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2013年春季応用物理学会(3月27〜30日)


春季応用物理学会 IGZO-TFT有機ELDはC12A7電子注入層を用いた逆構造トップエミッションが最適
IJ印刷電極向けでは乾燥時の湿度を高めて電極の形状を改善する報告も

 3月27〜30日、神奈川工科大学で開かれた「2013年春季第60回応用物理学会春季学術講演会」。有機ELやTFT関連のなかから厳選した発表をピックアップする。


図1 C12A7エレクトライド

 まず有機EL関連では、アモルファスIGZO-TFTの発掘で世界にその名を知られる東京工業大学 細野秀雄教授がWhat's NEWと呼べるプロポーザルを行った。a-IGZOと同じく完全オリジナルのアモルファスC12A7(12CaO・7Al2O3)エレクトライドをa-IGZO-TFT駆動有機ELディスプレイの電子注入層に用いる提案で、Nチャネルでのみ動作するa-IGZO TFTには既存の低温Poly-Si TFTとは異なる積層構造、つまり逆構造トップエミッションがふさわしく、それにはコンベンショナルなLiFよりもC12A7エレクトライドが適していると結論づけた。

 エレクトライドは、陰イオンに代わって電子と陽イオンをイオン結合した化合物。セメントの原料として使われるC12A7から酸素陰イオンを除去し、陰イオンとして機能する電子を内包させた籠状のナノサイズセラミックスで、セラミックスながら導電性があり、電子放出性も有する。その仕事関数は2.4eVときわめて低く、さらに化学的に不活性という特徴がある。従来は1000℃以上で高温成膜して結晶化させる必要があったが、近年では室温でアモルファス膜が成膜できるなどエレクトロニクスデバイスに適用できる環境が整ってきた。


図2 電子オンリー有機ELのJ-V特性比較1)

 今回、細野教授の研究グループが提案したのはLiFに代わる電子注入層への適用で、とくに逆構造トップエミッションパネルに有効だという。その理由は、コンベンショナルな低温Poly-Si TFTがp型動作するのに対し、IGZO-TFTはn型動作することから、従来とは積層順序を変更するのが望ましいため。つまり、IGZO-TFT上にカソード、電子注入層/(電子輸送層)/発光層/ホール輸送層/ホール注入層/透明アノードという順で積層するのが効果的である。

 こうした提案の有効性を確認するため、まず多結晶のC12A7エレクトライドスパッタリングターゲットを用いてガラス基板上にa-C12A7:e-膜をスパッタリング成膜した。成膜圧力は0.5Pa、RFパワーは50Wで、IGZO膜とは異なり、O2レス環境で成膜した。得られた薄膜は透明で、電子濃度は〜1021cm-3だった。また、UPSによって測定した仕事関数は3.1eVで、もちろん化学的に安定だった。一方、a-IGZOの仕事関数は4.3〜4.5eVだった。したがって、上記のa-IGZO-TFT/Alカソード(4.1eV)/a-C12A7:e-(3.1eV)/有機電子輸送層/・・・・・・/ITOアノード構造は電子構造的に合理的と考えられる。

 そこで、ガラス基板上にAlアノード/Alq3発光層兼電子輸送層/電子注入層/Alカソードという電子オンリーデバイスを作製したところ、図2のようにa-C12A7:e-電子注入層デバイスはリファレンスであるLiFデバイスに比べ優れたJ-V特性を示し、発光しきい値電圧が6Vとほぼ半減できることがわかった。このため、Alカソード/C12A7:e-電子注入層/Alq3発光層兼電子輸送層/α-NPDホール輸送層/MoOxホール注入層/Auアノードという逆構造トップエミッション素子も作製。ここでもLiF素子に比べ発光特性が向上することが確認できた。

ゲートをマスクにしたセルフアラインIGZO-TFTが登場


図5 セルフアラインIGZO-TFTの伝達特性2


図3 ボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの断面構造2)


