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秋季応用物理学会(9月11〜14日) |
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9月11〜14日、愛媛大学と松山大学で開かれた「第73回応用物理学会学術講演会」。予稿集をベースにトピックスをピックアップする。 まず有機EL関連では、東京理科大学とNHK放送技術研究所の研究グループが新たな燐光材料によって赤色素子の発光効率を大幅に改善したことを報告した。
素子内における効率的なエネルギー移動を考慮し、ホストにBebq2、ゲストにPt錯体である「TLEC-025」を使用した。試作素子はITOアノード/ND-1501ホール注入層/α-NPDホール輸送層/Bebq2:TLEC-025赤色燐光発光層/電子輸送層/LiFバッファ層/Alカソードという構造で、ホール注入層はスピンコート法、他のレイヤーは真空蒸着法で成膜した。また、電子輸送層はTPBI、Bebq2、Bpy-OXD、OXD-7、BAlq、Alq3、TmPyPB、ETM-143とキャリア移動度の異なる8種類を用いた。比較のため、燐光発光層に一般的なホスト材料であるCBP、電子輸送層にTPBIを用いた素子も作製した。 図1は外部量子効率-電流密度特性で、リファレンスであるCBP素子の効率は最大で13%程度だったのに対し、Bebq2素子は最大18.5%と高い効率を示した。これは、ホストからゲストへのエネルギー移動がより効率的に起きたためと考えられる。 一方、駆動電圧は電子輸送材料に大きく依存したものの、効率は電子輸送材料にほとんど依存しなかった。周知のように、一般的なホスト-ゲストを用いた素子はキャリアバランスに依存して効率が大きく変化する。これに対し、Bebq2とTLEC-025を用いた素子は図1のように電子輸送材料に関係なく高効率を示し、最も駆動電圧が低かったETM-143電子輸送層素子では最大30lm/Wを超える電力効率が得られた。 有機発光トランジスタのソース/ドレイン材料依存性を評価 有機半導体自体が発光しトランジスタ機能と有機EL発光機能を兼ね備える有機発光トランジスタでは、大阪大学がソース/ドレイン材料によって発光特性がどう変化するかについて報告した。 今回評価したのは有機半導体&発光層にフルオレン系ポリマー材料を用いた両極性有機トランジスタで、ソース/ドレインにITOまたはAgを用いたボトムコンタクト・トップゲート型素子を作製した。ITO電極はフォトリソ、Ag電極はメタルマスクを用いたマスクスルー蒸着法でパターニング。有機半導体層はpoly(9,9-dioctylfluorene-co-benzothiadiazole)(F8BT)を膜厚60nm、ゲート絶縁膜はPMMAを膜厚600nmで塗布。その後、ゲート電極としてAgを膜厚50nmで蒸着した。チャネル長は0.1o、チャネル幅は2mmである。どちらも両極性を示し、発光することが確認できた。
図2にAgソース/ドレイン素子におけるドレイン電圧Vd=100V印加時のトランスファー特性と発光強度のゲート電圧依存性を示す。正孔電流もしくは電子電流が支配的なゲート電圧Vg=40V、70Vで発光強度のピークが見られた。また、ゲート電圧を上げていくにつれ、発光がソース電極近傍からドレイン電極近傍へシフトすることが確認された。 図3は外部量子効率で、ITOソース/ドレイン素子はソース電極近傍で発光するゲート電圧からドレイン電極近傍で発光するゲート電圧の間で高い外部量子効率を示した。一方、Agソース/ドレイン素子はチャネルの中央付近で発光するゲート電圧において外部量子効率が最大となる一方、電極近傍で発光するゲート電圧においては低い外部量子効率を示した。この原因としては、Agソース/ドレイン素子では電極近傍で励起子の消光が生じている可能性があるためと考えられる。 ペンタセンとV2O5を共蒸着してモビリティを向上 シリコンウェハー上にSiO2ゲート絶縁膜(膜厚100nm)、ペンタセン有機半導体層(50nm)、V2O5(20nm)、ソース/ドレインを形成したデバイス1、そしてSiO2(100nm)/ペンタセン(50−x/2nm)/ペンタセン:V2O5共蒸着層(xnm、1:1mol%)/V2O5(20−x/2nm)/ソース/ドレインを形成したデバイス2を作製し、特性を比較した。
