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第72回応用物理学会春季学術講演会(3月14〜17日) |
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3月22日〜25日、東京都市大学 世田谷キャンパス&オンラインでハイブリッド開催された「第71回応用物理学会春季学術講演会」。目立っていたのは有機系デバイスで、有機TFTやペロブスカイト太陽電池向けのニュープロセスの提案が相次いだ。独断と偏見でトピックスをレポートする。 ZnO活性膜にAlOxを積層してフレキシブル有機ELDに対応可能な酸化物TFTに まず酸化物TFTでは、大阪工業大学の研究グループがフレキシブル有機ELディスプレイのバックプレーンとしてZnO酸化物半導体にAlOxを積層したAlOx/ZnO-TFTについて報告した。
図2-左図にシート抵抗値測定結果を示す。ZnO膜を成膜した後、Al電極を形成し、大気中で200℃熱処理。次いで、AlOx膜を成膜し、最後に大気中で200℃熱処理した。ZnO膜は成膜直後には酸素欠陥が多く11.1kΩと低抵抗だったが、200℃のアニール処理によって70.0MΩと大きく上昇した。その後、この熱処理済みZnO膜上にAlOx膜を成膜すると抵抗値が62.3kΩに再び低下し、さらに多層膜を200℃で熱処理すると数MΩにまで増加した。この結果、還元されたAlOx成膜時にZnO層へ酸素欠陥の導入や空乏層の減少、AlOx/ZnO界面における元素拡散による高導電層(ZnO:Al)の形成が示唆される。つまり、積層構造によって酸素欠陥をコントロールできる可能性が示された。 次に、酸素ガス導入(w/O2)と酸素ガス導入レス(w/o O2)に分け、図1に示す4種類のボトムゲート型酸化物TFTを作製した。図2-右図に、酸素ガス導入なしTFT(再左図)の伝達特性を示す。単層ZnO-TFTでは非常に大きいドレイン電流を示したが、トランジスタ動作しなかった。一方、200℃熱処理後のZnO-TFTでは酸素欠陥が減少し、ON/OFF電流レシオ1.49×106と明瞭なスイッチング動作を示した。他方、AlOx/ZnO積層TFTでは単層ZnO-TFTと同様、数十μA/μmの比較的大きなドレイン電流を示し、シート抵抗値の測定結果とも整合した。さらに、積層膜を200℃で熱処理するとON/OFFレシオは小さいものの、高いドレイン電流が維持されることがわかった。
こうした積層構造の有効性を確認するため、ガラス基板上にトップゲート型TFTも作製した。ZnO膜、AlOx膜とも室温で成膜したが、キャリアモビリティは単層ZnO-TFTの5.65cm2/V・sから9.67cm2/V・sに向上。ON/OFFレシオも106クラスと4K対応IGZO-TFTに匹敵する値が得られた。 次世代8K&480Hz駆動ディスプレイがドライブできる酸化物TFTを 一方、北海道大学の研究グループは8K&480Hz駆動のような次世代ディスプレイが駆動可能な高移動度酸化物TFTについて報告した。 こうしたハイエンドディスプレイをドライブするには少なくとも70cm2/V・sのキャリアモビリティが必要で、既存のアモルファスIGZO-TFTでは対応できない。そこで、研究グループはH2を含有させることで結晶化を抑制したアモルファスIn2O3膜を比較的低温でアニールして結晶化したIn2O3:H-TFTを開発。140cm2/V・sと低温poly-Si TFTに匹敵するハイモビリティを実現した。
実験でITOゲート、Al2O3ゲート絶縁膜、ITOソース/ドレイン、In2O3:Hチャネルといった構成のボトムゲート・ボトムコンタクト型TFTを作製したところ、前記のようにコンベンショナルな酸化物TFTの10倍というモビリティが得られた。しかし、この酸化物TFTは水素を含有させたため電界印加時に固気界面で気体の吸脱着が起こり、その影響でバイアスストレスシフトが大きく、信頼性が低かった。 そこで、In2O3と格子整合するY2O3エピタキシャル膜やEr2O3エピタキシャル膜でチャネル表面をパッシベートした。その結果、70cm2/V・sというハイモビリティを維持しながら、図3のようにVthシフトがほとんどない高信頼性TFTが得られた。ちなみに、HfO2やAl2O3といった著名なパッシベーション材料も試したが、これらはバイアスストレステストでVthシフトが大きく安定なTFTが得られなかった。 平坦性の異なるSnO2膜を積層しペロブスカイト太陽電池の光電変換効率を改善 ペロブスカイト太陽電池については、まず九州大学の研究グループがSnO2電子輸送層の構造によってデバイス特性が異なることを報告した。
実験では、ガラス基板上にITO電極/1層目SnO2電子輸送層/2層目SnO2電子輸送層/FAPbI3ペロブスカイト層/spiro-OMeTADホール輸送層/Au電極という構成のデバイスを作製。電子輸送層は市販のナノSnO2コロイド水溶液をスピンコートし、平坦なSnO2を得るために1層目はアニール温度150℃、SnO2構造を制御する2層目は80〜150℃でアニールした。 その結果、150℃でアニールしたSnO2単層のみを用いたリファレンスデバイスの光電変換効率は19.4%だった。また、1層目の上に積層させた2層目のSnO2のアニール温度を変えると効率が大幅に変化し、2層目を120℃でアニールした際に20.3%と最大となった(図4)。
