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IDW'10〜有機ELD編 |
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有機ELDでは、東芝と九州大学の研究グループが発表した青色燐光素子が最大のインパクトを与えた。その外部量子効率は実に20.9%と理論限界に近いレベルで、しかもウェットプロセスで成膜した点も特筆に値する。
基本的なデバイス構成はITOアノード/PEDOT:PSSホール注入層/青色燐光発光層/CsF電子注入層/Alカソードで、ホール注入層と発光層はスピンコート法、電子注入層とカソードは真空蒸着法で成膜した。発光材料はホストにPVK(60wt%)、電子輸送アシストにOXD-730(30wt%)、ドーパント(10wt%)にFIrpicとFir6を使用。これらをクロロベンゼン溶媒に溶解させた後、シリコンウェハー上にスピンコートしN2環境で80℃×30分乾燥させた。なお、すべての材料とも市販品を使用した。 周知のように、燐光パネルの効率を高めるにはドーパント内で三重項励起子を効率よく閉じ込める必要がある。これには、ホストの三重項エネルギーをドーパントの三重項エネルギーよりも高くしなければならない。このため、まずPVKの三重項エネルギーを測定したところ2.72eVと見積もられ、FIrpic(2.65eV)よりも高いことが確認できた。図1はPVKホストに青色燐光ドーパントを5wt%ドープした際の燐光減衰曲線で、燐光発光は時間に比例してリニアに減衰する。これは、ドーパントからホストへの三重項エネルギーの移動がほとんどなく、ホストの三重項エネルギーがドーパントの三重項エネルギーよりも高いことからドーパント内に閉じ込められるためである。 三重項励起子の閉じ込めにはキャリア輸送層の選択も重要である。このため、前記のように電子輸送材料として三重項エネルギー2.7eVのOXD-7を発光層にドープした。また、PEDOT/PSSには励起子のブロッキング特性があり、その効果を検証するため、PEDOTとPSSの比率1:6の「AI4083」と1:20の「CH8000」を用いてそれぞれのサンプルデバイスを比較した。図2にホール注入材料の違いによるデバイス特性比較を示す。PSSリッチなCH8000デバイスの電流効率はAI4083デバイスに比べ高くなった。これは、ホール注入層と発光層の界面がPSSリッチ状態になっており、発光層内における励起子閉じ込めが十分なためと考えられる。
励起子閉じ込め効果をさらに高めるため、三重項エネルギーが2.98eVと高い3TPYMBを電子輸送層として挿入することにした。実際、図2からも3TPYMB電子輸送層を設けると効率が向上することがわかる。いうまでもなく、これらの結果は三重項励起子閉じ込め効果が向上したためである。 図3はFIrpicドーパントのドープ率を1〜10wt%と変動させた際の電流効率で、FIrpicを3〜5wt%ドープすると効率が高くなることがわかる。これに対し、ドープ率の増加にともなって効率が低下するのは、FIrpic分子間でクエンチングが生じるためと考えられる。 上記の実験から素子構成をITO(100nm)/PEDOT:PSS(CH8000、45nm)/燐光発光層(PVK:67wt%、OXD-7:30wt%、FIrpic:3wt%、70nm)/3TPYMB(25nm)/CsF(1nm)/Al(150nm)に変更した。図4は電流密度と効率の関係で、外部量子効率20.9%、電力効率40lm/Wという高効率が得られた。これは、塗布型デバイスでは世界最高に当たる。 さらに、Ir(flpy)2(acac)黄色燐光ドーパントをFIrpicとともにドープした白色デバイスを作製したところ、外部量子効率19.8%、電力効率52lm/W、CIE色度x=0.32、y=0.45とハイパーフォンマンスが得られた。 低分子&高分子ハイブリッドパネルで青色発光特性を改善 ソニーは、低分子レイヤーと高分子レイヤーをハイブリッド化した新たなパネル構造「Super Hybrid OLED」について発表した。
