露光装置をリリース。今回はEGISを活用した低温Poly-Si TFT-LCD用レーザーアニール装置「AEGIS-ANL」を紹介した。

 AEGIS-ANLはa-Siプリカーサ膜にNd:YAGレーザービームを照射してPoly-Si化する装置。a-Siプリカーサ膜全面にラインビームを照射する従来のラインビームエキシマレーザー(ELA)装置と違い、小型フォトマスクを介してパターン化したレーザービームを照射する点が異なる。つまり、チャネル上のa-Si膜だけに選択的にレーザービームを照射して結晶化する。露光装置と同様、レーザービームは小型フォトマスクを介してパターン化する。また、基板の背面に設けたCCDラインセンサーによって周辺パターンを撮像しながらリアルタイムで照射パターンを補正しながらレーザービームを照射する。その照射精度は±1.5μmときわめて高く、チャネル上のa-Si膜を正確に結晶化することができる。容易に想像できるようにそのメカニズムから照射面積を劇的にシュリンクでき、この結果、スループットはラインビームELA装置の2倍にアップする。ちなみに、従来のELA装置を用いる場合、a-Si膜を結晶化してからアイラインド状にパターニングするが、AEGIS-ANLを用いる場合、そのメカニズムからa-Si膜をパターニングした後で結晶化することになる。

大面積基板に単層グラフェンが作製できるCVD装置が登場

 近年、古くて新しいナノカーボン材料として注目されているグラフェン向けでは、ナノインプリント装置メーカーであるアイトリックスがユニークなグラフェン成膜装置を紹介した。ソウル大学発のベンチャー企業「Graphene Square」が開発した熱CVD装置で、透明石英チャンバに転写基板である銅箔をセット。CH4ガスに加え、H2ガスとArガスをパージしマックス1000℃でCVD処理することにより、厚さ0.3nmクラスという単層グラフェンが95%以上のエリア得られる。合成時間は約1時間である。


写真9 グラフェン成膜用熱CVD装置(アイトリックス)

 グラフェン膜をタッチパネルやTFTなどのデバイスに使用する場合はグラフェンを成膜した銅箔をプラスチックフィルム、ガラス基板、シリコンウェハーといったサブストレートに接着剤で接着した後、ウェットエッチング処理によりCu膜を除去する。この結果、大面積サブストレート上に単層グラフェン膜が転写される。まずリリースするのは石英チューブ径100oの実験装置「TCVD100A」で、A4サイズのグラフェン薄膜が成膜できる。価格も1500万円と比較的リーズナブルだ。


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。