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信州産学官連携機構新技術説明会(8月8日)


信州産学官連携機構新技術説明会
諏訪東京理科大学が新コンセプトの縦型有機トランジスタを報告

 8月8日、科学技術振興機構(JST)で「信州産学官連携機構新技術説明会」が開かれた。このなかで諏訪東京理科大学の渡邊康之氏は新コンセプトの縦型有機トランジスタを発表し、従来の縦型有機トランジスタに比べ低電圧化できるとともに高速駆動化できることを報告した。以下、講演内容を要約する。


図1 電荷移動のイメージ1)

 周知のように、縦型有機トランジスタはソース電極とドレイン電極を縦方向に配置し、その間にゲート電極と有機半導体層を設け、基板に対し垂直方向でキャリアを移動させる。ゲート絶縁膜がレス化できるなどシンプル構造が特徴だが、ON/OFF電流レシオが低いなどの問題を抱える。

 そこで、キャリアのエネルギーバンド伝導をコンセプトにしたデバイスを設計した。つまり、有機半導体分子の波数ベクトル(k)とチャネルの方向を揃えるとともにグレインバウンダリーの影響をなくすことにより、横型有機トランジスタのようなホッピング伝導ではなく、バンド伝導を最大限利用できるようにする。この結果、グレインバウンダリーによってキャリアの移動が妨げられることがなくなる。そのため、チャネル方向に対し高いON電流が得られる。

 具体的には、図1のように膜化すると縦方向に分子がスタックするようにする。有機半導体材料として用いたBTQBTは(102)方向に分子がスタックするため、図1のように基板の垂直方向に分子が積層される形となる。デバイス構造は図2の通りで、Auドレイン、有機半導体、Auソースとも真空蒸着法で蒸着。Alゲートはメタルマスクを用いてマスクスルー蒸着し、有機半導体層内に埋設した。


図2 デバイス構造1)


図3 デバイスの特性比較1)


図4 曲げ半径と電流値の関係1)

 その効果を検証するため、コンベンショナルな有機半導体材料であるペンタセンを用いたリファレンスも作製し、特性を比較した。この結果、図3のようにON電流密度はリファレンスデバイスに比べ3桁も高かった。これは、ペンタセンはグレインの配向がランダムで、結晶内はバンド伝導、結晶間はホッピング伝導となり、膜としては本来の高いキャリア移動特性が生かせないためである。これに対し、今回のデバイスはバンド伝導を最大限に利用できるためである。実際、駆動電圧はわずか3V、駆動周波数は10MHzときわめて良好な値が得られた。なお、気になるキャリアモビリティは測定していないが、計算値では6.5cm2/V・s以上と見積もられており、これが確認できれば横型デバイスも含め世界最高水準の有機トランジスタとなる。

 同氏の研究グループは縦型では世界で初めてプラスチック基板上にフレキシブルデバイスを作製することに成功。図4のように曲率半径5〜20oで曲げても電流値がほとんど変化しないことが確認できた。

参考文献
1)渡邊:低電圧大電流駆動を可能とする高移動度有機トランジスタ、信州産学官連携機構新技術説明会資料、pp.21-25(2011.8)