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第63回応用物理学会春季学術講演会(3月19〜22日)


春季応用物理学会 有機ELでは長寿命化に有利な塗布型ホール注入材料に脚光
有機トランジスタではSAMの浸漬成膜時間を劇的に短縮した報告が

3月19〜22日、東京工業大学・大岡山キャンパスで開かれた「第63回応用物理学会春季学術講演会」。エレクトロニクスデバイス関連のおもなトピックスをレポートする。

新たな塗布型ホール注入材料で有機ELの寿命を改善


写真1 PMA膜のAFM像1)


図1 PMAの分子構造1)

 有機ELでは、山形大学の研究グループがウェットプロセスで成膜可能な金属酸化物ホール注入材料について報告した。

 実験に用いたのはKeggin構造(図1)を有するヘテロポリ酸phosphomolybdic and acid(PMA)。PMAを選択したのは、@100円/kg程度と安価、A極性溶媒に溶解する、Bベークレスでも硬化するなど低温プロセスに対応可能、C膜の可視光透過率が90%程度と高い、といった特徴を備えているため。アセトニトリル溶液に溶解させて基板上に塗布したところ、写真1のようにRa=0.421nmときわめて平滑な膜が得られた。これは、金属酸化物ホール注入材料として知られるMoO3蒸着膜(e-MoO3)をしのぐ値である。

 そこで、ITOアノード(膜厚130nm)/ホール注入層(10nm)/α-NPDホール輸送層(30nm)/CBP:Ir(ppy)3緑色燐光発光層(30nm)/BAlq3ホール阻止層(10nm)/Alq3電子輸送層(40nm)/Liqバッファ層(1nm)/Alカソード(100nm)という構造の素子を作製し、特性を評価した。この際、大気雰囲気下および窒素雰囲気下で100℃または150℃でベークしたPMA素子、ベークレスPMA素子、MoO3蒸着素子、PEDOT/PSS素子を作製し比較した。


図3 ライフタイムの比較1)


図2 電流密度-電圧特性の比較1)

 その結果、図2のように150℃ベークPMA素子はe-MoO3素子とほぼ遜色ない電気特性を示した。一方、寿命特性は図3のように150℃ベークPMA素子はe-MoO3素子やPEDOT/PSS素子(図2には未挿入)より長寿命を示した。つまり、寿命面ではコンベンショナルなホール注入材料よりも高い特性が得られたわけである。

毛細管現象を利用して塗布型有機半導体膜を成膜

 有機トランジスタでは、千葉大学の研究グループがユニークな塗布型有機半導体パターニングプロセスを発表した。毛細管現象を利用して微細な溝に有機半導体を充填する仕組みで、特性向上に有利な配向制御性も期待できるという。

 独自考案した段差型有機トランジスタ(SVC-OFET)を用いてパターニング性を検証した。図4はSVC-OFETの構造で、まずPETフィルム基板をナノインプリント法によって加工し、深さ4.3μm、幅10μmの微細溝パターンを形成。次に、Alゲートメタルを斜め方向から蒸着する。続いて、パリレンCを垂直成膜してゲート絶縁膜を形成。この後、Auをゲート電極とは逆方向から斜め蒸着してソース/ドレインを形成する。この結果、シャドー効果から溝上にドレインが存在していない領域が発生する。ここがチャネルとなる。このため、サブミクロンオーダーの微細チャネルが容易に作製できる。最後に、トルエンに溶解させたTIPSペンタセン(濃度8mg/mL)をシリンジノズルから溝終端部に滴下する。その結果、写真2のようにTIPSペンタセンは毛管力によって自己整合的に溝の中を進んで膜化する仕組み。

 溝深さと充填速度の関係を調べたところ、深さ2.25μmでは充填速度は80〜90μm/sec、深さ4.3μmでは380μm/secだった。つまり、アスペクト比が高いと毛管力が強くなり充填速度が速くなることがわかった。また、深さ4.3μmだとほぼ溝の中にだけ有機半導体が付着し良好なパターニングができた一方、深さ2.25μmでは周囲に拡散しパターニング性が不十分だった。図5は試作デバイスのアウトプット特性で、キャリアモビリティは5.5×10-4cm2/V・s、ON/OFF電流レシオは23.9にとどまる。


図5 SVC-OFETの構造2)


写真2 チャネルの光学顕微鏡像2)


図6 試作デバイスのアウトプット特性2)

SAMの浸漬成膜時間を劇的に短縮

 一方、産業技術総合研究所の研究グループはSAM(Self Assembled Monolayers)を用いた低電圧駆動有機トランジスタを作製するに当たり、SAMの成膜時間を大幅に短縮したことを報告した。

 これまで研究グループはわずか2Vで動作する低電圧駆動有機トランジスタを開発。Alゲートの表面をO2プラズマ処理によってAlOx膜に改質し、さらにその上部にSAMとしてn−オクタデシルホスホン酸を成膜して極薄ゲート絶縁膜にするというスキームだが、自らの経験も含めこれまでの報告ではSAMの浸漬成膜には16時間という長時間を要していた。このため、今回はプロセス時間を劇的に短縮することを試みた。


図8 キャリアモビリティとヒステリシスの液温依存性3)


図7 伝達曲線とリーク電流3)

