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nano tech 2023(2023年2月1〜3日)


nanotech 2023 ペロブスカイト量子ドットを波長変換フィルムやLCDのCFに

2023年2月1〜3日、東京ビッグサイトで開かれた「nano tech 2023」。新型コロナウイルス流行の影響はかなり薄れてきた印象で、来場者数も新型コロナ流行前並みのレベルになってきた。独断と偏見でトピックスを列挙する。


 まずはエレクトロニクスデバイスから。独断と偏見だが、今回の最大のトピックスは伊勢化学工業と山形大学が共同開発したペロブスカイト量子ドット(Perovskite Quantum Dots:PeQDs)だった。

 PeQDsとはその名の通り、ペロブスカイト結晶を量子ドット化したまったく新しい発光材料。つまり、ペロブスカイト結晶をナノサイズ化することによって発光特性を実現する。周知のようにペロブスカイト結晶はABX3構造のイオン結晶で、AサイトはメチルアミンMA+をはじめとする有機カチオン、BサイトはPb2+やSn2+などの遷移元素イオン、XサイトはBr-、Cl-、I-といったハロゲンイオンからなる。


写真1 Pe-QDs分散液
 既存の量子ドットはCd-ZnSなどの粒径によって発光色を設定するが、PeQDsはそうした粒径設定に加え、Xサイトの組成によっても発光色を設定することができる。具体的には、Xサイトを塩素Clにすると青色〜紫色、臭素Brにすると緑色、ヨウ素Iにすると赤色系になる。これらのパラメータによって発光色は自在に設定でき、もちろん粒径分布マージンも広くなる。言い換えれば、PeQDs製造時の粒径分布をさほどシビアに管理する必要がない。

 このPeQDsはUVを吸収して発光する。その発光量子収率(PLQY)はRGBとも100%を達成。また、半値幅が20〜45nmと狭くシャープなスペクトルが得られるという量子ドットの特徴もそのまま継承している。開発初期段階の現在はスピンコート法やスリットコート法でサンプル基板に塗布しているが、インクジェットプリンティング法によってダイレクトパターニングすることも可能と思われる。


図1 FTFRの写真と構造イメージ

 その用途は波長変換フィルムやLCDのカラーフィルター(CF)などを想定。つまり、PeQDsがその発光波長よりも短波長の光を吸収して発光するという特性を利用する。このため、青色光を緑色や赤色に色変換する。その結果、青色LEDの光を色変換する緑色、赤色面光源フィルムが実現する。とくに有効なのが野菜栽培への使用で、例えば緑色フィルムによって野菜畑をカバリングして太陽光中の紫外線を特定波長の光に変換。これにより、野菜の栄養価や収量を高める。

 また、後者ではマイクロCFパターンとして緑色ドットと赤色ドットをパターニングし、青色LEDの光をBlueサブピクセルはそのまま透過させる一方、GreenサブピクセルとRedサブピクセルではそれぞれの色に色変換する仕組み。つまり、青色LEDバックライト+PeQDs-CFパネルにする。

 伊勢化学工業は現在、溶媒に溶解させたPeQDs分散液をサンプル出荷中で、図1の強制薄膜式マイクロリアクター(FTFR)と名づけたPeQDSs大量合成法を開発。この結果、5000mL/hという大量合成が可能だという。

超薄型リチウムイオン電池を搭載してリアルウェアラブル有機EL照明を


写真3 薄型電池一体型有機EL照明デバイスの裏側

写真2 各種有機EL照明デバイス
 一方、日本触媒はフレキシブル有機EL照明デバイス「iOLED」を展示、小型サイズながらPETサブストレートを用いたフレキシブルパネルからロールタイプ、さらにはガラス基板製パッシブマトリクス駆動パネルを披露した。デバイス構造は独自開発した有機・無機ハイブリッドレイヤー電子注入層を用いた逆構造型(カソード/電子注入層/電子輸送層/発光層/ホール輸送層/ホール注入層/アノード)で、コンベンショナルなアルカリバッファ電子注入層デバイスに比べガスバリア性が高く、ライフタイムが長いのが特徴。現時点での電流効率は5mA/cm2、輝度半減寿命は10万時間だという。

 What's Newは実用化を見据え、日本ガイシの超薄型リチウムイオン電池「EnerCera(エナセラ)」をデバイスの裏側に搭載(写真3)したことで、トータルモジュールでも0.55oに薄型化。正真正銘のウェアラブルモジュールであることをアピールした。気になるリリース時期も「年内に製造委託による量産体制を構築し、来年にもリリースする」とのこと。

超撥水技術で接触角を高めるとともに液滴の滑落性も制御

 製造インフラでは、シチズン時計が薬剤フリーの超撥水加工処理技術をアピールした。図2のようにレーザーダイレクト微細加工とインプリントによってPDMS(ポリジメチルシロキサン)上に微細構造を設けて超撥水性をもたせたもので、標準的な水の接触角は150度に。


