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JST戦略的創造研究推進事業A新技術説明会(1月20日)


JST戦略的創造研究推進事業A新技術説明会
ニュープロセスで自由曲面構造物にファインパターンを

1月20日、科学技術振興機構(JST)主催による「JST戦略的創造研究推進事業A新技術説明会」がオンライン形式で開催された。ここでは、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻長谷川・荒井研究室の井川光弘特任研究員の講演「スポンジでゴシゴシっと配線印刷、曲面ワークに線幅10μm!」をピックアップする。



図1 プロセスフロー(online講演中に表示された資料を“スクリーンショット”して撮像しトリミング)

 研究の狙いは、3D構造物などの曲面形状構造物に線幅10μm以下のファインパターンを形成しようというもの。つまり、従来のフォトリソグラフィでは自由形状構造物のような段差対応が困難、印刷法ではファインパターンが困難という既存の問題をブレイクスルーする狙い。

 そのニュープロセスの基盤となるのが、従来開発されたSuPR-NaP(Surface Photo-Reactive Nanometal Printing:スーパーナップ)法。これはパーフルオロポリマーCYTOPなどの撥水性ポリマーをサブストレートに塗布した後、波長172nmをはじめとするVUV光をフォトマスク越しに照射。この結果、光照射された部分が元の撥水性から親水性へ変化し撥水・親水パターンが形成される。この後、ナノサイズAgインクをベタコートすると、親水領域のみにインクが付着して導電パターンが完成する仕組み。


写真1 多孔質体とその印刷結果(online講演中に表示された資料を“スクリーンショット”して撮像しトリミング)
 今回のニュープロセス(スーパーナップ法+多孔質体印刷)では多孔質体、つまりスポンジを使ってAgインクを塗布することにより自由曲面形状に追随するファインパターンを形成する。具体的には、最後のAgインク塗布プロセスで多孔質体にインクを浸み込ませた後、曲面ワークと接触させて転写パターニングする。すなわち、インクの毛管現象を利用する。この結果、インクの垂れもなく、材料利用率の高いパターニングが可能となる。もちろん、スポンジによる転写なので、下地へのダメージもほとんどない。

 プロセスのキーマテリアルとなる多孔質体はおもにポリフローレン系を使用しているが、耐溶剤性を考慮して各種ポリマーを選択することが可能。また、フォトマスクは豊田工業大学とアイセロが共同開発した曲面フォトマスクを使用。通常フォトマスクと同様、繰り返し使用できるため、そのコストもさほど高くない。

 研究グループは、印刷関連装置を手掛けるミノグループにロボットアームを用いた試作装置の製作を依頼。完成した小型基板対応装置を用いて実験したところ、曲率半径23oの曲面形状に線幅9.8μmのファインパターンをパターニングすることに成功。その線幅均一性も2%以下で、3.62×10-5Ω・cmという比抵抗が得られた。曲面形状も凸面、凹面に対応できることを確認。タクトタイムも5分程度と実用的な値をマーク。さらに、保護膜なしで室温、湿度40〜80%RHで大気放置しても半年間は導電性を維持するなど、保護膜を設ければ実用的な信頼性が得られることがわかった。


図2 曲面フォトマスクの作製フロー(online講演中に表示された資料を“スクリーンショット”して撮像しトリミング)

 さらにユニークなのはナノAgインクだけでなく、インク化できる材料ならばあらゆる材料に対応できること。第一弾として有機系太陽電池や有機トランジスタに使われるP3HTをインク化したところ、線幅25μmのファインパターンを作製。加えて、すでに溝アレイパターンがあるワークではCYTOPポリマーの塗布・露光パターニングが不要になり、ダイレクトでインクを転写パターニングできるという。つまり、きわめて汎用性が高いプロセスといえ、近い将来の実用化が有望と感じた。

REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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