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SID 2012〜ハイブリッド有機ELデバイス編


SID 2012〜ハイブリッド有機ELデバイス編

 周知のように、有機ELはフラットパネルディスプレイや照明デバイスといったエレクトロニクスデバイスから透明ディスプレイ、ミラーディスプレイ、フレキシブルディスプレイと多様なアプリケーションにまで展開することができる。さらに、その特徴を活かして電子ペーパー、LCD、有機薄膜太陽電池とインテグレーションしたハイブリッドデバイスも実現可能だ。今回のSID 2012ではこうしたハイブリッドデバイスの提案が活発化。実用化機運が高まってきたため、ここではハイブリッドデバイスの発表を取り上げることにした。

PDLC、透明有機EL、有機薄膜太陽電池をスタックしたハイブリッドデバイスを


図2 PDLCの電圧-透過率特性1)


図1 ハイブリッドデバイスの構造1)

 まずは台湾のNational Taiwan Universityの発表からで、ポリマーネットワークLCD(PDLC)、有機薄膜太陽電池、透明有機ELをスタックした3機能ハイブリッドデバイスについて発表した。

 パネルの構造は図1の通りで、上記の3デバイスをスタックし2枚のガラス基板ではさんだだけである。このハイブリッドデバイスではミドル部の透明有機EL、そしてトップ部のPDLCまでハイコントラストが得られる。

 有機薄膜太陽電池はITOアノード(100nm)/PEDOT:PSSホール収集層(20nm)/P3HT:PCBMバルクテロ接合型高分子有機半導体層(220nm)/Ca電子バッファ層(20nm)/Agカソード(12.5nm)、透明有機ELはNPBホール輸送層(60nm)/Alq3緑色発光層兼電子輸送層(60nm)/Caバッファ層(20nm)/Ag半透過性カソード(12.5nm)と、どちらもいわゆるクラシックストラクチャーを採用した。ここで有機薄膜太陽電池のAgカソードは仕事関数が低すぎるため、通常は有機ELのアノードとして機能しない。そこで、有機薄膜太陽電池のAgカソード上に仕事関数の高いSAM(Self-assembled Monolayer)を設けた。


図3 透明有機ELのJ-V特性1)


写真1 PDLCをOFF/ONにした際の様子1)

 これらを標準的なプロセスで作製しタンデムデバイスを作製した後、このハイブリッドデバイスのキーポイントであるパッシベーションレイヤーを形成する。膜厚は3〜4μmで、UV硬化型樹脂をスピンコートしUV光を15分間照射して硬化した。

 この後、スペーサーボールによって8μm程度のセルギャップを確保し、ITO膜付きガラス基板で封止する。そして、混合液晶材料をセル内に注入し、UV硬化樹脂でシールする。最後に、UV光を照度10mW/cm2で8分照射する。この結果、相分離現象によって液晶がポリマーネットワーク化される仕組み。

 図1のように二つのディスプレイデバイスは共通の電極を使用する一方、有機薄膜太陽電池と有機ELの間にあるAgは有機薄膜太陽電池のカソードとして用いる。


図4 有機薄膜太陽電池のJ-V特性1)

 図2はリファレンスであるシングルPDLCとハイブリッドデバイス内のPDLCの電圧-透過率特性で、後者は偏光板レスの反射モードにより有機ELを点灯させることができる。二つのPDLCは正常に動作したが、駆動電圧と透過率特性はかなり異なり、ハイブリッドデバイスのPDLCはパッシベーションレイヤーの膜厚が厚いと駆動電圧が上昇する。写真1はPDLCのOFF時とON時の様子で、OFF状態では散乱モードとなり明状態を示す。他方、ON状態では透過モードとなり、バックグラウンド、つまり有機薄膜太陽電池が映る。

 図3は透明有機ELの特性で、PDLC作製後、電流密度15mA/cm2では駆動電圧が1.5V、効率が0.4cd/Aと特性が低下した。これは、PDLC作製プロセス中にコンタミネーションが発生したためと考えられる。しかしながら、透明有機ELは正常に動作するため、今後、プロセスを最適化すればこうした特性低下は解消できると考えられる。

