ユニークなマテリアルを次々と生み出してきた豊島製作所は、酸化物半導体として脚光を浴びているアモルファスIn-Ga-ZnO(通称IGZO)膜をスピンコート法でシリコンウェハー上に塗布することに成功、スピンコート用溶液をサンプル出荷することを明らかにした。スパッタリング成膜用のIGZOターゲットは同社を含め複数のターゲットメーカーから製品化されているが、塗布型材料を実用化したのは世界で初めて。まだ開発したばかりで使用プロセス条件の最適化はこれからだが、IGZO膜を脱真空プロセスで成膜できるインパクトは大きく、今後、注目が高まるのは間違いない。開発者に直撃インタビューを試みた。
マテリアルズシステム事業部 部長■古山晃一氏
Q:貴社は以前からIGZOターゲットを製品化されてますが、今回の塗布型材料は画期的ですね。
A:はい。ローコスト化のため、以前から塗布型材料に対するニーズが多かったのですが、弊社を含めこれまで開発されたものは膜にすると白濁するなど実用レベルとはいえませんでした。そこで、従来のアルコキシド系有機金属錯体に代わる有機金属錯体を模索。まったく新しい有機金属錯体をベースにしたプリカーサ材料を開発しました。
Q:有機金属錯体ですか。ということはIGZOライクな膜ですね。
A:厳密にいえばそうですが、膜的にはぼほIGZO膜といえると思います。
Q:スピンコート溶液の組成は。
A:それはシークレットですが、有機金属錯体と有機溶媒からなると考えてください。
Q:では濃度は。
A:まだ組成比率を最適化できているわけではないのでそれもちょっと・・・・・・。
Q:粘度は。
A:正確に測定してませんが、スピンコート用なので数cpsだと思います。
Q:IGZOの組成比率はInが1、Gaが1、Znが1、Oが4の通称1114と、それぞれ2、2、1、7の通称2217が知られてますが、今回の膜は。
A:まずはベーシックな1114を作製しました。
Q:塗布・焼成条件は。
A:今回、熱酸化SiO2膜付きシリコンウェハー上に塗布したサンプルは、中央滴下した後、回転数3000rpmで30秒回転させ膜厚約40nmでスピンコートしました。次に大気中で150℃×5min仮焼成した後、450℃×15minで焼成。同様の塗布〜仮焼成〜焼成を計5回繰り返し、膜厚を計200nmにしました。最後に、真空中で500℃×3hポストアニールしました。
写真1 スピンコート膜の断面写真
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Q:スピンコートでは1回当たりの膜厚は40nmしか稼げないんですか。
A:そういうわけではありません。濃度や粘度を調整すればレイヤーによっては1回の塗布で所望の膜厚が得られるはずです。
Q:また、大気中で450℃、真空中で500℃とはかなり高温ですね。
A:そのあたりも今後、材料組成やプロセス条件を最適化すれば低温化できると考えています。
Q:その方法は。
A:低い揮発性を維持したまま、有機金属錯体の熱分解性を高めることなどを考えています。容易に想像できるように、これらは基本的にトレードオフの関係になるため、難易度はそれなりに高いと想定しています。
Q:そもそも真空アニールは不可欠なんでしょうか。
A:残念ながら必要不可欠で、大気焼成でできた表面の酸化膜を真空アニールによって除去するイメージです。今回のサンプルは大気焼成後では導電性を示さず、真空アニールすることによって2×10-2Ω・cmという比抵抗が得られました。このため、ほぼアモルファスIGZO膜になっていると考えています。
Q:IGZOトランジスタは試作しておらず、酸化物半導体として動作するかどうかは確認してないんですね。
A:現段階ではそうです。今後、外部の研究機関でデバイスを試作してもらい特性を評価してもらいたいと考えています。
Q:となると、コンベンショナルなスパッタリング膜とキャリアモビリティやON/OFF電流レシオといった特性が同等かどうかはこれからですね。
A:そうです。
Q:パターニング方法は。
A:それも確認してませんが、従来の弱酸によるウェットエッチングが適用できると考えています。
Q:この2月からサンプル出荷を開始するとのことですが。
A:はい。とりあえず容量数十mLの少量サンプルを販売する予定です。
Q:価格は。
A:15〜20万円を想定しています。
Q:保管方法は。
A:常温で保管可能で、いわゆるポットライフも長いと考えています。
Q:膜付き基板を供給する考えは。
A:当社は成膜・塗布メーカーではありませんので、評価用はともかくとして、商業用としては考えていません。
Q:今後の課題は。
A:やはり再三突っ込まれたように(笑)、プロセス温度の低温化&高速処理化、そしてデバイスとしての動作確認および特性評価になります。
Q:どうせ塗布型なら、ダイレクトパターニングできるインクジェット(IJ)用がもっとも望まれると思いますが。
A:おっしゃる通りだと思います。ご承知のようにIJ用はスピンコート用と粘度もほぼ同じなので、比較的容易に開発できると考えています。
スパッタ膜ではモビリティ16.6cm2/Vsecをマーク
Q:最後に、IGZOターゲット事業の状況は。
A:まだ量産採用という段階ではありませんが、サンプル販売は順調です。
Q:最新の特性データは。
A:東京大学先端科学技術研究センターの荒川研究室で試作してもらったデバイス(ゲート/High-kゲート絶縁膜/IZGO半導体層/メタルソース・ドレイン素子)ではキャリアモビリティ16.6cm2/V・sec、Vth=0.9V、ON/OFF電流レシオ=107ときわめて高い値が得られました(図1)。もちろん、スパッタリング成膜時のO2流量によって比抵抗も調整できます。
図1 スパッタリングデバイスの特性例
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