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大学見本市2025〜イノベーション・ジャパン (2025年8月21〜22日)


イノベーション・ジャパン2025〜大学見本市&ビジネスマッチング〜
フレキシブルデバイス向けの新たな透明導電膜の提案がトレンドに

8月21〜22日、東京ビックサイトで「イノベーション・ジャパン2025〜大学見本市&ビジネスマッチング〜」が開かれた。今回目立ったのはフレキシブルデバイス向けの新たな透明導電膜の提案で、ポストITOを巡るムーブメントが顕著に。独断と偏見でWhat's Newをレポートする。


グラフェン/Ag/グラフェンの積層膜で低抵抗と高透過率を両立


図1 光透過率の比較


写真1 グラフェン/Ag/グラフェンの成膜サンプル
 まず、青山学院大学は古くて新しいナノマテリアルであるグラフェンを透明導電膜に用いグラフェン(膜厚0.34nm)/Ag(5nm)/グラフェン(0.34nm)の3層構造を提案した。グラフェン単体では比抵抗が550Ω・cm程度と高いためで、3層化によって比抵抗を130Ω・cm程度にまで低減。図1のように、Agをサンドイッチ化することにより可視光域全般にわたって90%以上という高い透過率を確保した。

 3層膜は@銅箔上にグラフェンをCVD成長、Aガラス基板に転写し、ウェットエッチングで銅箔を除去、BAg膜を蒸着、C銅箔上にグラフェンをCVD成長させた後、ガラス基板上に転写し銅箔をエッチング除去、といったフローで成膜。今後、PETフィルムをはじめとするプラスチックサブストレートにもトライする方針。ちなみに、パターニング法はコンベンショナルなフォトリソ+O2ドライエッチングやメタルマスクを載置したメカニカルO2ドライエッチングなどが適用できるという。


写真2 CNT透明電極を用いたLEDの発光デモ
曲げても特性が変動しないCNT系透明導電膜が登場

 一方、工学院大学はカーボンナノチューブ(CNT)を分散させたケイ素錯体含有プレカーサ溶液を用いた透明フレキシブル導電膜を提案した。詳細はノウハウのためシークレットだったが、各種コーティング法でこのインクを塗布した後、酸処理することで透明導電膜が得られるという。もちろん、下地の表面処理は不要で、各種プラスチックフィルムにダイレクト成膜できる。シート抵抗値は500Ω/□クラスと決して低くないが、可視光透過率90%以上をマーク。

 最大の特徴はそのフレキシブル特性で、写真2のようにこの透明導電膜を成膜したPETフィルムを曲げてもLEDは点灯状態を維持。さらに、発光強度も変化しないなど抜群のフレキシブル耐性をアピールしていた。

新たな高分子インクを用いてフレキシブル有機薄膜太陽電池を


写真3 フレキシブル有機薄膜太陽電池
 金沢大学は"塗って作れる透明プラスチック電極"をアピール、この透明電極を用いたプラスチック有機薄膜太陽電池を披露した。こちらも詳細は明らかにしていないが、独自開発した導電性高分子インクを各種コーティング法によりサブストレートに塗布した後、80℃という低温で焼成するだけで80Ω/□という低抵抗透明導電膜が得られる。つまり、もっとも耐熱性が低いPETフィルムをサブストレートに用いることができる。可視光率も92%と高い。

 その用途は幅広いが、今回は写真3のようにこの透明導電膜をアノードに用いた超大型フレキシブル有機薄膜太陽電池(30×100cm)を展示。REIKOと共同試作したもので、p型有機半導体とn型有機半導体を混合したバルクヘテロ接合型光吸収層を設けた塗布ポリマー型ながら、光電変換効率7%を達成。ポリマー導電膜として知られるPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)を使わないため、塗布後の強酸処理や強加熱処理が不要だという。

アモルファスITO膜をエキシマレーザーアニールで多結晶化


写真4 エキシマレーザー照射で多結晶化したITO膜のEBSD像
 九州大学薮田研究室は、アモルファスITO膜をエキシマレーザーアニールによって多結晶化することを提案。ITO膜がUV光を吸収する性質を利用し表面近傍を局所加熱することによってサブストレートへのダメージを低減する狙いで、レーザーエネルギー密度、パルス間隔、ショット数といったレーザーアニール条件によってグレインサイズなどの膜特性、そしてサブストレートへのダメージが制御できる。このため、耐熱性の低いプラスチックフィルムをサブストレートに用いるフレキシブルデバイス向けの多結晶ITO膜作製プロセスといえる。

液体金属を実装接続に用いるとデバイス自体の伸縮性も向上

 透明導電膜以外では、産業技術総合研究所(産総研)が液体金属を用いた電子デバイス実装技術を報告した。Ga+InやGa+Snなどが知られる液体金属は融点が30℃以下と低いため配線内で液体として機能し、500%以上という高い伸縮性が得られる。

 研究グループは今回、液体金属を電子デバイスと配線の接続に用いることを提案。非伸縮配線を用いた最初の実験では、液体金属自身の伸びだけ伸縮耐性が向上し、実装部歪み300%程度までの耐性があることがわかった。


図2 液体金属を実装に用いた際の効果例

 次に、図2のように伸縮配線を用いた実験では配線自体の伸縮耐性が0.8倍引き出せることがわかり、デバイス自体の実質的な伸縮耐性が大幅に向上することが判明した。


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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