STELLA通信は潟Xテラ・コーポレーションが運営しています。

IDW'10〜無機ELD、FEL編


IDW'10〜無機ELD、FEL編 フルカラー化も秒読み段階になってきたQLED


図1 ELスペクトル1)


写真1 RGBモノカラー素子の発光1)

 ここではTFT-LCD、PDP、有機ELD、電子ペーパー以外のFPDデバイスを取り上げる。まずはここにきて新たな自発光ディスプレイとして注目されている量子ドット型無機ELディスプレイ(QLED)で、この分野のオーソリティである米QD Visionがその最新技術動向を報告した。

 同社は量子ドット(QD)材料としてCd系コアにZn系シェルをつけたコア-シェル型材料を選択。これはコアオンリー材料に比べ発光強度が向上するためである。具体的には、赤色材料はCdSeコア+CdxZn1-xSシェル、波長520〜580nmの黄緑色材料はCdxZn1-xSeコア&CdxZn1-xSシェア、波長450〜490nmの青色材料はCdxZn1-xSコア&ZnSシェル材料を用いている。

 写真1にRGBモノカラー素子、図1にRGBの発光スペクトル、表1にCIE色度と効率を示す。ピーク輝度は赤色素子が10万cd/m2以上、黄色素子が6万cd/m2以上、どちらも外部量子効率は10%以上が得られており、有機ELと肩を並べるまでになってきた。一方、緑色素子はピーク輝度5万cd/m2、電流効率10cd/A。さらに、青色素子はピーク輝度200cd/m2、外部量子効率0.5%にとどまっている。


図2 赤色素子と黄色素子の特性1)
項目
Red
Green
Blue
CIE(x)
0.69
0.30
0.16
CIE(y)
0.31
0.68
0.05
ピーク波長
630nm
525nm
455nm
電力効率
15lm/W
10lm/W
0.26lm/W
電流効率
15cd/A
12cd/A
0.55cd/A

表1 RGB素子の特性1)

 図2は黄色デバイスと赤色デバイスのL-V特性で、どちらも輝度1000cd/m2に要する電圧は2.7〜2.9Vと低電圧である。これは、燐光有機ELよりも低い。このため、とくに左目用と右目用に時分割表示するために瞬間的な高輝度が要求される3Dディスプレイに有効といえる。

 同社はファーストアプリケーションとして照明デバイスを想定しており、それには5万時間の寿命を確保する必要がある。現段階における実力は初期輝度100cd/m2で1万時間以上、初期輝度1000cd/m2で300時間以上となっている。


写真2 RGBフルカラーアレイ1)

 セカンドターゲットアプリケーションであるカラーディスプレイについては、2010年にa-Si TFT駆動の4型QVGAイエローモノカラーパネルを試作。現在、QD層を印刷法とインクジェットプリンティング法で塗り分けるフルカラーパネルを開発中で、その印刷解像度は100ppiに達する。今回は赤色サブピクセルと緑色サブピクセルにQDを用いるとともに青色有機EL層をスタッキングしたハイブリッド型フルカラーアレイ(パネルではない)を試作した。参考として写真2にそのピクセル像を示す。

蛍光体に少量のCNTを添加して無機ELDの発光特性を改善

 一方、コンベンショナルな無機ELDではHoseo UniversityとChengdu Sichuan CCO Display Technologyがカーボンナノチューブを蛍光体に添加して特性を改善したことを報告した。

 ITO膜付き基板に蛍光体層3層、誘電体層、Ag電極をそれぞれスクリーン印刷してサンプルデバイスを作製した。図3のように、3層の蛍光体層のうち上部または下部のどちらか1層にマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)を添加した。蛍光体粉末にα-ターピネオール(96g)、エチルセルロース(2g)、MWCNT(0.04g、0.4g)を添加し羽根車またはボールミルで混合・拡販してペースト化した。


図4 輝度-電圧特性の比較2)
 上がCNT0.04g添加、下がCNT0.4g添加


図3 試作した無機ELの構造
(タイプ1がボトム面、タイプ2がトップ面にMWCNT添加蛍光体層を配置)2)
デバイス
CNT0.04g
CNT0.4g
タイプ1
187V
124V
タイプ2
198V
169V

