STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。 |
IDW'10〜新型TFT編 |
||||||||||||||||
ここではa-Si TFT、Poly-Si TFTに次ぐアクティブ素子として存在感を増している新型TFTに関する発表をクローズアップする。 IGZO-TFTにTiOx膜をパッシベートしUV処理による特性劣化をレス化
まず、超大型&高速駆動テレビ用TFT-LCDやフレキシブルディスプレイにベストとされるZnO系酸化物TFTではAU OptronicsがアモルファスIGZO-TFTにTiOxパッシベーションを設けることによりUV処理による特性劣化をレス化したことを報告した。 周知のように、有機ELデバイスではITOアノードの表面処理にUVオゾン処理が用いられる。アノードの仕事関数を高めるためで、この結果、アノードから発光層へのホール注入特性が改善され発光特性が向上する。しかし、UV処理はアクティブマトリクス素子に少なからぬ影響を与え、とくにIGZO-TFTは容易に特性が変動する。UV照射のフォトンエネルギーがIGZO-TFTの吸収エネルギー(3eV)よりも高いと、フォトンはIGZO膜によって容易に吸収されるためであり、この結果、IGZO-TFTはVthがマイナス方向にシフトする。このVthシフトはUV処理後に制御することが難しい。そこで、UV処理の影響をミニマム化するため、TiOx光触媒膜によってパッシベートすることにした。 試作したのは図1のエッチングストッパー付きのボトムゲート型TFTで、IGZO活性層はIn2O3:Ga2O3:ZnOターゲット(1:1:1at.%)を用い膜厚50nmで室温スパッタリング成膜した。チャネル長は9μm、チャネル幅は20μmである。IGZO-TFT完成後、SiOxパッシベーション上にナノサイズTiO2分散溶液を塗布。最後に、N2環境において250℃×1時間ポストアニールした。
図2にXeエキシマランプから波長172nmのUV光をパワー密度50mW/cm2で1分間照射した際の特性変動を示す。1分後、OFF電流はわずかに増加する一方、ON電流はほとんど変化しなかった。つまり、Vthはマイナス方向にシフトした。これは、キャリアが活性層〜絶縁層間でトラップされたためと思われる。前記のようにUV照射エネルギーがIGZOの吸収エネルギーである3eVよりも高いと、UV光はIGZO膜によって吸収され、チャネル上にセパレートされた電子-ホール対が生成される。このため、Vthがシフトする。 さらに興味深いことに、UV処理後は高電圧印加時と低電圧印加時のVth差が小さくなった。これは、UV照射がアニール効果も有しているためである。そこで、UV照射によるアニール効果を調べた。図3にTiOxデバイスとレスデバイスの特性比較を示す。前者はVthシフトが−4Vから−4.5Vと小さかったのに対し、後者は−17.5Vから−22.5Vと大きかった。
図4はTiOx膜の吸収スペクトルで、UV波長領域では透過率が低く、つまり吸収が強い。これは、いうまでもなくUV処理によるIGZOの特性変動がほとんどないことを意味する。その一方、可視光領域では透明性が高く、とくにボトムエミッション構造有機ELDに適しているといえる。 図5はドレイン電圧を変化させた際のVth比較で、TiOxデバイスはアズデポデバイスに比べON電流が少ないことがわかる。具体的には、アズデポデバイスはドレイン電圧が0.1Vから10.1Vに増加すると、Vthは−13Vから−17Vにシフトする。これに対し、TiOxデバイスはドレイン電圧変化によるVthシフトがみられなかった。これは、アニール効果によって水や酸素の影響による特性変化がないためと考えられる。 さらに、TiOxはON電流をも減少させる。元来、TiO2溶液には酸素分子が含まれており、ポストアニール中に酸素分子がIGZO膜と相互作用し、酸素欠乏濃度を減少させる。つまり、IGZO膜のキャリア濃度が低下する。この結果、ON電流が少なくなりON/FF電流レシオも増大する仕組みだ。 IZO-TFTをハーフトーン露光+O2アッシングでトップコンタクト型に IGZO以外の酸化物TFTでは、AU Optronicsがゾルゲル法で成膜したIZO(In2O3-ZnO)-TFTについて報告した。 一般的に、酸化物TFTはプラズマによってダメージを受けやすい。このため、活性層形成後にソース/ドレインメタルをスパッタリング成膜するコンベンショナルなボトムゲート・トップコンタクト構造を採用するのが困難である。そこで、IZO活性層を保護するとともにソース/ドレインと活性層間のオーミックコンタクト性を高めるため、ハーフトーン露光とO2プラズマアッシング技術を用いた。