 プロセスフローは@基板上にAlゲートを真空蒸着、A真空雰囲気でO2プラズマ処理、Bn−オクタデシルホスホン酸のイソプロパノール溶液に浸漬、Cイソプロパノールでリンス、D100℃×10分でアニール、という仕組み。試作したDNTT(ジナフトチオノチオフェン)有機トランジスタの特性と浸漬時間の関係を調べたところ、2分以上で良好なキャリアモビリティが得られ、2分で1.1cm2/V・sと最大値を示した。これは、浸漬後、約1分でケミカルリアクションが終わるためである。一方、Vthシフト、ヒステリシス特性とも浸漬時間が長くなると低下した。つまり、浸漬時間は2分がベストだった。その反面、外見的には浸漬時間が長い方がモルフォルジーの乱れの少ないきれいな膜ができる傾向がみられた。

  一方、浸漬時の液温(4℃、15℃、30℃、50℃)とデバイス特性の関係を調べたところ、液温が高いとキャリアモビリティが増大し、図8のようにヒステリシスも50℃で4℃の半分に当たる0.16Vに減少した。これはSAMの成膜状態によって表面平滑性が変化し、上部に成膜されるDNTT有機半導体の結晶性やグレインサイズが変化するためと考えられる。

 いずれにしてもSAMの浸漬時間を従来の1/96に短縮したことと合わせ、浸漬時間とデバイス特性にはさほど相関がないことを明らかにした今回の発表はデバイスの実用化を考えるときわめて有用に感じた。

水素プラズマ処理で塗布型酸化物TFTの特性を改善

 酸化物TFTでは、NHK放送技術研究所と産業技術総合研究所の研究グループが塗布型酸化物TFTを水素プラズマ処理によって特性を改善したことを報告した。その狙いは300℃焼成と塗布型酸化物半導体としては低温プロセスを維持したまま膜中の不純物を除去することにある。


図9 試作デバイスのトランスファー特性比較4)

 実験ではZn-Tin-Oxide(ZTO)とIn-Ga-Zn-O(IGZO)の双方を試し、前者は有機溶媒、後者は水でプリカーサ材料を溶解して塗布液を作製した。基板上にこれらのプリカーサ溶液をスピンコートした後、300℃×1時間焼成。この後、RF出力100W、圧力8Paという条件で水素プラズマ処理し、最後に300℃×1時間アニールした。水素プラズマ処理では還元・分解反応によって不純物を除去し、ポストアニールでは酸化を促進するというイメージである。

 成膜した膜をTDS分析したところ、どちらも有機系不純物であるカーボン、並びにイオン性不純物であるClが大幅に減少。キャリアモビリティもボトムゲート・トップコンタクト型ZTO-TFTで水素処理レスデバイスの1.8cm2/V・sから3cm2/V・sに向上した。図9のように水素プラズマ処理によってドレイン電流が増加したもので、水素によってトラップサイトが減少するとともに、ポストアニール処理によって酸化反応が促進されたためと考えられる。これは、300℃の低温アニール処理では十分に酸化が進まず、有機物などが膜内にトラップとして残留するためである。
 
IGZOを発光ホストにして薄膜無機ELを作製

 a-IGZO酸化物半導体の先駆者である東京工業大学は、a-IGZOの新たなアプリケーションとして薄膜無機ELに用いることを提案。a-IGZOに発光ゲストとしてEuをドープすることで赤色無機ELが容易に作製できることを示した。

 周知のように、薄膜無機EL自体は昔からZnSベース蛍光体を中心に開発されており、とくに目新しい話ではないが、いずれにしても650℃以上という高温プロセスが必要という問題があった。このため、今回はa-IGZOの特徴を活かし室温で成膜した点が大きな特徴といえる。発光ホストにa-IGZOを選択したのはアモルファスなので膜の結晶性には関係なく、さらに元来欠陥密度が低いためである。


図10 PL強度・キャリア濃度の酸素分圧依存性5)

 実験は多結晶のInGaZnO4ターゲットを用いてパルスレーザーデポジション法によりEuと共成膜した。基板温度は室温〜500℃までと条件をふったが、いずれもEu由来による波長614nmの赤色発光が得られた。

 成膜条件で重要なのは酸素分圧(PO2)で、図10のように5〜6Pa、つまり酸化物半導体としてa-IGZOを用いる場合に比べ約2倍の高PO2で成膜する必要がある。これは、キャリア密度を1013/cm3オーダーに落とすためである。

 一方、Euの濃度はマックス30%が限界で、これ以上にすると濃度消光が発生する。また、プロセス温度は400℃成膜で室温成膜時の2倍の発光強度が得られ最大を示した。他方、500℃以上だと膜中においてH2Oが枯渇するため発光強度が低下した。

参考文献
1)大久ほか:塗布成膜可能な金属酸化物ホール注入層による有機EL素子の長寿命化、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-357(2016.3)
2)清水ほか:毛細管現象を利用した微小溝への有機半導体インクのパターニング、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-553(2016.3)
3)栗原ほか:自己組織化単分子絶縁膜の短時間成膜と温度依存性、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、10-555(2016.3)
4)宮川ほか:塗布型酸化物TFTにおける水素プラズマの効果、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、15-084(2016.3)
5)神谷ほか:アモルファス酸化物半導体をホストとする蛍光体薄膜の室温作製、第63回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、15-078(2016.3)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

ステラ・コーポレーションの「Repair Vision」はITO膜、メタル膜、CNT膜をダイレクトドライエッチングしパターニングすることができます。