図5にその構造を示す。ホール注入層、インターレイヤー、青色以外の発光層、塗布型電子輸送層はキシレン溶媒ベースの塗布液をスピンコート。その他はコンベンショナルな真空蒸着法で成膜した。 塗布型ホール輸送材料は、コンベンショナルなインターレイヤー材料として用いられるTFBと、HOMOレベルが高く青色共通発光層に適した低分子材料(HTL-1)を検討。その特性を検証するため、@デバイス1:ITO/ホール注入層/スピンコートTFBホール輸送層/青色共通発光層(BCL)/ETL-1電子輸送層/電子注入層/Al、Aデバイス2:ITO/ホール注入層/スピンコートHTL-1ホール輸送層/BCL/ETL-1電子輸送層/電子注入層/Al、Bデバイス3:ITO/ホール注入層/蒸着HTL-1ホール輸送層/BCL/ETL-1電子輸送層/電子注入層/Al、という3種類のハイブリッド青色デバイスを作製した。表1に電流密度10mA/cm2時における特性比較を示す。いずれのデバイスとも色度はx=0.14、y=0.09だったが、デバイス2はデバイス1よりも効率が高かった。つまり、ハイブリッドデバイスではホール輸送材料の選定がより重要であることがわかった。 図6にライフタイムの比較を示す。デバイス2の寿命はデバイス1に比べ長かったが、リファレンスであるデバイス3には及ばなかった。これは、スピンコートプロセス中にHTL-1膜表面にコンタミネーションが発生したためと考えられる。そこで、HTL-1ホール輸送層とBCL間に真空蒸着法によりハイブリッド共通レイヤー(HCL)を挿入することにした。これがデバイス4(ITO/ホール注入層/スピンコートHTL-1ホール輸送層/HCL/BCL/ETL-1電子輸送層/電子注入層/Al)で、表1のように効率が6.1cd/Aにアップした。さらに、寿命もデバイス2に比べ向上し、デバイス3とほぼ同等が得られた。
青色デバイスに続き、赤色と緑色のSuper Hybrid Deviceも作製。構造はデバイス5で、リファレンスとしてITO/ホール注入層/インターレイヤー/高分子発光層/電子注入層/Alというオール高分子デバイス(デバイス6)も作製した。表2は電流密度10mA/cm2時における特性比較で、イニシャル特性はほぼ同じだった。また、寿命もほぼ同等だった。さらに、電流密度を0.1〜10mA/cm2と変化させて発光させても赤色デバイス、緑色デバイスとも色度はほとんど変化しなかった。これらの結果は、赤色デバイス、緑色デバイスとも適切な有機層ならば発光層〜カソード間に挿入してもベース特性が劣化しないことを意味する。 研究グループはコンベンショナルなハイブリッドデバイスではHCLやBCLを挿入するとこれらのレイヤー内でキャリアの再結合が一部起こり、発光色が変化すると考えていたが、青色デバイス5ではそうした現象が観察されなかった。これらのデバイスにおけるキャリア輸送性の違いを検証するため、オールウェットプロセスでホールオンリーデバイス(デバイス7:ITO/ホール注入層/インターレイヤー/高分子発光層/AuGe)、オール蒸着プロセスでホールオンリーデバイス(デバイス8:ITO/ホール注入層/インターレイヤー/高分子発光層/HCL/BCL/電子輸送層/AuGe)を作製した。図7はJ-V特性で、デバイス8はデバイス7に比べ駆動電圧が上昇した。これは、ホールの注入が蒸着層によってより効果的にブロックされるためと考えられる。
同様に、電子オンリーデバイスもウェットプロセスデバイス(デバイス9:Al/ホール注入層/インターレイヤー/高分子発光層/電子注入層/Al)と蒸着デバイス(デバイス10:Al/ホール注入層/インターレイヤー/高分子発光層/HCL/BCL/電子輸送層/電子注入層/Al)を作製した。図8はJ-V特性で、デバイス9はデバイス10に比べ電圧が上昇した。これは、デバイス10はHCL/BCL/ETL-1によって電子がより注入しやすくなったためと考えられる。つまり、電子モビリティの観点ではETL-1の高い電子輸送性によって青色発光強度が高まるためである。 上記からSuper Hybrid devicesは赤色発光、緑色発光のファンダメンタルズ特性を維持しながら青色発光の特性を向上させることができると結論づけた。 フレキシブルパネル向けに低温硬化CFを使用
