ここにきて認知度も上がってきた電子ペーパー。その立役者といえばやはり米E Ink。独自のマイクロカプセル型電気泳動ディスプレイは最終製品への採用が相次いで決定。携帯電話やe-book市場で一定の存在を占めるまでに成長した。電子ペーパー市場拡大のために打つ次の一手は? 副社長の桑田良輔氏を直撃した。
副社長■桑田良輔氏
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▲桑田良輔氏 |
Q:ここにきて電子ペーパーはかなりオーソライズされてきたと思います。そこで、貴社のビジネススタンスとアライアンス関係を整理したいのですが。
A:当社のビジネススタイルは、アクティブマトリクスパネルとパッシブマトリクスパネルで異なります。
前者に関しては、ITO膜付きプラスチックフィルム基板に白色トナー、黒色トナー、オイルを充填したマイクロカプセルをラミネートした前面基板を供給し、モジュールメーカーが背面アクティブ基板にラミネートしてモジュールに仕上げるというスタイルです。提携しているアクティブモジュールメーカーですが、従来のガラス基板製パネルはPrime View International(PVI、台湾)とLG Display(韓国)の2社、、SUS基板製パネルはLG Displayの1社です。両社ともコンベンショナルなa-Si TFTをアクティブ素子に用いています。一方、プラスチックフィルム基板上に形成した有機TFTをアクティブ素子にするのがPlastic Logic(英国)とPolymer Vision(米国)です。いずれのケースとも当社は前面フィルム基板を供給するスキームです。
Q:これら4社以外のモジュールメーカーからもオファーがあると思いますが。
A:もちろんありますが、現時点ではこの4社です。今後、マーケットの拡大にともなってアクティブ電子ペーパーの出荷量も増えてくると思いますので、モジュールメーカーもさらに増える見通しです。
Q:学会発表では、Samsung ElectronicsなどもE Ink方式電子ペーパーを発表していますが。
A:もちろん、それは承知していますが、まだ前面基板の供給契約は結んでおらず、当社では“開発中”と判断しています。
Q:凸版印刷には前面フィルム基板の生産を委託しているんですか。
A:そうです。当社は米Bostonでインクを製造し、これを凸版印刷などへ支給しPET/PENフィルムにラミネートしてもらっています。
E Inkの電気泳動ディスプレイは背面から順にアクティブ素子もしくはパッシブ電極ラインを設けた背面サブストレート、エレクトリックインク層、ITO電極、PET/PENフィルム、SiO2膜などのハードコート層から構成される。エレクトリックインク層には粒径30〜100μmのマイクロカプセルが無数に分散されており、さらにマイクロカプセルのなかには黒色カーボンインクパウダーと白色TiO2インクパウダーが充填されている。インクパウダーは1μm以下の微粒子で、表面は黒色がマイナス、白色がプラスの電位で永久チャージされている。
表示原理はITO電極に+の電圧を印加すると、マイナスに帯電している黒色インクパウダーが磁石のように引っ張られてITO膜に接近。一方、白色インクパウダーは+の電圧を避けるようにITO膜から離れる。このため、表示側からみると黒表示となる。逆に、−の電圧を印加すると白色インクパウダーがITO膜に接近し、外光反射によって白色表示になる。
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▲マイクロカプセル型電気泳動ディスプレイの構造と表示原理 |
Q:パッシブパネルの事業形態は。
A:FPC(Flexible Printed Circuits)などの回路基板までを含めたパネルをモジュールメーカーまたはエンドユーザーに一括供給しています。つまり、アクティブパネルに比べ当社にとっては川下のビジネスといえます。
Q:背面基板と前面フィルムのラミネートなどは委託ですか。
A:そうです。複数のPCBメーカーとタイアップしてますが、名前は公表できません。
Q:ここにきてE Ink方式電子ペーパーを搭載したアプリケーションが相次いで登場していますが、そのエンドユーザー数は。
A:アクティブパネルに関してはソニーのe-book(LIBRIE)、Amazon.comのe-book(Kindle)が製品化されています。一方、セグメントパネルを含めたパッシブパネルでは日立製作所の携帯電話、カシオ計算機の携帯電話、シチズン時計の腕時計などが製品化されています。もちろん、これら以外にも採用が決まっている製品もあり、08年中には計20製品程度が出回る見通しです。このうち、電子ブックはソニーやAmazonを含め10社強になります。
▲E Inkを巡る関係 |
Q:携帯電話向けでは昨年、米Motorolaがインドやパキスタン向けにメイン画面にE Ink方式電子ペーパーを搭載したモデルを発売したと思いますが。
A:おっしゃるとおりですが、そのモデルはすでに生産終了となっています。
Q:つまり、MotorolaはE Ink方式電子ペーパーの採用を打ち切ったわけですか。
A:そうなりますが、その理由についてはユーザーであるMotorolaに聞いてください。
Q:Motorolaの採用は貴社にとってきわめて大きな商談だっと思います。そのダメージは小さくないのでは。
A:大きな売上げだったことは確かですが、e-bookを中心に相次いで商談が決まっており、Motorolaの生産が終了してもなお出荷量、売上高とも今年は大幅に伸びる見通しです。
