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第85回応用物理学会秋季学術講演会(9月16〜20日)


第85回秋季応用物理学会 ペロブスカイト太陽電池で新技術の提案が相次ぐ

9月16〜20日、朱鷺メッセほか2会場&ONLINEで開催された「第85回応用物理学会秋季学術講演会」。有機EL、酸化物TFT、ペロブスカイト太陽電池を中心に興味深い発表をクローズアップする。

フレキシブル有機ELに有機強塩基を用いた超低仕事関数電極を

 まず有機ELでは、千葉大学、NHK、日本触媒、大阪大学の研究グループが水分によって劣化しにくい電子注入材料を用いたフレキシブル有機ELについて報告した。

 周知のように、有機ELの発光材料の電子親和力は2.5eV以下であるため、電極-有機層間の電子のやり取りには仕事関数(WF)が3eV以下のアルカリ金属が用いられる。しかしながら、LiFやCsといったアルカリ金属は反応性が高いためデバイス寿命を律速するばかりか、厳密な封止が必要など、とくにゴムやプラスチックフィルムを基板に用いたデバイスの実用化へのボトルネックとなっている。

 このため、研究グループはアルカリ金属を用いずに仕事関数が低い電子注入材料を開発(図1-a)。まず、有機強塩基と他の有機半導体の間の水素結合の形成を利用することにより、仕事関数を3.0eVまで低減。さらに、フェナントロリン誘導体中の窒素とZnOの間の配位反応を利用することで、ZnO近傍の仕事関数を2.4eVに低減した。そして、水素結合と配位反応の両方を活用可能な有機強塩基を用いることで、Alの仕事関数を4.1eVから約2.0eVまで低減することに成功した。いうまでもなく、この2.0eVという値はアルカリ金属のなかで最も仕事関数が低いCsと同等である。

 これらの技術を用いて、日本触媒は0.07mm厚のフレキシブル有機EL(図1-(b))を試作。プラスチックフィルム基板上に10-4g/m2/dayクラスのガスバリア性を備えたガスバリア層を設けた簡易封止ながら、3000時間後でも表示画像が劣化せず、ゴムシートやプラスチックフィルムをサブストレートに用いたフルフレキシブルディスプレイにも応用可能なことを示した。


図1 有機強塩基による低仕事関数化(a)とフレキシブル有機EL(b)1)











高移動度と高信頼性を兼ね備える多結晶IGO-TFTをすべての有機ELDに


 TFT関連では、ジャパン・ディスプレイがa-Si TFT、低温poly-Si TFT、酸化物TFTに次ぐ新たなバックプレーンTFTとしてpoly-crystalline Oxide Semiconductor(Poly-OS-TFT)を紹介した。

 Poly-OS-TFTは文字通り多結晶化した酸化物半導体InGaO(IGO)を用いたTFTで、50cm2/V・s以上というハイモビリティが得られる一方、オフ電流がきわめて小さいという特徴を持つ。つまり、低温poly-Si TFTと従来のアモルファス酸化物TFTの特徴を合わせ持つ。さらに、1500×1800mmマザーガラスで量産可能などa-Si TFT並みのローコストポテンシャルを備える。なお、IGOは350〜400℃アニールによる固相成長によって1μmクラスに多結晶する。

 図2は第6世代基板上に作製した酸化物TFTの特性比較で、コンベンショナルなアモルファスIGZO-TFTに比べ5倍以上のモビリティが得られ、さらに製造プロセスの工夫によりバイアスストレス信頼性を高めることもできる。つまり、モビリティと信頼性を両立することができる。さらに、チャネル幅/長依存性がほとんどなく、W/L=1.5μm/1.0μmにチャネルを微細化してもモビリティはほとんど変化しない。

 当面のターゲットは高性能+低消費電力が求められるスマートウォッチやVR機器向けの有機ELDだが、将来的にはそのポテンシャルからすべての有機ELDに有用だという。


図2 第6世代ガラス基板(1500×1800mm)上に形成した酸化物TFTの電気特性2)