いまや製品化も時間の問題となっているフレキシブル有機ELDについては、Samsung Advanced Institute of Technology、Samsung Mobile Display、Seoul National Universityが低温CF作製プロセスと膜封止技術を用いたフルカラーパネルを報告した。低温形成CF以外、とくに目新たしい発表ではなかったが、Samsung Mobile Displayはこの技術を用いてシームレスな5.4型フォルダブルパネル/ベンダブルパネル(写真1)を試作。マーケットに登場する日も近いため、敢えて取り上げることにした。 図9に試作したトップエミッション型パネルの構造を示す。0.55o厚ガラス基板上にドライビングTFTとスイッチングTFTを設けた低温Poly-Si TFTを作製した後、有機EL層を形成した。有機ELはAg/ITOアノード〜ホール注入層〜ホール輸送層〜RGB発光層〜電子輸送層〜Mg:Ag半透過性カソードと一般的な構成で、マイクロキャビティ効果を持たせるため、ホール輸送層の膜厚をRが175nm、Gが120nm、Bが60nmとサブピクセル毎に変更した。有機EL形成後はAl2O3無機酸化膜とポリアクリル酸有機層を交互にマルチレイヤーでスタックして封止。最後に、ブラックマトリクス付きのCFを形成した。
周知のように、コンベンショナルな有機ELDは前面に偏光フィルムを貼ってコントラストを高めるが、フレキシブルパネルでは破れやすいため使用するのが難しい。そこで、マイクロキャビティRGB独立発光+CFという構成にした。この結果、偏光フィルムレスでも外光反射が抑制されて高コントラストを確保できた。 ところで、一般的なカラーレジストは少なくとも200℃で硬化させる必要がある。しかし、この温度では形成済みの有機EL層へのダメージが懸念されるほか、プラスチックフィルムをサブストレートに使用することが難しくなる。そこで、UV照射+低温処理(90℃)で架橋するジアクリレート系カラーレジスト(独BASF製)を用いた。図10はその分子構造で、硬化温度50℃で80%と高い架橋性が得られる。また、この材料は分散安定性、溶解性、ケミカル安定性にも優れる。写真2はポリイミドフィルム上にこのカラーレジストをパターニングしたフレキシブルCFで、曲率半径1oというフレキシブル性が得られた。 世界最小の5枚マスクで低温Poly-Si TFTを作製
製造プロセス関連では、Samsung Mobile Displayが5枚フォトマスクで有機ELD用低温Poly-Si TFTを作製することに成功した。もちろん、5枚マスクはLCD向けを加えても世界最少のマスク枚数である。 試作したのはボトムエミッション構造の12型ワイドXGAパネル。図11に8枚マスクプロセスを用いたコンベンショナルなパネルと今回の5枚マスクパネルの構造を示す。5枚マスクプロセスはゲートとアノード画素電極をスタッキングして一括パターニングしたのが特徴で、この結果、図12のように画素電極とコンタクトホールのパターニング工程をスキップすることができる。アノード画素電極はデータラインパターニング後に開口する。また、大型パネルに対応するため、a-SiをPoly-Si化する際のRTA(Rapid Thermal Annealing)プロセスをレス化した。なお、どのようにPoly-Si化したのかについては触れていない。 そのTFT特性を評価したところ、キャリアモビリティは従来のRTAプロセスデバイスが97cm2/V・secだったのに対し、今回のRTAプロセスレスデバイスは67cm2/V・secと低かった。また、従来の無機SiNxインターレイヤーTFTと今回のオーガニックインターレイヤーTFTを比較すると、後者のモビリティは59cm2/V・secと前者に比べ低下した。表3にRTAプロセスの有無による特性の違いを示す。