 図4にPDLCをONにした状態でJ-V特性を測定した結果を示す。短絡電流密度は1.8mA/cm2、開放電圧は0.63V、フィルファクターは39.78%で、光電変換効率は0.45%だった。

前面基板上にARナノピラーを設けて有機ELの輝度と有機薄膜太陽電池の効率を改善

 National Taiwan UniversityはMingchi University of Technology、National Chiao Tung Universityと共同で有機EL&有機薄膜太陽電池ハイブリッドデバイスについての研究成果も報告。デバイスのトップ面にナノピラーアレイパターンを設けてEL発光の光取り出し効率を大幅に改善するとともに、光電変換効率も高めた。


図6 ナノインプリントのプロセス条件とナノミラーの高さの関係2)


図5 タンデムデバイスの構造(a)、ARナノピラーのAFM像(b)、デバイスの写真(c)2)

 周知のように、有機ELと有機薄膜太陽電池を組み合わせたハイブリッドデバイスはメタルカソードからの外光反射が減少するためコントラストが向上するとともに、エネルギーを効率的にリサイクルすることができる。しかしながら、有機薄膜太陽電池の強い光吸収によって有機ELの発光効率は低下する。つまり、有機ELのコントラストと効率はトレードオフの関係になる。有機薄膜太陽電池の光吸収を相殺するため、マイクロレンズアレイなどの光散乱層を設けるとEL光の光取り出し効率が改善できるが、光散乱層は総じて表面平滑性が低いため、入射光の透過に悪影響を及ぼし、有機薄膜太陽電池の光電変換効率は低下する傾向にある。


図8 輝度向上レシオ&電力変換効率向上レシオの入射角依存性2)


図7 ナノピラーの高さと平均反射率2))

 そこで、ナノインプリント法でナノピラーアレイを設けたプラスチックフィルムをアンチリフレクション(AR)レイヤーとしてデバイス前面に貼り付けることにした。図5-(a)にデバイス構造を示す。有機ELはクラシックなAlq3ベースの低分子素子で、Al(5nm)/Ag(15nm)半透過性メタルを接続レイヤーにして有機薄膜太陽電池とコンタクトさせる。他方、有機薄膜太陽電池はp層にSubPC(11nm)、n層にフラーレンC60を用いた低分子蒸着型で、上記の半透過性メタルを有機薄膜太陽電池のカソード、そして有機ELのアノードに用いる。このため、Agメタル上にSAMを設けて仕事関数を調整しホール注入特性を改善した。

 ナノインプリントプロセスでは、まずポリカーボネート(PC)フィルムをTg以上に加熱。そして、陽極酸化法によって作製したテンプレートをPCフィルム上に押し当て、5〜25kg/m2で加圧してナノインプリント処理する。この結果、PCフィルム上にナノピラーアレイができる。図5-(b)はそのAFM像で、加圧力に比例して平均高さが変化した。また、テンプレート離型時の加熱温度を高くすると、ナノピラーが摩擦力によって伸びることがわかった。そこで、離型温度を高くしてナノピラーを高くするとともに断面形状をテーパー化した。図6にナノピラーの平均高さとプロセス条件の関係を示す。また、図5-cのようにナノピラーアレイを設けると、明らかにAR効果が表れ、画像が暗くなった。

 図7はナノピラーの平均高さと平均反射率の関係で、平均反射率はナノピラーの高さが高くなるにしたがって低下した。また、ナノインプリンティングプロセスで離型温度を高くしてナノピラーを伸ばすと、平均反射率は大幅に低下した。これは、形状がよりテーパ化するためである。その結果、反射率はナノピラーレスPCフィルムの10.2%から3.3%にまで低下した。


図10 駆動電圧とコントラストの関係2)


図9 反射率の比較2)

