STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。

12-1 有機エレクトロニクス研究会(7月6日)


12-1 有機エレクトロニクス研究会 ダブルショットIJ法による単結晶有機半導体作製技術の詳細が明らかに

 7月6日、化学会館(東京都千代田区)で高分子学会主催による「12-1 有機エレクトロニクス研究会」が開かれた。今回のメインテーマは塗布型有機トランジスタで、産業技術総合研究所(産総研)から単結晶有機半導体作製技術が報告された。おもなトピックスをピックアップする。

 昨年、ダブルショットインクジェットプリンティング(DS-IJP)法を用いた単結晶有機半導体膜形成技術を発表した産総研。研究チームの峯廻洋美氏は今回、その詳細を明らかにした。

 周知のように、DS-IJP法は元来、ドナーインクとアクセプターインクを交互に滴下し基板上で結晶性有機薄膜電極にするために開発された技術。そのコンセプトは、結晶析出と溶媒蒸発を分離することにある。この概念を有機単結晶半導体膜に応用したのが今回のニュープロセス。つまり、有機半導体の結晶化を促進する貧溶媒をまず基板上に滴下。続いて、有機半導体インクを滴下することにより単結晶有機半導体膜を析出させる。すなわち、貧溶媒によって液滴における有機半導体の溶解度を低下させることで結晶化を促進する。この際、有機半導体結晶が析出した後、溶媒が蒸発するという順でフローが進行する。この結果、従来のIJ法でみられるコーヒーステイン現象に代表される不均質な結晶ではなく、均一な結晶が得られる。これは、混合膜は基板上で瞬時に混ざるのではなく、貧溶媒表面を有機半導体液滴が拡散しながら徐々に混合するためと考えられる。

 また、この方法では基板に滴下後、液滴の縮みが7.8秒と比較的早く止まることもグレインサイズの増大に寄与している。これに対し、従来の単一膜は液滴の縮小が止まるのに25秒もかかる。いうまでもなく、これは溶媒蒸発と同時に結晶析出が起こり、液滴サイズの縮小が長く続く、つまり結晶サイズが小さくなることを意味する。


図1 DS-IJP法による単結晶有機半導体膜の作製イメージ


写真1 C8-BTBT単結晶薄膜アレイの光学顕微鏡写真1)

 ところで、このプロセスでもキャリアモビリティの高いシングルドメインを得るには前処理が重要となる。具体的には、まず基板上をHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理して疎水化した後、開口パターンを設けたマスク越しにUV光を照射して接触角10度以下の親水エリアを設ける。この親水エリアに結晶化インクと有機半導体インクを交互に滴下するわけである。この際、インクを着弾させる親水エリアの形状がポイントとなる。さまざまな形状を試したところ、写真1のようなくびれ形状にすると、くびれ部分から下へ一方向に結晶が成長し、数十μmという広いステップ&テラス構造のシングルドメインが得られた。これに対し、コンベンショナルな矩形形状では結晶の成長方向が一様にならず、シングルドメインにならないことがわかった。

 その具体的成果だが、貧溶媒にN,N-ジメチルホルムアミド、有機半導体インクにジクロロゼンゼンに溶解させたC8-BTBTを用いたボトムゲート/ボトムコンタクト型デバイスで平均16.4cm2/V・sというハイモビリティを達成。ON/OFF電流レシオも106オーダーときわめて高い特性が得られた。また、クロスニコル偏光顕微鏡で観察したところ、作製した140個のアレイのうち52%がシングルドメインだった。

トップゲート型は安定で高性能なデバイスが容易に作製可能

 大阪府立大学の内藤裕義氏は、トップゲート型有機トランジスタの優位性と最新の研究成果について報告した。

 周知のように有機トランジスタはボトムゲート型が主流で、トップゲート型の報告はきわめて少ない。これは、ソース/ドレイン、有機半導体層、ゲート絶縁膜、ゲート、パッシベーション(&プラナリゼーション)を形成した後、パッシベーションだけでなくゲート絶縁膜もパターニングしてコンタクトホールを設ける必要があるという作製プロセスが煩雑なためである。しかし、同氏はこの点は認めながらも、トップゲート型の方が高性能で信頼性の高いデバイスが容易に得られると語る。まず、ボトムゲート型のデメリットとしてによるゲート絶縁膜のSAM処理が15時間程度と長くかかることを挙げた。これに対し、トップゲート型は基板上に直接有機半導体膜を成膜することができ、基本的に表面処理は必要ない。実際、実験で基板表面をSAM処理してもキャリアモビリティをはじめとする特性は変わらなかった。このため、本来濡れ性の高い面に有機半導体を乗せることができる。これは、いうまでもなく有機半導体膜を塗布する際にきわめて有利といえる。

 また、トップゲート型はCYTOP、PCS、PMMAなどさまざまなゲート絶縁膜が使用でき、デバイス特性もゲート絶縁膜によってさほど左右されない。さらに、元来、Vthシフトやバイアスストレス変動も小さい。


図2 埋め込み型ソース/ドレインを用いたトップゲート型有機トランジスタの構造

 その研究成果だが、塗布型低分子有機半導体であるC8-BTBTを塗布したデバイスはコンベンショナルな多結晶タイプながら2.8cm2/V・sというハイモビリティを達成。これに対し、同じくC8-BTBTを用いたボトムゲート/トップコンタクト型のモビリティは1.8cm2/V・sだった。また、Vthシフトやヒステリシスもほとんどなかった。しかし、有機半導体層の表面平滑性を評価したところ、Rms=40〜48nmときわめて低いことがわかった。これは、ソース/ドレインとの接触抵抗が高いことを意味する。

 そこで、PVP(ポリビニルフェノール)バッファ層に用いてソース/ドレインを埋め込み型にして有機半導体層を平坦化したところ(図2)、接触抵抗が6.6kΩ・cmから4.1kΩ・cmに低下。この結果、モビリティも4.9cm2/V・sに向上するとともに、Vthばらつきも低下した。

参考文献
1)峯廻:有機単結晶薄膜のインクジェット印刷、12-1 有機エレクトロニクス研究会資料、pp.3-4(2012.7)
2)内藤:トップゲート構造塗布型有機電界効果トランジスタ、12-1 有機エレクトロニクス研究会資料、pp.9-10(2012.7)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。