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第199回JOEM(4月22日)


第199回JOEM「有機導電材料の最前線−材料・デバイス開発と導電機構解析−」
自己形成2層分離法でゲート絶縁膜と有機半導体層をセルフ形成
低純度有機半導体を用いてもデバイス特性はほとんど低下せず

 4月22日、都内で有機エレクトロニクス材料研究会(JOEM:The Japanese Research Association for Organic Electronics Materials)主催による第199回JOEM「有機導電材料の最前線−材料・デバイス開発と導電機構解析−」が開かれた。3件の講演のなかから、物質・材料研究機構の塚越一仁氏の講演「溶液から自己形成2層分離法にて形成する結晶チャネル有機トランジスタ」をクローズアップする。


図1 プロセスフロー2)

 同氏の研究グループは、単結晶有機半導体の形成方法として絶縁性ポリマーと有機半導体を自己整合的に2層分離する自己形成2層分離法を考案。具体的には、絶縁性ポリマーであるPMMAとC8-BTBT有機半導体をアニソール溶媒に溶解して基板上にスピンコートすると、その塗布過程でPMMAが下層に、C8-BTBTが上層に分離されることを見出した。PMMAがC8-BTBT分子を外側に押し出す形で2層化する仕組みで、この結果、1回のプロセスでゲート絶縁膜と有機半導体層が自己整合的に形成される。また、ゲート絶縁膜表面が自己整合的にセルフ封止されるため、ゲート絶縁膜と有機半導体の界面にキャリアトラップ原因となる水分子が付着せず、デバイスの動作信頼性が大幅にアップする。実際、試作した有機トランジスタはきわめて温度依存性が少なく、Vthシフトがほとんどないことがわかった。これは、ゲート絶縁膜と有機半導体の界面がセルフシーリングされるためと考えられる。

 この自己形成2層分離法でゲート絶縁膜と有機半導体層を形成した後、溶媒雰囲気でアニール(溶媒蒸気アニール)したところ、溶媒が有機半導体表面を溶解することによって有機半導体がアモルファス状態から多結晶状態に、さらにグレインサイズが大きくなってほぼ単結晶化することがわかった。この結果、キャリアモビリティも平均3.5cm2/V・s程度と従来の多結晶有機トランジスタを上回る特性が得られた。ただ、ソース/ドレイン間を架橋する有機半導体分子の配向方向はバラバラで、配向性を制御することはできなかった。

  そこで、有機半導体分子の配向を制御するため、新たなプロセスにトライした。具体的には、まず熱酸化SiO2膜付きシリコンウェハー上にフッ素系アモルファスポリマー「CYTOP」をスピンコート。続いて、開口部を設けたメタルマスクを上部にセットし、O2プラズマ処理する。つまり、O2プラズマによってCYTOP膜をライトエッチングする仕組みで、メタルマスクの開口部に該当する部分が40nm程度エッチングされる。この後、上記の自己形成2層分離法によってPMMA&C8-BTBT混合溶液をスピンコートする。この結果、親液性に改質された溝部分にだけ混合溶液が付着し、ゲート絶縁膜と有機半導体層に2層化される。C8-BTBT分子は109度前後と均一に配向。グレインサイズも600μmにラージグレイン化した。そのキャリアモビリティも4〜5cm2/V・sと溶媒蒸気アニールレスでも高い値が得られることが確認できた。

 なお、ここで興味深いのはC8-BTBT溶液だけをスピンコートしても親液性の溝部分にはC8-BTBT膜が付着しなかったこと。つまり、自己形成2層分離法ではPMMAが密着性を確保するノリの役割を果たすわけである。


図3 紙上に作製した有機トランジスタの特性2)


図2 紙上に作製した有機トランジスタの構造と表面平滑性2)

 上記のニュープロセスの特徴を引き出すため、紙基板上に有機トランジスタを作製することにトライした。サブストレートに用いたのは市販のインクジェット用紙(富士フイルム製)で、基板上にまずポリパラキシリレンを膜厚3μmで成膜。この後、Auゲート電極、CYTOP、PMMA&C8-BTBT、Au/FeCl3ソース/ドレイン電極を形成した。

 周知のように、トランジスタの表面平滑性は特性に大きな影響を及ぼす。有機トランジスタの基礎評価に用いられるシリコン基板は表面平滑性がRms=0.2〜0.3nmであるのに対し、市販のインクジェット用紙はRms=50nm程度と3桁も異なる。こうした大きな凹凸はキャリアモビリティを大幅に低下させる。そこで、試作デバイスの表面平滑性を評価したところ、図2のようにレイヤーを重ねる毎に表面平滑性が高まりCYTOP上でRms=12〜13nmという値が得られた。しかし、劇的だったのはPMMAゲート絶縁膜の表面で、nmオーダーというフラットサーフェースが得られた。詳細なメカニズムは解明できていないが、これは自己形成2層分離によって下層PMMAが表面凹凸を緩和するためと考えられる。

 図3はトランジスタ特性で、モビリティは1.3cm2/V・s、ON/OFF電流レシオは109と紙基板製有機トランジスタとしては画期的な値が得られ、ヒステリシス特性もほとんど観察されなかった。


図4 トランジスタ特性比較2)


写真1 高純度C8-BTBT原料(左)と低純度C8-BTBT原料(右)2)

 自己形成2層分離法の特徴をさらに引き出すため、C8-BTBTの純度がデバイス特性にどう影響するかも調べた。評価に用いたのは写真1の高純度原料(純度98%)と低純度原料(純度92%)で、どちらもアニソール溶媒で溶解。自己形成2層分離法でゲート絶縁膜と有機半導体層を形成したデバイスを作製した。衝撃的だったのはその特性で、図4のように特性はほとんど同じだった。つまり、低純度有機半導体を用いてもVth変動が少なく特性の高いデバイスが作製できたわけである。いうまでもなく、これは有機半導体製造コストに大きな影響を及ぼし、クロマトグラフィ処理や昇華精製を繰り返して高純度化するエレクトロニクス用有機材料の製造方法を変革させるといってもいい。

 上記のような結果が得られた原因を追究したところ、板状に成長したC8-BTBT結晶の近傍に島状塊結晶が成長していることがわかった。この島状塊結晶はC8-BTBT合成時にできた副生成物の結晶である。島状塊結晶は主結晶であるC8-BTBT結晶が形成された後、主結晶に追い出される格好で固まって結晶化したと考えられる。島状塊結晶は非導電性であるため、主結晶の周囲に存在しても導電性にはマイナスの影響を与えないため、上記のような特性変化がなかったと考えられる。

参考文献
1)塚越:溶液から自己形成2層分離法にて形成する結晶チャネル有機トランジスタ、第199回JOEM、pp.13-16(2013.4)
2)塚越:溶液から造る結晶有機トランジスタ、応用物理第81巻第12号(2012)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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