STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。

SID 11〜PDP編


SID 11〜PDP編 ITO電極を短冊状にして発光効率を向上


図1 ITO透明電極パターンの形状比較1)

 PDPでは、パナソニックがInvited Paperで新たなITO透明電極パターンを発表した。その狙いは、発光効率を高めるために電流密度を低減することにある。これには誘電率の低い材料を透明誘電体層を用いるのが近道だが、そのデメリットを回避するため、ITO透明電極パターンを工夫することにした。

 図1にITO透明電極パターンの比較を示す。(a)のストライプ形状はリファレンスで、研究グループはマトリクス状にパターニングした(b)と、短冊状にパターニングした(c)を新たに考案した。これらのサンプルにサスティン電圧を印加して電流密度を測定したところ、(b)と(c)はトータルの開口率が同じにも関わらず、リファレンスに比べ(b)は放電電流が4%、(c)は10%減少した。これは、(C)は静電容量効果が(b)よりも小さいことを意味する。また、そのパターン形状を考えると、フルHDのような高精細パネルでは比較的パターンがシンプルな(c)が望ましい。そこで、ニューデザインとして(c)を採用することにした。


図2 スペース幅とサスティン電圧・発光効率の関係1)

 図2にリファレンスに比べサスティン電圧・発光効率がITOスペース幅によってどう変化したかを示したもので、スペース幅を広くするとサスティン電圧が上昇する一方、発光効率もアップする。これは、透明誘電体層に誘電率の低い材料を用いた場合と同じ傾向といえる。つまり、スペース幅は静電容量効果を左右し、幅を広くすると静電容量効果が小さくなると考えられる。実際、今回の実験ではスペース幅23μmでサスティン電圧が5V、発光効率が8%上昇した。周知のように、透明誘電体層に誘電率の低い材料を使用すると電流密度が減少し輝度が低下する。これに対し、今回のニューパターンでは輝度には影響を及ぼさないというメリットがある。

 図3は放電出力と発光効率の関係で、今回のニューデザインパネル、透明誘電体層に誘電率の低い材料を用いたパネルとも放電出力が減少すると発光効率がアップする。つまり、ニューデザインパネルは誘電率の低い材料を用いる場合と同様の効率向上効果が得られる。


図3 放電出力と発光効率の関係1)

Structure
NEW
Reference
Discharge gap(a.u)
1.00
1.00
1.13
1.25
Vsus(V)
+5
0
+2
+4
Luminous efficiency(a.u)
1.09
1.00
1.03
1.06
Luminosity(a.u)
1.02
1.00
1.01
1.02
Discharge power(a.u)
0.93
1.00
0.98
0.96
Displacement power(a.u)
0.90
1.00
0.96
0.93

表1 透明電極パターンの違いによる特性比較1)

 表1に透明電極パターンの違いによるパネル特性の比較を示す。リファレンスであるストライプパターンは放電ギャップが広がると発光効率が向上する。しかし、ニューパターンは放電ギャップが1.25倍のリファレンスよりも効率が高いことがわかる。一般的に、放電ギャップが広いと駆動マージンが小さくなり表示画質も低下する。これに対し、ニューパターンは放電ギャップを広げずに発光効率を9%高められるとともに、消費電力を10%削減できる。

 ちなみに、同社はこのニューデザインを採用したパネルを2011年春モデルからリリースしている。

N2雰囲気で封着してMgO-CaO保護膜の膜質劣化を抑制

 一方、Hongik UnivとCeramics & Chemicals Technology(韓国)はポストMgOとしてMgO-CaO保護膜を用いることを提案した。


写真2 MgO-CaO膜のSEM像2)

写真1 MgO-CaOペレット表面(左)と破砕面(右)のSEM像2)

 まず、市販のMgOパウダーとCaOパウダーをボールミルで混合・撹拌して電子ビーム蒸着用ペレットを作製。この際、CaOの比率を5〜30wt%にした。続いて、この混合パウダーを径15oのディスクに入れてプレスし、1650℃×10時間焼成した。

 写真1はMgO-CaOペレットと破砕した表面のSEM像で、ペレットの表面は(a)のようにMgOグレインの三重会合点でCaO相が分離していた。この際、CaO相のサイズは2μm程度だった。一方、破砕面はMgOの三重会合点で分離したホールが複数みられたものの、相対密度は98%弱と高かった。

 写真2は電子ビーム蒸着したMg(0.85)Ca(0.15)O膜のSEM像で、MgO膜中に無数のピラミッド状グレインがみられる。しかも、その形状はほぼ同じである。こうした結晶構造は水分などの不純物ガスとの反応を抑制し、2次電子放出係数も高いことを意味する。膜を加熱してTGを見積もったところ、300℃以上で加熱すると7%重量が減少した。これは、おもに水酸化物が分解されたためと考えられる。