図4 IGZOシート抵抗の照射強度依存性2)

 酸化物半導体関連では、まずNHK放送技術研究所が完全オリジナルといえるa-IGZO(In-Ga-Zn-O)-TFTについて発表した。コンベンショナルなボトムゲート構造ながらIGZO膜にレーザービームを照射して自己整合的にソース/ドレイン領域を形成するというアイデアで、今後、新たなデバイス構造として注目を集めそうだ。

 図3に、作製したボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTの作製方法を示す。ガラス基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、IGZO膜を形成した後、基板の裏面からエキシマレーザーを照射する。いうまでもなく、ゲート電極と重なるIGZO領域はゲートメタルの反射によってレーザビームが当たらないが、他の領域ではレーザビームが照射される。この結果、急激な温度上昇で発生する酸素欠損によって低抵抗化される。この低抵抗化領域をゲート電極と重ならないソース/ドレイン領域として用いる。このため、@ゲート電極とソース/ドレイン電極の重なり領域で寄生容量が生じる、Aエッチングストッパー層とソース/ドレイン電極とのアライメントマージンの分だけチャネル長が長くなる、というエッチングストッパー付きボトムゲート構造の問題も解消することができる。

 実験ではまずエキシマレーザーの照射効果を調べるため、ガラス基板上に成膜したIGZO膜(膜厚50nm)にXeClエキシマレーザーをパルス幅50nsで照射してIGZO膜のシート抵抗を測定した。図4はIGZOシート抵抗の照射強度依存性で、照射強度の上昇にともなってシート抵抗が低下し、最小で1kΩ/□程度になった。なお、裏面照射の場合はレーザービームがガラス基板に吸収される分だけ低抵抗化に必要な照射強度が高くなる。

 次に、Alゲート電極(30nm)、SiO2ゲート絶縁膜(200nm)、IGZO膜(50nm)を成膜したガラス基板の裏面からXeClエキシマレーザーを照射してボトムゲート型セルフアラインIGZO-TFTを作製した。チャネル幅(W)は200μm、チャネル長(L)は10μm、ドレイン電圧(Vd)は10Vである。図5はトランスファー特性で、キャリアモビリティは9.7cm2/V・sと良好な値が得られた。すなわち、シンプル構造でローコストかつ従来の問題を解消できるデバイスが実現できたわけである。


図6 試作デバイスのトランスファー特性3)

基板に陽極酸化アルミを用いてIGZO-TFTをフレキシブル化

 一方、富士フイルムは陽極酸化アルミニウムプレート(AAO基板)をサブストレートに用いたフレキシブルa-IGZO-TFTについて発表した。

 試作したのはコンベンショナルなエッチングストッパー付きボトムゲート構造デバイスで、ゲート電極にMo-Nb、ゲート絶縁膜とエッチングストッパーにSiO2、ソース/ドレイン電極にMoを用い、通常のフォトリソ+エッチング法によって形成した。図6は試作デバイス(チャネル長L=30μm/チャネル幅W=90μm)のId-Vg特性で、AAO基板上に作製したTFT(図中の赤線)はガラス基板上に作製したTFT(図中の青線)と同等の特性が得られた。

レジストにフッ素系界面活性剤をドープして濡れ性を改善

 有機TFT関連では、山形大学有機エレクトロニクス研究センターがフッ素系絶縁膜上におけるフォトレジストの濡れ性を改善するため、フォトレジストにフッ素系界面活性剤をドープした研究成果を報告した。

 周知のように、テフロンやCYTOPなどのフッ素系ポリマーは絶縁層として用いるとトラップが少ない優れた有機半導体/絶縁層界面を形成することが知られているが、その反面、撥液性が強いため、その上部へのフォトレジストの塗布が難しくなる。そこで、フォトレジストにフッ素系界面活性剤を微量添加することにより濡れ性の改善を試みた。