水素添加のpoly-InOx:H-TFTは高移動度に加えVthシフトもミニマム化


 一方、高知工科大学の研究グループはキャリアモビリティが高い酸化物半導体として多結晶InOxに着目、水素ドープしたpoly-InOx:H-TFTでハイモビリティと高信頼性が得られたことを発表した。

 今回の研究では、4インチガラス基板上にボトムゲート&エッチストッパー型poly-InOx:H-TFTを作製した。ゲート絶縁膜には室温形成したAl2O3膜、チャネル層には300℃で固相結晶化したpoly-InOx:H、チャネル保護膜にSiOx膜を用いた。固相結晶化後のpoly-InOx:H膜の結晶粒径は約1μmである。

 図3-(a)にTFTの伝達特性、(b)にVthのポストアニール温度(TPFA)依存性を示す。As-fabから350℃へとTPFA温度の上昇につれVthは正へとシフトし、TPFA=350℃ではVth=0.58Vだった。

 次に、水素の拡散がデバイス特性にどのような影響を与えるかを調べるため、チャネル保護膜としてTEOSを用いてプラズマCVD成膜したSiOx:Hと、誘導結合型プラズマ気相成長法(ICP-CVD)で成膜しHフリーSiOxを用いたTFTを比較した。その結果、モビリティは前者が45cm2/V・s、後者が29.9cm2/V・s、Vthは前者が0.18V、後者が0.23Vだった。つまり、初期特性では水素拡散したTFTの方が良好な値を示した。

 これに対し、PBTS(Positive Bias Temperature Stress)とNBTS(Negative Bias Temperature Stress)を評価したところ、後者の方がVthシフトが少なく、とくにNBTSに至ってはゼロだった。これは、水素拡散がないと膜密度が高まりデバイス信頼性が向上したためと考えられる。



図3 デバイス特性のアニール温度依存性3)






単分子膜を正孔回収材料に用いてペロブスカイト太陽電池の特性を向上


 ペロブスカイト太陽電池では、まず京都大学の研究グループが電子をブロックしホールを吸収する正孔回収材料に自己組織化単分子膜(SAM)を用いることを提案した。

 研究グループは前回、正孔回収単分子膜材料3PATAT-C3を報告。試作デバイスで23%と高い光電変換効率が得られたことを報告した。しかし、その分子構造から疎水性が強いため濡れ性が悪く、上部にペロブスカイト膜を均一に塗布することが困難だった。


図4 (a)4PATTI-C3の構造、(b)4PATTI-C3単分子膜を用いたペロブスカイト太陽電池のJ-V曲線4)
 そこで、今回はサドル型シクロオクタテトラエン骨格に金属酸化物表面への強い吸着力を有するホスホン酸基を四つ導入したテトラポッド型正孔回収単分子膜材料(4PATTI-C3、図4-(a))を設計・合成。4PATTI-C3のDMF溶液をITO透明導電膜付き基板上にスピンコートして単分子膜を作製した。この膜に対して光電子収量分光測定を行い、4PATTI-C3の単分子膜のイオン化ポテンシャル(HOMO)は-5.44eVであることを確認した。

 4PATTI-C3のHOMO準位とペロブスカイト材料の価電子帯(VB)準位の差がどのようにペロブスカイト太陽電池の特性に影響を及ぼすかを検討するために、VB準位が異なる2種類のペロブスカイト薄膜を用いて逆構造デバイスを作製し特性を評価した。その電流電圧特性を図4-(b)に示す。4PATTI-C3のHOMO準位に近いVB準位(-5.58eV)をもつペロブスカイトを用いた場合、光電変換効率が19.3%にとどまった。一方で、4PATTI-C3のHOMO準位より0.25eV深いVB準位(-5.69eV)をもつペロブスカイトを用いると、光電変換効率が21.7%に大幅に向上した。これらの結果は四つのホスホン酸基がITO電極とペロブスカイトにアンカー効果によって吸着して密着。さらに、水の接触角が40度と大幅に濡れ性が向上したためと考えられる。