図4 エージング時間と放電開始電圧の関係2)

 上記の結果を受け、透明誘電体層までを形成したガラス基板上にMgO-CaO膜を電子ビーム蒸着し、N2雰囲気中で背面ガラス基板と貼り合わせて封着・封止し、Ne-Xe(20%)放電ガスを圧力400torrで封入した。このテストパネルの放電開始電圧を測定したところ、CaO比を20%にすると電圧がミニマム化した。一方、CaO比率をさらに増やすと放電開始電圧は上昇した。これは、CaO比を高くすると水やカーボンとの反応性が高くなるためと考えられる。いずれにしてもN2雰囲気で封着すると駆動電圧が低減できることが確認された。

  ところで、今回の実験で用いた背面基板はウェットエッチング法でバリアリブをパターニングした。ウェットエッチング処理した背面基板はそのプロセス中に表面にごくわずかだが水酸化物が付着し、これが封着工程でコンタミネーションを発生させる。いうまでもなく、コンタミネーションはMgO-CaO膜と反応して2次電子放出係数を低下させるなどの特性劣化を引き起こす。このため、バリアリブと白色誘電体層の表面にイソプロピルアルコールに分散させたナノサイズCaOをスプレー塗布。150℃で焼成した後、ゲッターとして機能させることにした。

 図4はエージング時間と放電開始電圧の関係で、CaOゲッターレスパネルは放電開始電圧が安定化するまでに1200分を要した。これは、MgO-CaO膜表面にコンタミネーションがあるためと考えられる。これに対し、CaOゲッターパネルはわずか50分で放電開始電圧が197〜225℃と低下して完全に安定化した。これは、ゲッター効果によって保護膜が封着後も初期特性を維持しているためである。

PDPでも透明フレキシブルパネルが可能


図5 透明フレキシブルPDPの構造3)

 筆者の私見ではまったく評価できないものの、ユニークといえばユニークだったのがKAIST(韓国)が発表した透明フレキシブルPDP。フレキシブルディスプレイに適したFPDは有機ELや電子ペーパーというのが一般常識であり、本来大型パネルに適したPDPをなぜ中小型アプリケーションがメインのフレキシブルディスプレイに適用するのかについてはなはな疑問だが、テクノロジートピックスとして発表内容をピックアップする。

 図5はパネルの構造で、基本的にコンベンショナルなガラス製AC駆動パネルと同じである。42型VGAパネルを想定し画素ピッチは1.08×0.36oにした。また、背面基板上のバリアリブはマトリクス形状にした。

 両面基板ともサブストレートには厚さ250μmのPETフィルムを使用。ただし、PETフィルムは水分などのガス透過性が高いため、電子ビーム蒸着MgOとUV硬化性エポキシ系樹脂を交互に計6回成膜した有機&無機ハイブリッドマルチバリア膜でカバリングした。このハイブリッドマルチレイヤーのガス透過性をCaテスト法により30℃、90%RH環境で評価したところ4.9×10-5g/m2/dayだった。このため、透明フレキシブルPDPとしては実用上問題ないと判断した。なお、このマルチバリアレイヤーは透明誘電体層としても機能する。

 前面基板のサスティン電極と背面基板のアドレス電極はCuを抵抗加熱蒸着法で成膜した後、フォトリソでパターニングした。一方、背面基板上のバリアリブは市販のネガ型フォトレジストをスピンコートしフォトリソでパターニングした。そして、両面基板を貼り合わせUV硬化性ポリマーによって封止した後、Neガスを圧力700torrで封入した。


図6 各コンポーネントの可視光透過率3)


写真3 透明フレキシブルPDP3) 左がOFF状態、右がON状態

 写真3は試作パネルで、背面が透けてみえるほど透明なのがわかる。図6にそれぞれのコンポーネントの可視光透過率を示す。PETフィルムは90%前後、サスティン電極は面で90%、アドレス電極は面で82%、バリアリブは74%で、パネル全体の可視光透過率は40%以上に達した。

 以上が発表内容の骨子だが、最大の懸案事項である寿命特性に関する言及はなかった。リブや誘電体層に有機材料を用いるというアプローチはこれらからのアウトガスを考えるととてもロングライフとは思えず、フレキシブルPDPにそもそもアイデンティティがあるのかという本質的な疑問も残った。

参考文献
1)Shinichiro Hori, et al.:Improvement of Luminous Efficiency Using New Structure in AC-PDPs, SID 11 DIGEST, pp.745-747(2011.5)
2)H.-N.Choi, et al.:Characteristics of (Mg, Ca)O Thin Film Layer Sealed under Nitrogen Atmosphere, SID 11 DIGEST, pp.637-640(2011.5)
3)C.Jang, et al.:Flexible Transparent Photoluminescent Display, SID 11 DIGEST, pp.855-857(2011.5)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。