まず、酢酸インジウム(In(CH3COO)3)と酢酸亜鉛二水和物(Zn(CH3COO)2・2H2O)をメソキシエタノール中に50℃で24時間浸漬させてIZOプリカーサ溶液を合成した。これらはアルコール溶媒に対し溶解性が低いため、ジエタノールアミン(DOEA)とアセチルアセトン(acac)をプリカーサ溶液に添加した。このプリカーサ溶液を基板上に膜厚20〜30nmでスピンコートした後、500℃×1時間熱処理して乾燥させた。写真1は膜のAFM像で、平滑性の高いアモルファス膜が得られた。 前記のように、IZOアイランド上にはキャッピングレイヤーを設ける。具体的にはIZO膜成膜後、フォトレジストを塗布・硬化。続いて、透過パターンと半透過パターンが混在するハーフトンマスクを用いてハーフトーン露光する。この結果、現像工程における現像溶解性に差ができ、現像後、レジスト膜厚は厚膜部と薄膜部で異なる。 写真2はレジスト現像後のSEM像で、レジスト膜厚はチャネル領域となる厚膜部が880nm、ソース/ドレインと活性層のコンタクト領域になる薄膜部が150nmである。IZO活性層をフォトリソでパターニングした後、O2プラズマ処理によって薄膜部のレジストを除去すると、写真3のようにソース/ドレインと活性層のコンタクト領域が露出する一方、チャネル領域はレジストが減膜するだけである。この際、O2ガスは真空チャンバ内に放出されるため、ソース/ドレインのコンタクト領域として露出したIZO部分はドープライクIZOとして利用することができる。なお、Al-Ndソース/ドレインパターニング後もチャネル上に残ったレジストはサイドエッチングを抑制するプロテクトレイヤーとして機能する。 興味深いのは、O2ドライエッチング時にIZO活性層とソース/ドレインのコンタクト領域が真空環境に曝され、O2がドープされることである。実際、真空環境にあるIZO膜の抵抗は6.35×105Ω/□と、真空レス環境のIZO膜に比べ大幅に減少した。
図6にチャネル長8μm、チャネル幅80μmデバイスのトランジスタ特性を示す。O2プラズマ処理レスに比べON電流が増加しサブスレッショルドスイング特性も改善された。これは、活性層とソース/ドレイン間のコンタクト抵抗が低下したためと考えらられる。なお、モビリティは0.2cm2/V・s、Vthは−3V、ON/OFF電流レシオは106だった。 単結晶有機半導体で9.1cm2/V・secというハイモビリティが IGZO-TFTとともにフレキシブルデバイス用TFTとして有力視される有機TFTでは、invitedながらやはり物質・材料研究機構、科学技術振興機構の高移動度単結晶デバイスに注目が集まった。 ゲート絶縁材料にPMMA、有機半導体材料にC8-BTBTを使用。これらを混合したヘプタン希釈溶液をSiO2基板上にスピンコートし、セルフ配向によってPMMAゲート絶縁層とC8-BTBTアモルファス有機半導体層とに相分離させた。そして、蓋付きのガラス容器に入れて溶媒蒸気に曝した。この結果、C8-BTBTはアモルファスから面方位(100)の単結晶へ変化した。これは、蓋の突起構造によって有機半導体溶液が保持され、結晶が横方向に成長しながら垂直配向するためである。つまり、溶剤乾燥が飽和すると、突起物の界面が結晶成長の核となって突起物と反対方向に有機分子が成長して配向する。このため、キャリアはホッピング輸送から帯状輸送へ変化する。そのグレインサイズは300μmクラスと巨大で、基板面内にユニフォミティよく成長し、表面平滑性も高かった。驚異的なのはそのモビリティで、トップコンタクト型デバイスで5cm2/V・sとa-Si TFTの約10倍に達した。なお、研究グループはこの方法をエッジキャスト法と命名している。
研究グループはさらなる特性向上を図るため、ギャップキャスト法と名付けた新たな有機半導体塗布法も紹介した。プロセスイメージは図10の通りで、MEMS用のフォトレジストを数回にわたってステップ露光することにより現像溶解性を断面方向で異ならせ、図10のように傾斜配置する形でパターニングする。この後、蓋をして、側面の空孔からスポイトなどで有機半導体溶液を充填する。この結果、有機半導体は三角形状にはさまれた隙間だけに保持される。そして、ホットプレートで120℃に加熱して溶剤を揮発しながら有機半導体分子を横方向に成長させると、溶液の乾燥方向が一定に定められるため配向性の揃った結晶膜が得られる。もちろん、前記のエッジキャスト法のように常温で乾燥させることも可能だが、今回は溶媒に溶解しにくいC10-DNTT有機半導体を用いたため、敢えて熱処理乾燥させた。気になるモビリティは10cm2/V・sと世界最高で、ON/OFF電流レシオも106以上が得られた。
上記二つの単結晶成長法を実用化するため、5×5の有機TFTアレイも作製。チャネル長は100μm、チャネル幅は50μmで、平均で5cm2/V・s強というハイモビリティが得られた。 参考文献 |
REMARK 1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。 2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。 |