SAMとペロブスカイトを一括成膜して効率を向上

 一方、埼玉大学の研究グループはSAM-HTL材料をペロブスカイト材料に添加して一括成膜すると光電変換効率がさらに向上することを報告した。


図6 試作デバイスのJ-V特性5)


図5 3PATAT-C3の分子構造5)

 多脚アンカーSAMである3PATAT-C3(図5)をペロブスカイトプリカーサ溶液に添加し、ITO膜付きガラス基板上に成膜してSAMとペロブスカイト層を一括成膜。この上にPC61BM/BCP/Agを成膜して試作デバイス(Target)を作製した。また、リファレンスとしてSAMレスデバイス、そして3PATAT-C3とペロブスカイト層を順次成膜したサンプル(Control)も作製した。

 これらのデバイス特性を評価したところ、光電変換効率はSAMレスデバイスが10.1%だったのに対し、順次成膜デバイスでは短絡電流、開放電圧、フィルファクターといったすべてのパラメータが上昇して17.6%と大幅に向上した。さらに、一括成膜デバイスでは3PATAT-C3を0.75mmol/Lドープした場合、20.4%という高効率が得られた。3PATAT-C3のドープ量0.75mmol/Lまでは濃度とともに光電変換効率が向上したが、この時点で飽和し、2.1mmol/Lでは20.4%と効率が向上しなかった。これは、SAMの過剰添加によってペロブスカイトの膜形態が悪化したためと考えられる。

アルカリ金属水酸化物処理によるペロブスカイト太陽電池の特性向上効果を検証


図8 高温耐久性(光照射+85℃)6)


図7 光電変換効率(AM1.5G)6)

 九州大学の研究グループは、アルカリ金属水酸化物によるペロブスカイト太陽電池のSnO2電子輸送層の表面処理効果について報告した。

 実験では、SnO2電子輸送層をLiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOHを用いて表面処理した。未処理と比較すると、LiOH、NaOH、KOHで表面処理すると初期効率(AM1.5G)は向上したが、高温耐久性(光照射+85℃)が低下した(図5、6)。TOF-SIMS、XPS、PL、XRD、SEM測定結果より、LiOH、NaOH、KOH処理ではペロブスカイトの膜質が改善されること、そしてSnO2電子輸送層への電子取り出しが向上することがわかった。しかし、RbOHやCsOHを用いて表面処理すると初期効率が低下する一方、高温耐久性が向上した(図7、8)。

 次に、KOHとCsOHの混合溶液(KOH+CsOH)を用いた表面処理やKOH→CsOH(KOH/CsOH)もしくはCsOH→KOH(CsOH/KOH)の逐次処理を試みた。理由は未だ明らかではないが、最初にKOH、次にCsOHを用いた逐次処理(KOH/CsOH)を行うと、光電変換効率と高温耐久性が同時に向上した(図7、8)。

スパッタ成膜SnO2+400℃アニールをペロブスカイト太陽電池の電子輸送層に

 奈良先端科学技術大学院大学と青山学院大学の研究グループは、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料として従来用いられているTiO2に代わり、優れた光学的・電気的特性や安定性を示すSnO2を用い、これをスパッタリング成膜することで大型化対応も可能なことを示した。


図9 400℃アニールしたSnO2-ETLデバイスのJ-V特性7)

 今回の実験では、ITO膜付きガラス基板上にSnO2膜を膜厚40nmでスパッタリング成膜し、300℃、400℃、450℃、500℃でアニールした。その後、光吸収層としてペロブスカイト層(FAPbI3)、正孔輸送層としてSpiro-OMeTADをそれぞれスピンコート。最後に、Au電極を膜厚80nmで真空蒸着した。

 図9にSnO2電子輸送層デバイスを400℃でアニールした際のJ-V特性を示す。他のアニール温度処理デバイスも同様に評価したところ、400℃アニールでJSC=23.28mA/cm2、VOC=1.126 V、変換効率18.22%と最も高い特性を示した。これは、アニール温度を変化させることによって光学バンドギャップが変化したためと考えられる。

