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有機エレクトロニクス研究会(10月14日)


有機エレクトロニクス研究会(OME) PEDOTを蒸着法で成膜することに成功

10月14日、都内で開かれた電子情報通信学会主催による「有機エレクトロニクス研究会(OME)」。有機エレクトロニクス全般にわたって幅広い講演が繰り広げられたが、ここではWhat's NEWという観点から二つの講演をピックアップする。

 まず東京農工大学の研究グループは、導電性ポリマーとして知られるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)をウェット法ではなく蒸着法で薄膜成膜したことを報告した。


図1 PEDOTの合成経路1)

 周知のように、PEDOTはポリマー透明電極や有機ELのホール注入層として知られるが、溶媒に不溶なため、PSS(ポリスチレンスルホン酸)と複合化したPEDOT:PSSをウェットコートして膜形成するのが一般的である。しかし、PSSはph=2と酸性度が高いため、デバイスに用いた場合、下層の侵食や塗布装置の耐食性が問題になるなど使い勝手が非常に悪い。そこで、研究グループはPd触媒を用いて低分子量のPEDOTを合成し、真空蒸着法でピュアPEDOT膜を成膜することにした。

 図1のように触媒に酢酸Pdおよび酢酸Cu、酸化剤に酸素を用いた酸化重合によってPEDOTを合成。トリフルオロ酢酸(TFA)を加えることにより重合速度と重合度を制御した。具体的には、まずナスフラスコにCHCl3溶媒を5mLとり、EDOTを5mmol、各触媒をEDOTに対して0.1mol%、TFAを5mmol加え、室温の酸素過剰雰囲気で撹拌して酸化重合した。そして、得られた混合物をメタノールに滴下してPEDOTを析出。さらに、NaHCOl3水溶液でTFAを中和し、最後に真空雰囲気で乾燥させた。この際、重合後をみるため、重合時間を6時間(サンプルA)、12時間(サンプルB)、24時間(サンプルC)と変化させた。

サンプル
平均重合度
収率
A
5.25
22%
B
31.0
32%
C
50.6
61%

表1 サンプルの平均重合度1)

 表1はサンプルの平均重合度で、重合時間が長くなるにつれて重合度が増加した。また、いずれのサンプルともクロロホルムに溶解した。

 PEDOT薄膜はAgを蒸着したガラス基板上に圧力10-6〜10-5Torr、蒸着セル加熱温度350〜520℃という条件で真空蒸着した。なお、比較のため、各サンプルをCHCl3で濃度10mg/mLに希釈した溶液を作製したスピンコートサンプルも作製した。


写真2 蒸着膜の光学顕微鏡像1)

写真1 スピンコート膜の光学顕微鏡像1)

 それぞれのサンプル膜のIRスペクトルを測定したところ、スピンコート膜、蒸着膜とも同様のピークが観察されPEDOTであることが確認された。また、可視光反射吸収スペクトルはスピンコート膜、蒸着膜とも400nmより短波長側にπ共役を示す吸収帯が観察され、高い透明性があることがわかった。ただし、蒸着膜はスピンコート膜に比べ吸収帯が短波長側にシフトした。これは、蒸着時にモノマーが混入して分子量が若干低下したことを意味する。また、サンプルA、B、Cを比較すると重合度の高いCはA、Bに比べ吸収帯が長波長側にピークがあり、分子量が高いことが示唆された。

 写真1、2は膜の光学顕微鏡像で、スピンコート膜は不均質な凝集構造がみられ、重合度が増大するにしたがって凝集が進行した。これは、分子量の増加にともなって分子間の凝集力が増大し、溶媒に対する溶解度が低下したためと考えられる。これに対し、蒸着膜は重合度に関わらずユニフォミティが高いアモルファス膜が得られた。また、AFM観察で評価した表面粗さもRa=1.8〜4.9nmときわめて平滑で、微細な凝集などが一切みられなかった。つまり、表面モルフォロジーという観点では蒸着膜の方が高い特性を示した。

 また、PEDOT蒸着膜上にAu電極を蒸着しI-V特性を評価したところ、PEDOT膜はAu電極に対してオーミック特性を示した。また、その導電率も2.8Scm-1と導電性ポリマーとして良好な特性が得られた。