 図8にタンデムデバイスの輝度向上レシオ・電力変換効率向上レシオと入射角の関係を示す。ナノピラーのAR特性のため、デバイス内部での反射がなくなり、輝度は49.8%も向上した。しかし、輝度向上レシオには入射角依存性があり、50度で94.8%というベストリザルトが得られた。他方、電力変換効率向上レシオは入射角に比例して増加し、マックスで24%だった。この際、変換効率はリファレンスの0.48%から0.55%と14.6%向上した。

  図9はデバイスの反射率を調べたもので、ナノピラーデバイスを設けると反射率は12.1%から5.1%に低下した。デバイスから取り出された光による輝度向上は明所コントラストも改善する。図10はコントラスト向上レシオの評価結果で、ナノピラーによって輝度が向上し外光反射が抑制される結果、コントラストはレスデバイスの3.5倍と劇的に向上した。

透明有機ELと電子ペーパーを組み合わせてハイクオリティとローパワーを両立


図11 透過率の比較3)

 AU Optronicsは、透明有機ELDに電子ペーパーをインテグレーションしたハイブリッドモジュールを発表した。有機ELのハイクオリティ表示性能と電子ペーパーのローパワー性&ペーパーライク性を兼ね備えたハイブリッドディスプレイで、ウィンドウディスプレイやインフォメーションディスプレイ向けとして存在感をアピールした。

 透明有機ELDのアクティブマトリクス駆動素子には固相結晶法で活性化層を作製したトップゲート構造低温Poly-Si TFTを使用した。ところで、透明有機ELDの透過性を高めるにはTFTアレイのデザインが重要となる。容易に想像できるように、パネルの開口率を高めるにはTFTをできるだけ小さくする必要がある。そこで、2T1Cともっともシンプルな回路構成を採用した。しかしながら、TFTアレイのサイズはトータルでみるとさほど影響しないことがわかった。

 図11はベアガラス基板、TFTアレイ付きガラス基板、有機ELDの透過率で、いうまでもなくベアガラス基板は全波長領域において90%以上という透過率を示す。これに対し、TFTアレイ付きガラス基板の透過率は可視光全域で50%程度、有機ELDの透過率は波長550nmで24.2%に過ぎない。さらに、有機ELDは波長400nm付近の短波長領域における透過率が相対的に低いため、黄色味を帯びてしまう。

 写真2に異なる透明有機ELDのシースルー特性を示す。サンプルAの透過率は24.2%だったのに対し、サンプルDの透過率は39.2%(@550nm)に達した。つまり、有機ELDの構造によって透過性を改善することができる。写真3に6型透明有機ELD(300×400画素)の表示例を示す。透過率は36%で、背面オブジェクトが明瞭に観察できることがわかる。


写真2 シースルー性の比較3)

写真4 ハイブリッドモジュールの表示例3)
 (一部を有機EL発光、残りを電子ペーパーによる反射モードで表示)

写真3 6型透明有機ELD3)

 いうまでもなく、シースルーディスプレイはウィンドウディスプレイをはじめとする新たなアプリケーションを創出する。そこで、同社はオリジナルモジュールとして透明有機ELDに電子ペーパーディスプレイをインテグレートすることにした。透明有機ELDの背面に電子ペーパーをセットし、双方の特徴を兼備させる狙いで、透明有機ELDをOFF状態にした反射モードでは電子ペーパーのモノクロ画像を表示。他方、透明有機ELDを点灯すればビビッドなカラー画像が表示できる。写真4に画面の一部を有機EL発光モードによるカラー表示、残りの部分を電子ペーパーの反射モードによるモノクロ表示にした様子を示す。

参考文献
1)W.-F.Chang, et al.:Fully Integration of Transflective Hybrid Device Consisting of PDLC, OLED and OPV, SID 2012 DIGEST, pp.534-536(2012.6)
2)Y.-H.Ho, et al.:Luminous and Conversion Efficiency Improvement in OLED/OPV Tandem Device with Omnidirectional Antireflection Nanopillars, SID 2012 DIGEST, pp.1516-1519(2012.6)
3)H.-H.Hsieh, et al.:Transparent AMOLED and its Integration with an Electrophoretic Display, SID 2012 DIGEST, pp.698-701(2012.6)


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