 図7にフォトレジストの有機溶媒として広く用いられるPGMEAのCYTOP上における接触角を示す。その接触角はフッ素系界面活性剤を添加しない場合の53度から、0.5wt%以上の添加で23〜26度となり、濡れ性が大きく改善されるのがわかる。実際、0.5〜1wt%のフッ素系界面活性剤を添加したポジ型レジスト「S1813G(ロームアンドハース製)」並びにネガ型レジスト「ZPN-1150(日本ゼオン製)」をCYTOP上に均一にスピンコートすることに成功。この後、O2プラズマエッチングによってレジストを除去することによりCYTOPを微細パターニングすることができた。


図8 作製した有機TFTの特性(L=20μm、W=1mm)4)


図7 フッ素系界面活性剤の添加によるPGMEAの
サイトップ上の接触角変化4)

 図8にこのフッ素含有レジストを用いて作製したトップゲート型TIPSペンタセン有機TFTの特性を示す。ゲート絶縁膜にはCYTOPを使用し、その上のAlゲート電極をフッ素系界面活性剤含有レジストを用いたフォトリソ&リフトオフ法によってパターニングした。

 気になる特性もキャリアモビリティ0.8cm2/V・s、しきい値電圧0Vと良好な値が得られた。容易に想像できるように、今回の手法は上記の電極のほか、可溶性有機半導体や撥液バンクの形成など他のレイヤーの形成プロセスにも適用可能である。

乾燥時の湿度を高めてIJ印刷電極の形状を改善

 山形大学有機エレクトロニクス研究センターは、プリンタブルエレクトロニクス向け製造プロセス関連でも興味深い研究成果を報告した。インクジェット印刷後の乾燥時における湿度をコントロールすることによってIJ印刷膜の断面形状を改善する狙いで、比較的湿度を高くすると“コーヒーリング効果”の少ない良好な印刷結果が得られるという。

 今回の実験では、水系溶媒にナノAg粒子を分散させた市販のAgナノインク(DIC製)を使用。下地層には架橋ポリビニルフェノール(PVP)を用いた。30℃の大気中で電極をIJ印刷した後、温度30℃、湿度30〜90%RHで30分乾燥し、140℃×1時間焼成した。


図10 乾燥時の湿度とAg電極の抵抗率5)


図9 乾燥時の湿度と焼成後の電極断面形状5)

 図9に焼成後の電極断面形状を示す。30%RHで乾燥処理した電極は両端が盛り上がった形状をしており、コーヒーリング効果の影響を強く受けていることがわかる。一方、85%RHで乾燥させた電極はほぼ台形型の形状だった。また、湿度90%RHで乾燥させた電極は蒲鉾型の形状になった。こうした結果は水系溶媒特有の現象といえる。これは湿度を上昇させることによって溶媒の蒸発が抑制され、コーヒーリング効果よりもインク内の濃度均一化による拡散がより支配的になったためと考えられる。

 図10に乾燥時の湿度に対するAg電極の抵抗率を示す。30%RHの乾燥条件では40μΩ・cmだったが、85%RHでの乾燥条件では26μΩ・cmまで抵抗率が減少した。以上、乾燥時の湿度を制御することにより、導電性を損なうことなく電極の形状のみを制御できることがわかった。

参考文献
1)細野ほか:酸化物TFT駆動有機EL用電子注入層物質:アモルファスC12A7エレクトライド、第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集12-242(2013.3)
2)中田ほか:ボトムゲート型セルフアライン酸化物TFTの作製、第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集21-080(2013.3)
3)中山ほか:アルミニウム陽極酸化膜付基板上に形成したa-InGaZnO4-TFT、第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集21-073(2013.3)
4)坂上ほか:フッ素系ポリマー上への塗布技術開発と有機TFTへの応用、第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集12-287(2013.3)
5)福田ほか:乾燥環境制御によるインクジェット印刷銀電極の平坦化、第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集12-309(2013.3)


REMARK
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2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。

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