図2 超撥水基板の製造フロー


写真4 撥水性の比較 右がPDMS基板、左が超撥水PDMS基板
 ユニークなのは、μmオーダーの微細構造物のディメンジョンや配置を工夫することにより液滴の滑落性が制御できること。つまり、PDMS基板からの滑落度が制御できる。

 実際、ブースでは写真4のように通常のPDMS基板とこの超撥水PDMS基板に水を垂らしたデモを敢行。前者は液滴が大きくなった後に一度に液滴が垂れるのに対し、後者はリアルタイムで液滴が滑落していた。もちろん、通所のPDMS基板のような滑落性をもたせることも可能だ。用途はマイクロ流路、精密金型、医療用機器などを想定している。

CNTシートをアノードに用いてペロブスカイト太陽電池の構造を簡素化

 ペロブスカイト太陽電池向けでユニークだったのが、日本ゼオンのシングルウォールCNT(カーボンナノチューブ)シートをアノードに用いるという提案。図3のように、ペロブスカイト光吸収層に直接CNTシートを貼り付けてアノードとして機能させるもので、従来デバイスで必要なホール輸送層や真空成膜アノードが不要となりデバイス構造が簡素化できる。もちろん、これにともなう製造コストダウンも期待できる。また、ハロゲン成分の分解にともなう腐食の心配がない。

 最初に試作したデバイスは屋内で18%、屋外で11%という光電変換効率を実現。ただし、これは従来デバイスに比べ3割ほど低い数字で、デバイスへの採用にあたってはCNTアノード〜ペロブスカイト層間のキャリア注入障壁の低減が必要になる。ちなみに、CNTシートはポーラス状のため、実用化デバイスではその上部にガスバリア膜を設ける必要がある。


図3 従来デバイスとCNTシート貼り付けデバイスの構造比較




















粘土材料を掃引塗布してガスバリア膜に


 有機デバイス向けのガスバリア膜の提案も目についた。まずはクニミネ工業で、産業技術総合研究所から受託生産している粘土ガスバリア材料「クニピア-RCシリーズ」をアピールした。

 主成分である粘土の固形分を20〜60%にしたペーストで、アセトニトリル、エタノール、2-プロパノールといった溶剤に溶解させた後、デバイスに塗布し、100℃程度で乾燥・硬化させてガスバリア膜にする。この際、キャスト成膜やスリット成膜といった掃引成膜によって板状結晶のモンモリロナイト結晶を自己整合的に配向させる。つまり、図4のようにモンモリロナイト結晶がスタックすることによってH2OやO2といった不純物ガスをブロックする。ただし、水蒸気透過率(WVTR)は10-2g/m2/dayクラスなので、有機ELに代表される有機デバイスに用いるにはSiN系などの無機バリア膜との積層が必要になる。


図4 粘土ガスバリア膜のSEM画像とガスバリア性発現メカニズム

















超ハイバリア蒸着フィルムでペロブスカイト太陽電池をサンドイッチバリア



写真5 蒸着ハイバリアフィルムロール
 一方、東レはペロブスカイト太陽電池や各種センサー向けに蒸着超ハイバリアフィルムを開発したことを発表した。複数の無機化合物を共蒸着することによってハイバリア膜を成膜したフィルムで、そのコストは超高速成膜性とRoll to Rollプロセスの採用などによりコンベンショナルなスパッタリング法の1/5になるという。

 気になる水蒸気透過性は1層で10-3g/m2/dayで、ペロブスカイト太陽電池ならデバイスを上下でサンドイッチすることにより実用的なガスバリア性が確保できる可能性がある。また、フレキシブル性はR=3oで10万回の曲げテスト後も特性低下がないことを確認。可視光透過率は90%、ヘイズも1%以下と透明フィルムに求められる基本特性も備えている。

ポリチオフェン系ポリマーをフレキシブル製品の透明導電材料・塗料に


写真6 透明有機導電性材料を塗布して作製した透明ヒーター
 透明導電材料では、岩通ケミカルクロスがポリチオフェン系の透明有機導電材料を透明導電膜や導電塗料に用いることを提案した。コンベンショナルなITO膜に比べフレキシブル対応が容易で、曲げ加工や延伸加工しても導電性を維持する。そのシート抵抗値はティピカルで200Ω/□だが、濃度によってある程度調整することができる。ただし、85〜90%である可視光透過率は導電性とトレードオフの関係になる。ブースでは、この材料を塗布した帯電防止トレイ用シート、透明フィルムヒーター、液晶シャッター用フィルムなどを展示。すでに実用化段階にあることを示唆した。

REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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