さらに、膜中における水分の残留をミニマム化するため、2層目を120℃でアニールした後、150℃で追加アニールしたところ、効率は20.45%から22.75%に向上。さらに、耐久性も向上することがわかった(図6)。これらの結果は、SnO2グレイン同志の連結性が向上したためと推測される。 マスク+UVオゾン処理を用いたダイレクトパターニングで直列接続太陽電池に 桐蔭横浜大学の研究グループは、レーザーエッチング法やメカニカルスクライブ法に代わる直列接続ペロブスカイト太陽電池のパターニング法としてマスク+UVオゾン処理を用いたダイレクト塗布パターニング法を提案した。 周知のように、ペロブスカイト太陽電池モジュールでは発電層であるペロブスカイト層のパターニングが直列接続のために不可欠である。パターニング方法としてはレーザーエッチング法やメカニカルスクライブ法など基板全面に成膜した後に不要領域を除去する方法、そして必要な領域のみに直接成膜する方法がある。先行しているのは前者だが、不要部分の除去工程でエッチング残差がデバイス上に飛散するといった大きな問題を抱える。そこで、研究グループは後者の一つとしてマスク+UVオゾン処理を用いたダイレクト塗布パターニング法を採用した。
図7に、矩形マスクを貼りUVオゾン処理した基板にペロブスカイト前駆体溶液を滴下した様子を示す。〇で示した部分はマスクを貼り付け活性酸素種の接触を防いだため、塗れ性が低く、前駆体溶液が玉になっている。この基板上にペロブスカイト前駆体溶液をスピンコートすると、ITOを除去したライン(P1)において前駆体溶液の広がり方の違いにより膜厚が大きく変化した。この結果は、ペロブスカイト成膜前のUVオゾン処理がITO表面とITO除去面に濡れ性の差を生じさせたことに起因している。つまり、ペロブスカイト溶液はマスキングしていない部分にだけ付着した。興味深いことに、ペロブスカイト膜焼成後もこのパターニング状態は維持される。 このプロセスで問題となるのは下地の形状。具体的には、段差がない部分の方向へ塗布液が広がる場合はエッジビードと呼ばれる現象が発生し、その部分が山のように盛り上がってしまう。一方、段差がある方向へ塗布液が広がる場合はエッジビードが発生せず、均一で平滑な膜が得られる。実際、試作デバイスでは前者の場合ユニフォミティが低く解放電圧も低かった。これに対し、後者では良好な解放電圧、そして面内で均一な特性が得られた。つまり、実用上は塗布液の広がる方向を制御する必要がある。ただし、これは今回の実験で用いたスピンコート法の場合で、スリットコート法やバーコート法など特定方向に掃引する塗布方法ならばこうした問題が起こらず、対策する必要もないと予想される。 SAMを用いてキャリア輸送層レスのシンプル構造ペロブスカイト太陽電池を
フタロシアニンを比較的厚膜で成膜してペロブスカイト層をパッシベート 桐蔭横浜大学の研究グループは、フタロシアニンを比較的厚膜で成膜してペロブスカイト層をパッシベートした成果を報告した。 周知のように、ペロブスカイト太陽電池に用いられるハライドペロブスカイト結晶にはI-やBr-などのハロゲンアニオンが含まれる。ハライドペロブスカイト結晶内ではこれらのハロゲンアニオンが脱離することによってイオン欠陥が生成され、とくに成膜時の加熱によりハライドペロブスカイト結晶層の最表面近傍でこれらの欠陥が多く生じる。この欠陥を補償する方法としてはペロブスカイト結晶上にパッシベーション層を導入するのが有効で、その結果、変換効率や耐久性の向上が期待される。しかしながら、ポリマーやSiOxといったこれまでに報告されているパッシベーション材料は導電性が乏しいため、数nmと極薄膜で成膜する必要がある。 そこで、研究グループはパッシベーションとしてGaフタロシアニン水酸化物(OHGaPc)を比較的厚膜で成膜することにトライした。この材料は従来用いられてきた絶縁性パッシベーション材料とは異なり、p型半導体であるためキャリア輸送が可能であり、さらに水酸基を有することによってペロブスカイト結晶の最表面に存在する欠陥を補償できるのが特徴。つまり、電荷輸送機能とパッシベーション機能を満たすことが期待できる。
図10にOHGaPcを用いたペロブスカイト太陽電池のJ-V曲線を示す。OHGaPcを導入しなかった場合、光電変換効率は21.8%だったが、導入した場合は21.0%とわずかに低下した。これは、OHGaPcの導入によって直列抵抗が増加したことに起因する。しかしながら、電荷輸送能を有さない従来のパッシベーション層が同程度の膜厚ではほとんど発電が期待できないことを考慮すると、OHGaPcは有用なパッシベーション材料といえる。 また、厚膜化によって再現性向上が期待されるだけでなく、ペロブスカイト層を保護するブロッキング層として機能することで光耐久性や耐水性の向上も期待できる。実際、32℃環境で連続光照射時間を行ったところ、レスデバイスに比べ光電変換効率の低下が大幅に抑制された。これは、ペロブスカイト層内におけるハロゲンの移動が抑制されるためと考えられる。 N2ガスをドープしながらスピンコートすることでペロブスカイトを垂直配向 一方。岐阜大学の研究グループは大気中での安定性に優れる層状ペロブスカイト(C4H9NH3)2(CH3NH3)n-1PbnI3n+1(n=1〜4)膜をN2雰囲気でスピンコートした研究結果をポスター発表で報告した。