Q:話は変わりますが、標準的なモジュールの最新スペックは。
A:アクティブパネルの場合、6型SVGAや10型XGAの製品化または試作が多く、最新評価モデルの「VIZPEX 110」は8階調表示です。応答速度は740msec、推奨駆動電圧は15V、コントラストは8:1以上、反射率は約40%です。
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▲日立製作所の着せ替え携帯電話 |
Q:消費電力は。
A:パネルのサイズや解像度によって異なるため公表してませんが、画像切り替え時に要する電力はTFT-LCDのと同程度と考えてください。いうまでもなく、E Ink方式電子ペーパーは画像保持には電力を消費しませんので、トータル消費電力はLCDに比べ圧倒的に少ない省エネ製品といえます。なお、このVIZPEX 110にもとづく最終製品は今年のクリスマス商戦からマーケットに登場する見通しです。
電子ペーパーでないと不可能なアプリケーションを
Q:貴社は電子ペーパー市場を開拓し、このフィールドで一歩も二歩も先をいっていますが、今後のアプリケーション開拓戦略は。
A:携帯電話、e-book、時計、POP、USBメモリーといった既存用途に加え、インフォメーションボードなどの大型用途も立ち上がりつつあり、電子ペーパーの前途は非常に明るいと思います。なにより、モジュールメーカー、セットメーカーともメーカー数が増えていることが強みです。いうまでもなく、これはアプリケーション開拓にとって非常に有効で、これからはモジュールメーカーやセットメーカーが電子ペーパーの新しい使い方を提案する段階になってきたといえます。つまり、これまでは黎明期だったため、当社自らが行ってきた用途開拓をよりエンドユーザーに近い企業が中心となって推進するわけです。このため、今後、当社はインクをはじめとする要素技術の開発をメインにすることになります。
Q:E Ink方式電子ペーパーはビジネスとしては第1フェーズを終了したので、後は自然とマーケットが拡大するというわけですね。
A:楽観的なもしれませんが、そう期待しています(笑)。
Q:今後の用途拡大を考えると、やはりカラー化が課題になるのでは。
A:おっしゃるとおりです。今後の技術課題はフレキシブル化とカラー化で、前者についてはプラスチックフィルムやSUS箔を用いた試作パネルがPlastic Logic、Polymer Vision、LG Displayから発表されており、そう遠くない将来に製品化されるでしょう。一方、カラー化に関しては前面基板上にRGBWのマイクロカラーフィルター(CF)を設けた4096色パネルを開発。学会や各種展示会で公開してきましたが、外光がCFを2回経由するという構造から輝度が低く、まだ完成品とはいえないレベルです。このため、09年中にはブラッシュアップした試作パネルを開発し、モジュールメーカーやセットメーカーに対して提案したいと考えています。
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▲Plastic Logicのフレキシブル電子ペーパー |
Q:そのブラッシュアップメソッドとは。
A:前面基板上にCFを設けるという基本構造は崩さずに、インクパウダーなどを最適化します。詳細はノウハウのためいえませんが、例えばより黒色度の高いブラックパウダーを使えばコントラストが向上しますし、より反射率の高い白色パウダーを用いれば反射率が向上し輝度がアップします。
Q:ただ、そうした工夫は帯電性、応答速度、駆動電圧といった基本特性に影響するのでは。
A:確かにそうした懸念はありますが、そうした基本特性を低下させずに表示品位を高めるのがテクノロジーです(笑)。もちろん、詳細はいえませんが・・・・・(笑)。
Q:いずれにしてもブラッシュアップしたカラー試作パネルができれば、用途開拓はモジュールメーカーやセットメーカーが中心になって行うわけですか。
A:基本的にはそうなります。
Q:カラーパネルの場合、これまでさほどバッティングしていなかったカラーTFT-LCDがたちはだかることになります。どのあたりのアプリケーションを狙っているんですか。
A:これは当社というよりも私見になりますが、電子ペーパーはローパワー、高コントラスト、薄型軽量を武器に存在感を高めてきました。つまり、既存のLCDにないアドバンテージがあったからこそマーケットができたといえます。このため、カラーパネルでもコンベンショナルなTFT-LCDと真っ向から競合するアプリケーションを狙うのは現実的ではありません。ローパワー、高コントラスト、フレキシブルだけど輝度は多少暗くてもいい用途を狙うのが得策といえます。つまり、電子ペーパーでしか実現できない用途を開拓する必要があるでしょう。
Q:ただ、それでもカラーパネルの場合はTFT-LCDとの一部競合は避けられないと思います。そこで、コスト競争力が気になります。
A:コストについてはモジュールメーカーがコメントする話なので明確な値はいえませんが、やはり電子ペーパーはTFT-LCDにまず追いつき、追い越していかなければならないと思います。ですから、製造コストも含めカラーパネルをブラッシュアップさせたいと考えています。
Q:最後に売上高、シェアを。
A:売上高については公表してません。マーケットシェアは現段階では100%近いはずです。ただ、マーケットのパイが大きくなってますので、コンペチターの存在は歓迎しており刺激にもなります。 |