上記のTFT特性を改善するため、ゲート絶縁膜を低温処理するプロセスを考案した。高温成膜ゲート絶縁膜TFTと低温成膜ゲート絶縁膜TFTを作製。後者はモビリティが変動せずSファクターが0.38V/decから0.3V/decに低下した。そこで、ゲート絶縁膜構造をSiNx/SiO2(NO)からSiO2/SiNx/SiO2(ONO)に変更した。その結果、NOデバイスはモビリティが72cm2/V・secだったのに対し、ONOデバイスはモビリティが81cm2/V・secに増加した。
ところで、パネルの光取り出し効率を高めるには画素電極の直下にあるレイヤーは画素電極材料との屈折率差が大きい必要がある。その屈折率はSiO2が1.47、SiNxが1.93(630nm時)である。一方、アノード画素電極として用いたITOの屈折率は1.9である。このため、SiO2をITO電極の直下に配置したONOを選択した。表4はゲート絶縁膜の違いによる特性比較で、低温成膜したONOデバイスはモビリティ81cm2/V・sec、Sファクター0.32V/decと高い特性が得られた。 写真3は試作パネルの表示例で、色再現性はNTSC比80%以上、効率はRが20.9cd/A、Gが34.5cd/A、Bが5.35.3cd/Aだった。 ナノクリスタルSiをダイレクト成膜し有機ELDをドライブ 低温Poly-Si TFTに代わる有機ELD用バックプレーンとして浮上してきたマイクロクリスタルSi&ナノクリスタルSi(nc-Si) TFTでは、Industrial Technology Research Institute(台湾)がトップゲート構造のnc-Si TFTを用いて4.1型フルカラーパネルを試作したことを報告した。
トップゲート構造nc-Si TFTは第2世代マザーガラスを用いて7枚フォトマスクプロセスによって作製。nc-Si膜は基板温度200℃、RF周波数13.56MHz、RFパワー30mW/cm2以下といった条件でコンベンショナルなプラズマCVD法によってダイレクト成膜した。デバイス安定性を高めるため、n+ nc-Si膜、nc-Si膜、SiNxゲート絶縁膜を連続成膜した後、一括でポストアニールした。写真4はnc-Si膜のSEM像で、35〜45nmのグレインが基板面内に均一に成長した。この際の結晶化率は70%で、配向性は(111)、(220)、(311)だった。 図13はnc-Si TFT(チャネル長40μm、チャネル幅160μm)のトランジスタ特性で、Vthは−3V、キャリアモビリティは0.536cm2/V・sだった。また、基板面内の1o幅にある五つのTFT特性を評価したところ、Vthバラつきは1.44%、モビリティ均一性は4.37%と良好な結果が得られた。これは、前記のポストアニール効果によるためと考えられる。図14はSiNx膜でパッシベーションしたnc-Si TFTを60℃、90%RH環境で駆動させた際の特性で、250時間後のVthシフトはわずか0.025V、電流低下は5%以内に過ぎなかった。
周知のように、有機ELDを駆動するには1μA以上のDCストレスを印加してもTFT特性が安定である必要がある。図15にDCストレスに対するドレイン電流安定性を示す。DCストレス3.6μAではa-Si TFTはわずか2日でドレイン電流が半減するのに対し、nc-Si TFTは228年ももつことがわかった。さらに、DCストレス8.3μAでもnc-Si TFTのドレイン電流が半減するのは5年と十分な安定性があることがわかる。いうまでもなく、これは有機ELDをドライブするのにまったく問題ないことを意味する。図16はDCストレス印加前と印加後のI-V特性で、DCストレス3.6μAを106秒印加した後のVthシフトはわずか0.16Vだった。 写真5に試作した4.1型パネル(240×108画素)の表示例を示す。2TFT&1C(ドライビングTFT、スイッチングTFT、ストレージキャパシタ)構成のボトムエミッション構造で、開口率は43.2%、輝度は150cd/m2、コントラストは10000:1が得られた。
参考文献 |
REMARK 1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。 2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。 |