図11-(a)にN2ガス流量140NL/min下で作製したサンプル、(b)にN2ガスを流さず作製したサンプルのX線回折パターンを示す。参考として粉末試料のパターンも示す。図10-(b)より、N2ガスを流さず作製した試料では基板に対して水平方向にPb-I層が成長していることが確認された。一方、図11-(a)より、N2ガス流下で成膜した試料ではPb-I層が垂直方向に優先配向することがわかった。 Snペロブスカイト太陽電池の高温耐久性を改善 電気通信大学の研究グループは、環境面からPbフリーペロブスカイト太陽電池の最有力候補とされるSn系ペロブスカイト太陽電池の耐熱性向上アプローチについて報告した。 周知のように、Snペロブスカイト太陽電池は15.7%という変換効率が得られるが、ペロブスカイト中のSn2+がSn4+へ容易に酸化するため、効率・安定性には制約がある。 そこで、研究グループはとくに高温耐久性を改善するため、以下の三つのアプローチを行った。まず、ペロブスカイトから電極へのヨウ素拡散を抑制するため、逆型構造デバイス(FTO/ホール輸送層/ペロブスカイト層/PCBM/C60/BCP/Ag)でC60とBCPの間にイオン拡散層としてSnOx膜を挿入しALD(Atomic Layer Deposition)法で成膜した。この結果、電極の腐食が抑制され、80℃、N2環境下における初期特性維持率が7%から61%に改善した。 次に、ホール輸送層として従来の水分散PEDOT/PSSからトルエン分散PEDOT/PSSに変更した。これは残留水分に起因するヨウ素離脱を抑制するためで、ヨウ素減少率が12%から1%以下と劇的に低減した。 三つ目はペロブスカイトプリカーサ溶液に用いている溶媒をDMSOから代替溶媒に変更したこと。組成は明らかにしなかったが、この独自溶媒はSnI2と安定した複合体を形成するため、ペロブスカイトの結晶化速度が低下する。つまり、Sn2+の酸化が抑制される。実験では、高温テスト下でDMSO溶媒はSn2+が5.6%減少したのに対し、代替溶媒では逆に2.7%増加した。また、高温環境下で430時間テストしたところ、初期特性維持率は40%から81%前後まで改善した。 参考文献 1)田ほか:有機EL駆動用TFTに向けた酸化物積層構造と低温熱処理を用いたZnO-TFTの高電流密度化、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、04-203(2025.3) 2)曲(まがり)ほか:次世代FPDの要求を満たす高移動度を示す安定な酸化物薄膜トランジスタ、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、100000001-305(2025.3) 3)仙波ほか:酸化スズ電子輸送層の構造制御とペロブスカイト太陽電池への応用、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-192(2025.3) 4)齋藤ほか:UVオゾン処理による基板表面の塗れ性変化を活用したペロブスカイト層のパターニング塗布条件の検討、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-298(2025.3) 5)Zhanhao Huほか:電荷輸送層を用いないペロブスカイト太陽電池の新構造の設計と光電変換特性、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-068(2025.3) 6)柴山:フタロシアニンをパッシベーション層に用いたペロブスカイト太陽電池、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-178(2025.3) 7)大島ほか:ガス流アシストスピンコーティング法による層状ペロブスカイト (C4H9NH3)2(CH3NH3)Pb2I7薄膜の配向制御、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-042(2025.3) 8)北村ほか:錫ペロブスカイト太陽電池の熱安定性向上、第72回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-309(2025.3) |
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フィルムマスクでガラスマスク並みの寸法安定性が得られます。 |