表2 発光開始電圧の比較2)

 表2はタイプ1(ボトム面がCNT添加蛍光体層)とタイプ2(トップ面がCNT添加蛍光体層)の特性を比較したもので、CNT添加レイヤーの配置に関わらず発光開始電圧はさほど変わらなかった。図4はCNT0.04g添加とCNT0.4g添加量における特性を比較したもので、前者の場合、タイプ1は電圧140Vで輝度210.9cd/m2、タイプ2は170cd/m2だった。他方、CNT0.4g添加ではタイプ1は102.5cd/m2、タイプ2は95.7cd/m2だった。つまり、蛍光体にMWCNTを0.4g添加すると良好な結果が得られた。

TiO2被覆スペーサでFELの帯電問題を解消

 次世代の高輝度照明デバイスと期待されるフィールドエミッションランプ(FEL)ではChunghwa Picture Tubes(CPT)、Tatung University、Tatung CompanyがTiO2抵抗層を設けたスペーサを用いて7型デバイスを試作。近い将来、CPTがTFT-LCDのバックライト光源として用いることを示唆した。

 周知のように、FELではセルギャップを保持するスペーサにはエミッタから1次電子、アノードから2次電子が衝突する。スペーサの帯電を防止するには、カソードとフォーカス構造物のデザインを工夫して1次電子の広がりを抑制するのが一般的である。その一方、2次電子の挙動を制御するのはきわめて難しい。そこで、スペーサ上にTiO2電荷リーク層を被覆し、電荷をリリースする抵抗層として機能させることにした。

 製造フローだが、背面カソードガラス基板はまずAgペーストを印刷しカソードを形成する。次に、CNTペーストをカソードライン間にドット形状で印刷してエミッタを形成した。一方、前面アノードガラス基板はITOアノードを成膜した後、CRT用RGB蛍光体(P22)ペースト印刷した。

 スペーサには高さ1.1o、径1oの円柱型ガラスを使用。ナノサイズTiO2を500ppm添加した水溶液中にディップした後、焼成することによってTiO2膜を被覆した。この後、カソード基板上にセットしアノード基板と貼り合わせた。そして、デバイス内を封止し、排気管から真空排気。最後に、作製したFE-BLU、7型TFT-LCD(CPT製)、拡散板をアッセンブリした。

 写真3はカソード基板の顕微鏡像で、カソードは幅150μm、CNTエミッタは径220μmにした。エミッタ径をカソード幅よりも広くしたのは電場改善効果を高めるためで、この結果、しきい値電界が低下しエミッションユニフォミティも向上した。


写真4 7型FE-BLUの発光写真3)


写真5 7型FE-BLU搭載デジタルフォトフレーム3)


写真3 カソード基板の顕微鏡写真3)

 ところで、スペーサ用の電荷リーク層の比抵抗は107〜109Ω・cmが望ましいとされる。そこで、TiO2膜を評価したところシート抵抗値は747.78×1010Ω/□、膜厚は0.577μmだった。つまり、このTiO2の比抵抗は4.31×108Ω・cmと見積もられる。このため、十分な電荷リーク機能を有していることが確認できた。

 写真4にFE-BLUの点灯状態、写真5にデジタルフォトフレーム用TFT-LCDに搭載した際の表示例を示す。エミッション特性を示すしきい値電界は加速電圧2.64Vで1.26V/μmで、この際のパネル輝度は180cd/m2だった。

参考文献
1)Peter Kazlas, et al.:Quantum Dot Light Emitting Diodes for Full-color Active-matrix Displays, IDW'10, pp.1623-1626(2010.12)
2)Kyeong-min Yu, et al.:Inorganic Electroluminescence Device with Carbon Nano Tube, IDW'10, pp.1049-1052(2010.12)
3)Mei-Tsao Chian, et al.:7 Inch Field Emission Backlight Unit Assembled for LCD Panel with TiO2 Coated Spacer, IDW'10, pp.823-826(2010.12)


REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。