図4の左図はデバイス1のトランスファー特性で、ゲート電圧−50V印加時のキャリアモビリティは0.33cm2/V・sと見積もられた。これは、ペンタセン単層膜を用いたデバイスの約2倍に当たり、V2O5層の挿入により特性が改善されることが確認できた。こうしたエンハンスメントは、ペンタセン膜とV2O5膜の界面に形成される電荷移動錯体の分離によって発生したキャリアが寄与するためと推察される。 他方、混合層(x=20nm)を用いたデバイス2は図4の右図のように最大ドレイン電流が−5mA、モビリティが1.4cm2/V・sに改善された。これは、混合層によって電荷移動錯体が形成・分離する領域が拡がり、より多くのキャリアが発生したためと考えられる。 新たなペンタセン有機半導体層パターニング法が 兵庫県立大学は、ペンタセン有機半導体層の新たなパターニング法として原子状水素アニール(AHA)を発表した。 AHAは真空チャンバに設置した加熱触媒体でH2ガスを分解して生成した原子状水素をサンプルにさらすことにより表面改質する方法で、すでにフォトレジストをエッチングできることが確認されている。そこで、今回はペンタセン膜をドライエッチングすることにトライした。
まず、水素化学輸送法によってガラス基板上に膜厚200nmのペンタセン膜を成膜。その後、大気開放し、H2流量100sccm、ガス圧30Pa、タングステンメッシュ温度(Tmesh)1400℃、1700℃、処理時間180秒、300秒、900秒という条件でAHA処理した。比較のため、膜厚1.2μmのポジ型フォトレジストを塗布したガラス基板にも同様の処理を行った。さらに、ペンタセン膜にフォトレジストを塗布してフォトリソにより200×500μmアイランドにパターニングしたサンプルもAHA処理し、パターニングが可能かどうかを調べた。 図5にAHA処理によるエッチング深さの処理時間依存性を示す。Tmesh=1400℃では原子状水素の生成量が少ないためエッチングが観察されなかったが、Tmesh=1700℃ではエッチングが起こり、ペンタセンをエッチングできることがわかった。この際、ペンタセンのエッチング速度はレジストよりも速かった。これは、レジストの方が分子量が大きいためと考えられる。写真1はAHA処理により作製したペンタセンアイランドの光学写真で、ペンタセンのパターニングが可能であることが確認できた。 a-IGZO-TFTに最適なゲート絶縁膜とは? 今年からLCD用アクティブマトリクス素子として量産がスタートしたIGZO(In-Ga-Zn-O)-TFTでは、奈良先端科学技術大学院大学と日新電機がゲート絶縁膜の種類によってデバイスの動作信頼性がどう変化するかについて調べた。ゲート絶縁膜に含まれる水素量が信頼性に影響するかどうかを調べる狙いで、新たなゲート絶縁膜を用いれば低温プロセスでも信頼性を高めることができるという。
今回の実験では、SiF4/N2を原料ガスに用いて水素含有量の少ないSiNx膜を基板温度150℃でプラズマCVD成膜してゲート絶縁膜を形成した。ここで膜中元素の影響を調べるため、意図的に原料ガスに水素をドープすることにより、水素含有量の異なる三つのSiNx膜(SiN-H0%、1%、8%)を成膜し、リファレンスである熱酸化SiO2膜と比較した。なお、a-IGZO活性層はスパッタリング法で室温成膜した。 これら4種類のサンプルデバイスにゲートバイアス20Vを印加したストレステストを行ったところ、図6のようにSiNxデバイスはいずれも熱酸化SiO2デバイスに比べ高い信頼性を示した。その劣化メカニズムを解析した結果、水素の存在はVthシフトには関係ないことが判明した。このため、SiNxゲート絶縁膜によって信頼性が改善されたのは膜中に含まれるフッ素の影響によると結論づけた。 