独自の透明PIフィルムをペロブスカイト太陽電池のフレキシブル基板に

 アイ.エス.テイと桐蔭横浜大学は、フレキシブルペロブスカイト太陽電池のサブストレートとしてアイ.エス.テイオリジナルの機能性透明ポリイミドフィルム「TORMED(トーメッド)を提案した。TORMEDは高耐久性と高耐熱性で知られるポリイミド樹脂からなる透明フィルムで、PETフィルムやコンベンショナルなPIフィルムに代わるサブストレートとして有望視される。


図10 SnCl2塗布後の加熱温度と変換効率分布の関係8)

 実験ではITO膜を成膜したTORMEDにSnO2膜、CH3NH3PbI3膜、spiro-OMeTAD膜をそれぞれスピンコートしてペロブスカイト太陽電池セルを作製した。SnO2膜はSnCl2・2H2Oのエタノール溶液を塗布し、加熱することでSnO2に変換した。

 図10にSnCl2の加熱温度と試作デバイスの変換効率の関係を示す。150℃加熱ではPETフィルムサンプル、TORMEDサンプルともに変換効率の平均値は7%前後だったが、TORMEDサンプルでは180℃加熱によって変換効率の平均値は13%に増加し、さらに変換効率ばらつきも大幅に改善された。これは、180℃の加熱によって良質SnO2層が成膜できたことを意味する。つまり、TORMEDフィルムを用いると、PETフィルムなど従来フィルムでは採用できなかった材料や工程が流用できるわけである。

レーザー光還元法で肉眼では認識できない微細Agメッシュ配線を

 次世代タッチパネル向けでは、静岡大学が肉眼では認識できないフレキシブル微細透明電極としてレーザー光還元法による高精細Agメッシュ型透明電極を提案した。

 図11-(a)のように、レーザー光還元法はマスクレス方式であるため、Ag導線のメッシュ間隔によるシート抵抗値・透過率の調整が容易である。光還元材料としてポリイミド前駆体に硝酸銀を混合したポリマーを使用した。周知のように、Agは抵抗率が低く展延性に優れるほか、屈曲による電気伝導率の悪化も抑制できる。

 光源には波長405nmの青色半導体レーザーを使用し、ポリマーに集光照射して焦点域で局所的にAgイオンを還元することにより、連続したAg導線を作製した。Ag導線の最小線幅は2μmで、レーザーパワー7mW、描画速度200μm/sで最小抵抗率2.2×10-7Ω・mが得られた。


図11 (a)プロセスイメージ、(b)Ag電極のSEM像、(c)Agメッシュ電極の外観9)



参考文献
1)深川ほか:有機強塩基を用いた低仕事関数電極の開発とフレキシブルOLEDへの応用、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、100000001-018(2024.9)
2)津吹ほか:OLED Displayの最先端バックプレーン技術〜LTPS、LTPOからHMO(高移動度酸化物半導体)へ〜、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、100000001-333(2024.9)
3)岡本ほか:高信頼性ボトムゲート型水素添加多結晶酸化インジウム薄膜トランジスタ、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、100000001-334(2024.9)
4)チョンほか:シクロオクタテトラエン骨格を用いたペロブスカイト太陽電池の正孔回収単分子膜材料の開発、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-128(2024.9)
5)冨田ほか:多脚結合アンカーを用いた正孔輸送層・ペロブスカイト層の一括形成によるペロブスカイト太陽電池、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-398(2024.9)
6)松島ほか:アルカリ金属水酸化物処理を行った高性能ペロブスカイト太陽電池、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-409(2024.9)
7)小川ほか:ペロブスカイト太陽電池応用へ向けたスパッタ法によるSnO2薄膜の検討、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-320(2024.9)
8)高須賀ほか:機能性透明ポリイミドフィルムを基材としたペロブスカイト太陽電池の作製、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-329(2024.9)
9)島田ほか:青色半導体レーザー光還元法による高精細銀メッシュ型透明電極の開発、第85回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集、11-046(2024.9)

REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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