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高分子学会主催「最先端有機EL材料と評価方法」 (12月16日) |
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12月16日、高分子学会主催による「最先端有機EL材料と評価方法」が開かれた。山形大学からは新たな電子輸送材料、九州大学と京都大学からは液体有機半導体を用いた有機EL素子が紹介された。2件の講演内容をピックアップする。 ピリジン含有電子輸送材料で燐光素子の特性を向上
山形大学の笹部氏は、燐光有機ELデバイス向けとして新たに合成したピリジン含有電子輸送材料について報告した。周知のように、燐光素子では三重項励起子の失活を防ぐため、燐光発光層と接するホール輸送層や電子輸送層には高い三重項エネルギー(T1)が必要になる。そこで、LUMOレベルが低く、キャリア注入特性も高いピリジンに着目した。 図1のように、3,5-ジピリジルフェニル部位を有する3種類の材料を合成した。いずれもTg(ガラス転移点)は100℃以上で、B3PyPBはイオン化ポテンシャルが6.67〜7.15eVと深く、T1も2.77eVと高かった。さらに、電子移動度は10-4cm2/V・sとコンベンショナルなAlq3の100倍に達した。
そこで、電子輸送材料にB3PyPB、燐光ホストにCBP、燐光ドーパントにIr(ppy)3を用いてた緑色燐光素子を作製したところ、電力効率は100cd/m2(@100cd/m2)に達した。これはコンベンショナルなBCP/Alq3素子に比べ効率が1.6倍向上するとともに、駆動電圧も0.7V低下したことを意味する。さらに、電子輸送材料をB3PyPBからB3PyPPMに変えたところ、図2のように効率は130lm/Wに達した。つまり、BCP/Alq3素子に比べ効率は2倍以上にアップした。また、TCTAホストとFIrpicドーパントを用いた青色燐光素子でも56lm/Wという高い効率が得られた。 研究グループは新たな燐光材料を用いた素子でもピリジン含有電子輸送材料の性能を検証。PO9ホストとIr(dbfmi)ドーパントを用いた青色燐光素子ではピュアブルー発光が得られることを確認した。そこで、PQ2Ir橙色発光層、Ir(ppy)3緑色発光層とともに積層化した3波長型白色素子を作製したところ、Ra=82、効率55lm/Wと高い特性が得られた。 一方、九州大学の大島氏は独自の液体有機半導体デバイスの最新技術を報告した。周知のように、液体有機半導体は@劣化フリーの有機ELデバイス、A伸縮性有機ELデバイス、などへの応用が期待される。 まず、EHCzやTEGCzといったホスト、BAPCNTEやルブレンなどのゲスト、そして微量の電解質をドープした液体を作製。発光層としてこの液体をITO透明導電膜付き両面基板間に注入すると、電圧印加によってEL発光を示すことを確認。発光は大気中では1分程度で輝度が低下するが、新液を注入すると、劣化した古い液が押し流され、再発光する。つまり、インクジェットプリンターのようにインクを交換することにより半永久的なディスプレイが実現する。 ただ、ルブレンゲストを用いた黄色素子の外部量子効率はPEDOT/PSSホール注入層とCs2CO3電子バッファ層を設けても0.01%ときわめて低かった。そこで、@液体に電子注入性ホストをドープ、Bカソード側にTiO2ホールブロック層を設ける、といった工夫を施した。その結果、ホールと電子のキャリアバランスが改善され、外部量子効率は0.4%と劇的に向上した。この際の輝度も30〜100cd/m2と実用に近い値が得られた。さらに、BMTBゲストを用いた赤色素子、PLQゲストを用いた青色素子でも0.3%程度という効率が得られた。 寿命についてはTEGCzホストを用いた場合、わずか50秒で輝度が低下した。そこで、ホストを電気化学的に安定な(TEGCz)2に変更したところ、1000秒以上発光が維持できることがわかった。これは、(TEGCz)2は耐熱性が高く、EL発光における熱分解速度が遅いためである。 他方、伸縮性有機ELは高分子に液体有機半導体を相溶させてゲル化することによって有機半導体層を形成する。PEOポリマーとPLQ液体有機半導体、PMMAポリマーとTEGPBA液体有機半導体を用いて膜を作製したところ、前者は膜表面が荒れたポリマーネットワーク構造となった。これに対し、後者は有機半導体がゲル化し、その表面平滑性もRa=1.4nmとフラットな膜が得られた。
そこで、ITOアノード/PEDOT:PSSホール注入層/PMMA:TEGPBAゲル化有機半導体層/Caバッファ層/Alカソードという構造の青緑色有機EL素子を作製。高分子発光層に主鎖型の共役系高分子であるMEHPPVを用いた固体素子と弾性率を比較した。その結果、図3のようにゲル化素子は弾性率が6.3×10-1MPaと桁違いに低く伸縮性が高いことがわかった。さらに、ゴム化しているため、伸ばしても元の状態に戻り、さらに伸縮を繰り返しても伸び量は一定で可逆性のあることも確認できた。また、発光層形成後、室温でAlカソードを真空蒸着したところ、MEHPPV素子はネットワーク構造の影響からAl膜が荒れてカソードとして機能しなかった。これに対し、ゲル化素子では蒸着したAlがカソードとして機能したが、Al膜表面がやや荒れた状態となった。そこで、基板温度100℃で蒸着したところ、フラットなAl膜が得られた。なお、素子特性については電圧20Vで1000cd/m2の輝度が得られ、外部量子効率は0.17%だった。 さらなる効率改善を図るため、液体有機半導体にTEGCz、ポリマーにPVKゲルを用いるともに、PEDOT/PSSホール注入層上に電子ブロック層を設けたところ、キャリアバランスの改善により電子とホールの再結合バランスが向上し効率も向上した。今後、燐光ゲストを用いれば外部量子効率を6%程度に改善できる可能性があるとしている。 参考文献 ※本記事はステラ・コーポレーション電子メディア部の記者が聴講して記事を執筆しました。 |
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