ポストITOとしてFe添加の省In組成ITOを提案 マテリアル関連では、東北大学がポストITOとして省In組成のITOターゲットを提案。スパッタリング成膜した透明導電膜の特性を報告した。 今回の研究では、In2O3含有量を従来の90mass%から50mass%に削減したFe添加ITOターゲット(直径101.6mm)を使用。直流スパッタ電力100WでAr/O2混合ガス中のO2流量比を変化させて、523℃に加熱したガラス基板上に単層膜(SL)をスパッタ成膜した。また、基板温度523℃で成膜した従来組成の多結晶ITO90膜(膜厚12nm)をシード層にして、その上部に省In組成ITO膜を積層しトータル膜厚を約150nmにした積層膜(ML)も作製した。
図7は単層膜と多層膜における体積抵抗率(ρV)に及ぼす酸素流量比の影響で、単層膜の体積抵抗率はFeの添加によって低下した。また、体積抵抗率はO2流量Q(O2)に強く依存し、単層膜ではQ(Ar)/Q(O2)=50/0.3で極小値を示した。一方、ITO90薄膜をシード層にした多層膜は体積抵抗率が単層膜の半分程度に低下し、Q(Ar)/Q(O2)=50/0.2で最小値を示した。 他方、体積抵抗率が最小となる条件で得られた単層膜の光透過率は可視域では400〜450nmにおいて85%以下に低下したものの、450〜800nmでは85%以上と良好な値を示した(図8)。さらに、積層膜の光透過率は可視域では450nm付近で80%程度まで低下するものの、単層膜より良好な値が得られた。これは積層化によってFe添加省In組成ITO薄膜の結晶性が向上しモビリティが増加したためで、従来のITO90膜と同程度の体積抵抗率が実現できたとしている。 グラフェンをレーザードライエッチング 同じく次世代透明導電材料として実用化が期待されるグラフェンでは、大阪大学がITO膜のパターニングにも用いられる大気中レーザードライエッチングの適用可能性について報告した。
実験では、SiO2膜付きシリコンウェハー基板上に設けたグラフェン膜にKrFエキシマレーザー(波長248nm)を照射し、照射前後のグラフェン膜の変化を光学顕微鏡、AFM、ラマン分光法で評価した。 写真2は膜厚8.6nmにしたグラフェン膜のレーザー(パワー密度5MW/cm2)照射前後の光学顕微鏡写真で、グラフェンがすべて除去されていることがわかる。同様の実験から、膜厚が9nm以下だと、パワー密度4MW/cm2以上ですべてドライエッチングできることが判明した。 図9にレーザーのパワー密度を4MW/cm2に固定した際のレーザー照射による膜厚変化率の膜厚依存性を示す。膜厚が10nm以上と厚いグラフェン膜の場合、その膜厚に変化がなかった。使用したレーザーのグラファイトへの侵入長は約9nmであることから、グラフェン膜の膜厚が侵入長よりも薄ければ基板表面までレーザービームが到達して基板を加熱し、基板上のグラフェン膜が除去できると考えられる。 木材をサブストレートにした無機ELも登場 番外編ともいえるユニークな発表としては、東京工芸大学が木材をサブストレートに用いた分散型無機ELを報告した。 サブストレートにヒノキ、シナ、スプルースという一般的な木板を使用。基板上にPEDOT/PSS導電性ポリマーを塗布した後、ZnS系蛍光体層、BaTiO3誘電体層、Ag背面電極をスクリーン印刷した。作製した素子はボトムエミッション構造で、基板側から発光を測定した。
その結果、図10のように木材側からの発光は木自身の光吸収によってリファレンスであるガラス製デバイスよりも輝度が低かったものの、3種類とも約100cd/m2という輝度が得られた。 続いて、各種基板の表面平滑性をSEMによって観察した。写真3はその一例で、リファレンスであるガラス基板製デバイスに比べ表面平滑性が低いことがわかった。そこで、木材基板の表面粗さを低減するため、基板上にまずバインダペーストを塗布したデバイスを作製した。その結果、輝度が2割程度アップし、さらに写真4のように輝度均一性も改善された。 参考文献 |
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