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秋季応用物理学会(9月17〜20日) |
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9月17〜20日、北海道大学で開かれた「第75回応用物理学会秋季学術講演会」。予稿集をベースにFPDやTFTに関するトピックスをピックアップする。 マイクロ波照射と光照射で塗布型酸化物半導体膜を低温焼成 a-Si TFT、低温poly-Si TFTに次ぐ第3のFPD用TFTとして評価が確立された酸化物TFTでは、今回塗布型デバイスの報告が相次いだ。周知のように、塗布型酸化物TFTは酸化物半導体膜の焼成温度が高いことが実用化を妨げているためで、産業技術総合研究所(産総研)は新たな焼成プロセスによって焼成温度を低温化するとともに短縮することに成功した。 図1はマイクロ波照射+エキシマランプまたはXeフラッシュランプで光照射したTFTの特性で、マイクロ波焼成のみではON電流が10-7Aと非常に低かったのに対し、光照射を併用するとON電流が劇的に増加した。また、OFF電流も10-12A台とほとんど変化せず、マイクロ波照射のみに比べTFT特性も改善された。 ポストIGZO-TFTとしてInWO-TFTが浮上
他方、物質・材料研究機構は真空成膜ながら150℃以下の低温プロセスで作製したアモルファスInWO-TFTについて報告した。 具体的には、InOにタングステン(W)を添加したInWOチャネル層を熱酸化膜付きシリコン基板上にDCマグネトロンスパッタリング法で成膜。この後、電子ビーム蒸着法によってAu/Tiソース・ドレイン電極を形成し、ボトムゲート・トップコンタクト構造デバイスを作製した。最後に、150℃で大気中アニールして電極〜チャネル間のコンタクト性を高めた。 図2はターゲットのWO3添加量(1、3、5wt%)とTFT特性の関係で、W添加量の増加にともない立ち上り電圧が正にシフトし、IWO-5でノーマリーオフを達成した。このIWO-5に対してVGS=−20Vの負ゲートバイアスを印加したところ、5000秒間で儼th=−0.1Vという良好なバイアスストレス耐性が得られた。つまり、キャリアモビリティを大きく損なうことなく高いバイアスストレス安定性が得られた(図3)。これは、Wの持つ高い酸素解離エネルギーと高い原子価が駆動力と安定性の両立に寄与するためと考えられる。 液体シリコン&レーザーアニールを用いて塗布型低温poly-Si膜を作製
一方、低温poly-Si TFT向けでも北陸科学技術大学院大学が独自の液体シリコンを用いた塗布型デバイスを報告した。 実験では、まず原料に液体シリコンを用いて大気圧熱CVD法によってガラス基板上にa-Si:H膜(膜厚100nm)を成膜した。液体原料a-Si:H膜中の水素量が結晶化に与える影響を調べるため、真空中において瞬間熱処理(RTA:Rapid thermal anneal)によって脱水素処理し、水素含有量の異なるサンプルを3種類(400℃ H:20%、500℃ H:10%、600℃ H:0.1%)用意した。これらにグリーンレーザー(Yb:YA、波長515nm)を照射して結晶化させた。この際のエネルギー密度は0〜1.4J/cm2である。 図4に得られたpoly-Si薄膜の結晶化率を示す。400℃、500℃焼成サンプルでは完全に結晶化する前に水素アブレーションが起きたが、600℃焼成サンプルではアブレーションすることなく結晶化した。図5に500℃、600℃焼成サンプルの二乗平均粗さ(RMS)とレーザー密度の関係、図6に暗時、光照射時における導電率との関係を示す。500℃焼成サンプルでは、レーザー密度の増加にともないRMSの増加がみられた。また、導電率はレーザー密度が0.8J/cm2時にピークを示し、その後減少することがわかった。これは、Si膜は水素アブレーションによってポーラスな膜となり、導電率の減少につながったためである。さらに、600℃焼成サンプルではレーザー密度を増加させても表面平滑性が保たれており、レーザー密度1.2J/cm2時に2×10-1S/cmと高い導電率が得られた。 有機ELではドーパント濃度を大幅に低減可能な燐光ホストが 有機ELでは、東京理科大学とNHK放送技術研究所がローコスト化が容易な低分子燐光デバイスを報告した。ここでいうローコスト化とは高価なIr錯体ドーパントの使用量を劇的に削減したことで、燐光ホストにTADF材料を用いることによりドーパント濃度を減らしても効率・寿命特性とも低下しないという。 今回作製した素子はITOアノード/PEDOTホール注入層/α-NPDホール輸送層/HTLB-2(関東化学製)/ホスト:Ir(mppy)3緑色発光層/TPBI電子輸送層/LiFバッファ層/Alカソードという構成。ホストとしてTADF材料である2-biphenyl-4,6-bis(12-phenylindolo[2,3-a]carbazol-11-yl)1,3,5-triazine(PIC-TRZ)を用い、ドーパント濃度を1、3、6、10wt%にして特性を評価した。また、リファレンスとしてPIC-TRZと同様、カルバゾール分子骨格をもつCBPをホストに用いた素子(ドーパント濃度6wt%)も作製した。 図7にPIC-TRZ素子の最大外部量子効率のドーパント濃度特性を示す。濃度6wt%の場合、最大外部量子効率は20%、初期輝度1000cd/m2時の輝度半減寿命は約8600時間だった。これに対し、CBP素子の最大外部量子効率は20%、輝度半減寿命は約1500時間だった。つまり、PIC-TRZをホストに用いることにより約6倍の長寿命が得られた。
また、ホストにPIC-TRZを用いた場合、ドーパント濃度に依存せず高い外部量子効率が得られた。これは、ホストにPIC-TRZを用いることにより効率的なホスト-ゲスト間のエネルギー移動が起こるためと考えられる。さらに、同様なカルバゾール分子骨格を持つにも関わらず寿命に大きな差が出たことから、ホストにPIC-TRZとCBPを用いた場合ではホスト-ゲスト間のエネルギー移動過程が異なると考えられる。くわえて、ホストにPIC-TRZを用いたドーパント濃度1wt%の素子は輝度半減寿命1万時間以上が得られた。 フレキシブルディスプレイ向けとして140℃で結晶化するITO膜を提案 透明電極として広く用いられるITO関連では、東京理科大学と平山製作所の研究グループがフレキシブルディスプレイ向けとして低温プロセスで結晶化するITO膜を提案した。 実験は、サファイア基板上に電子ビーム蒸着法によりITO膜を膜厚50nmで蒸着した。膜の透過率は13%(@450nm)、抵抗率は1×10-2Ω・cmである。この後、3種類の熱処理を行って透明導電膜化を試みた。具体的には、従来の熱処理(大気雰囲気で700℃×3分)を行うと、透過率は77%(@450nm)、抵抗率は1×10-3Ω・cmに変化した。これに対し、高湿度・高圧力を加える不飽和加圧水蒸気処理(約3気圧で140℃、湿度85%×5時間)によって熱処理したところ、透過率は80%(@450nm)にまで達したが、抵抗率は10-1Ω・cm台にまで上昇した。そこで、不飽和加圧水蒸気処理前に結晶化工程(大気圧で140℃、湿度3%×5時間)を挿入したところ、抵抗率は10-3Ω・cm前後まで低下した。つまり、不飽和加圧水蒸気による強力な酸化力によってITOに存在する酸素欠損を埋めることができ透過率が向上するとともに、結晶化工程における熱によって結晶の原子配列が整えられ抵抗率が低下したわけである。
参考文献 |
REMARK 1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。 2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。 |