有機膜上にFSAMを成膜して有機ナノロッドを形成

 一方、名古屋大学と岩手大学の研究グループは有機膜上にSAM(Self Assembled Monolayers)を成膜すると有機膜がナノドット化することを報告した。この方法をMADSAT法(Molecular Aggregation During SAM-Treatment)と命名、その形成メカニズムについて発表した。

α-NPD膜厚
高さ
直径
密度
1nm
14nm
230nm
11dot/μm2
2nm
13nm
250nm
12dot/μm2
5nm
50nm
500nm
3dot/μm2
8nm
80nm
900nm
2dot/μm2
10nm
100nm
1200nm
1.7dot/μm2

表2 α-NPD膜の膜厚とナノドットのディメンジョン2)

 まず、有機EL用ITO膜付きガラス基板上にα-NPD膜を圧力4×10-4Pa、成膜速度0.1nm/secで真空蒸着。続いて、フッ素化エトキシシラン(FSAM)を気相法により120℃×2時間といった条件で成膜した。

 写真3はFSAM成膜膜と成膜後のAFM像で、FSAM成膜前は表面が平滑だったが、成膜後は有機ナノロッドが観察された。写真4はα-NPD膜の膜厚を変えた場合のAFM像比較で、表2のようにα-NPD膜の膜厚が厚くなるにつれてナノドットの径と高さも増大した。ただし、膜厚1nmと2nmではナノドットの径と高さがほぼ同じであることから、膜厚2nm程度でナノドットのディメンジョンが飽和すると考えられる。他方、α-NPD膜の膜厚を15nm以上にするとナノドットが形成されなかった。


写真3 AFM像の比較2)

写真4 α-NPD膜の膜厚の違いによるAFM像比較2)


図2 MADSAT法による有機ナノドット形成モデル2)

 次に、ITO膜上にFSAMを成膜してからα-NPD膜を蒸着したところ、α-NPDの凝集はみられたものの、ナノドットは観察されなかった。さらに、α-NPD分子の凝集を見込んで成膜後に熱処理した際もナノドットは形成されなかった。

 これらの結果からナノロッドの形成メカニズムを考察した。図2のように、ITO膜上にα-NPD膜を蒸着した直後は表面が平坦だが、FSAM成膜時の熱によってα-NPDが凝集し、ITOが若干露出する。露出したITOにFSAMが成膜されると、FSAM成膜領域がα-NPDを押しやり、その領域を広げていく。この結果、有機ナノドットができる仕組み。この際、FSAMはOH基と結合するため、ITO上にのみに成膜され、α-NPD上に成膜されることはない。

成膜時間
仕事関数
0分
4.94eV
5分
5eV
15分
5.24eV
60分
5.52eV
ナノドット洗浄後
5.2eV

表3 FSAMの成膜時間と仕事関数2)

 このメカニズムが正しいかどうかを検証するため、作製したナノドットをイソプロパノールで除去する実験を行った。これは、FSAMはイソプロパノールで洗浄しても基板上に残る一方、α-NPDは除去されるため。AFMではFSAMが観察できなかったため、仕事関数からFSAMが残っているかどうかを推測することにした。表3は仕事関数の測定結果で、基板洗浄後の仕事関数は5.2eVだった。つまり、FSAMを15分成膜したサンプルの仕事関数とほぼ同じだった。このため、イソプロパノールで洗浄した後もFSAMは基板上に残っており、上記で考察したナノドット形成モデルは正しいと考えられる。

 研究グループはα-NPDと並ぶ代表的な有機EL用ホール輸送材料であるTPDでもナノドットが形成できるかどうかにトライ。ITO膜上にTPD膜を膜厚5nmで蒸着した後、FSAMを成膜したところ、α-NPDと同じように有機ナノドットが形成された。つまり、FSAMを用いたMADSAT法は幅広い有機材料に適用できることが示唆されたわけである。

参考文献
1)江口ほか:パラジウム触媒を用いたPEDOTの合成と蒸着膜形成、有機エレクトロニクス研究会(OME)資料、pp.15-19(2011.10)
2)森本ほか:SAM処理中分子凝集(MADSAT)法による有機ナノドット形成、有機エレクトロニクス研究会(OME)資料、pp.47-50(2011.10)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。