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IDW'10〜TFT-LCD編 |
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昨年末、福岡で開催された「IDW'10」。テクノジートピックスをTFT-LCD、PDP、有機EL、電子ペーパー、新型TFTの5回に分けてピックアップする。まずは第1回目のTFT-LCD編から。 CWレーザーを照射してSiGeプリカーサを擬似単結晶化 低温Poly-Si TFT-LCD関連では、東北学院大学と島根大学の研究グループがCW(Continuous Wave)レーザーによって擬似単結晶Si膜を成膜するというアプローチを紹介した。
その作製方法だが、まずガラス基板上に基板温度300℃でアモルファスSiGeプリカーサ膜をプラズマCVD成膜する。膜厚は100nmである。次に、ダイオード励起固体CWレーザー(532nm)を室温・大気中で照射してGeSi膜を擬似単結晶化する。室温プロセスのため、低温Poly-Si TFT用高歪点ノンアルカリガラスに代わりa-Si TFT用ノンアルカリガラスが使用できるのがメリットといえる。 写真1はSi膜(Geレス)とSi0.95Ge0.05膜のグレイン構造で、後者のグレインサイズは前者に比べ明らかに大きかった。写真2はSi0.55Ge0.45のグレイン構造で、写真1のSi0.95Ge0.05膜とはグレイン構造が異なり、長さ100μm程度のリボンライク形状に結晶が成長した。また、Si0.55Ge0.45膜の結晶方位はほとんどが(111)または(011)だった。これは、膜が擬似単結晶になっていることを意味する。ちなみに、これまで多くの研究報告ではレーザーで結晶化したSi膜はグレインサイズが0.3〜1μmで、支配的な結晶方位は(011)とされてきた。しかし、今回の実験では結晶方位は(111)がほとんどだった。これは、Si膜とSiO2膜の界面エネルギーがミニマム化されたためと考えられる。 新たな光配向技術でMVAパネルの特性を大幅に改善
a-Si TFT関連では配向技術に関する報告が目についた。invitedでは、シャープが独自の光配向技術「UV2A(Ultraviolet induced multi-domain Vertically Aligned)」について発表にした。 UV2Aは独自の感光性ポリイミド(PI)材料をTFT基板、CF基板に塗布して配向膜を形成した後、UV光を斜め方向から照射。この結果、PI分子が配向し、その後注入する液晶材料がセルフ配向する仕組み。ここで重要なのは、フォトマスクを用いて左右それぞれの斜め方向からUV照射することで、この結果、写真3のようにサブピクセルはマルチドメインに分割される。コンベンショナルなMVAパネルに比べ高透過率、高コントラスト、高速応答といったメリットがある。
具体的には、写真3-(a)のようにMVAパネルはCF基板上に突起物、TFT基板上にスリット電極を設ける必要があるため、それにともない開口率が低下する。これに対し、写真3-(b)のようにUV2Aパネルはこれらが不要なため開口率がMVAパネルに比べ20%以上高い。いうまでもなく、これはパネルの消費電力を削減できることを意味する。表1は第8世代マザーガラスと第10世代マザーガラスで量産している液晶テレビの消費電力で、UV2Aパネル搭載の「LX1シリーズ」はMVAパネル搭載の「DS6シリーズ」に比べ約30%消費電力が低い。 次にコントラストだが、写真4のようにMVAパネルは電圧OFF時でもCF基板上の突起物の影響により光漏れが多く発生する。これは、図2のように液晶分子が複屈折するためである。したがって、本質的にコントラストを高めにくい。これに対し、UV2Aパネルは突起物レスのため光漏れがまったくなく、その分コントラストを高めることができる。事実、テレビ用パネルのコントラストはUV2Aパネルが5000:1以上なのに対し、MVAパネルは3000:1に過ぎない。 最後に応答速度だが、写真5にオーバードライブレスで電圧を印加した際の様子を示す。MVAパネルは比較的長時間、突起物とスリット電
極間でイレギュラーな欠陥が観察され表示が不均一なのに対し、UV2Aパネルは時間にほとんど関係なく均一な表示ができていることがわかる。こうした違いは図3の応答性カーブでも認識でき、MVAパネルは本来の透過率に達するまで100msec以上かかる。これは、電圧印加直後はいくつかの液晶分子が突起物とスリット電極によるチルト角コントロールができないためである。他方、UV2Aパネルはすべてのピクセルで液晶分子が均一に配向する。これらの結果、UV2Aパネルは応答性にも優れ、シャッターグラス方式の3Dテレビにも適している。 PIをレス化 その一方、PI配向膜をレス化する報告も相次いだ。まずはChunghwa Picture Tubesで、2種類のモノマーを添加した液晶セルにUV光を照射することによって液晶材料を配向させる技術を紹介した。
このプロセスを実現するには二つの反応性モノマーが必要になる。プロセスフローだが、まずUV硬化型反応性モノマーA、Bを添加した液晶材料をODF(One Drop Fill)法によって空液晶セルに注入する。次にUV光を照射してモノマーをポリマー化する。この際、ポリマーBは図4のようにコンベンショナルなPI膜のように両面基板の表面に吸着する。一方、ポリマーAは液晶材料の配向方位とプレチルト角を決定する能力を発現する。さらに、再びUV光を照射するとポリマーAがポリマーBの側鎖となって吸着する仕組み。残念ながらモノマーA、B、重合開始剤の組成やUV照射量といったキーファクターの詳細は明らかにしてない。
同社は上記のPIレステクノロジーを用いて大型MVA-LCDを試作。その結果、PI膜の塗布〜硬化に関連する計6工程をスキップできるだけでなく、コントラスト、輝度、視野角特性も従来のPIパネルに比べ優位であることがわかった。図5は視野角特性を比較したもので、PIレスパネルは元来視野角が広く、広い方位で高コントラストが維持できているのがわかる。また、図6のようにPIパネルに対し輝度が15%向上。コントラストも1300:1が得られた。 ITO膜にイオンビームを直接照射して配向 他方、Pusan National University(韓国)は両面基板上のITO電極を直接加工することによって配向膜をレス化するという斬新なアイデアを披露した。イオンビームを照射するという配向法だが、What's NEWはPI膜レスでITO膜に直接配向機能をもたせた点にある。 Ion Beam Exposed ITO(IB-ITO)と名づけたこの方法は、文字通りITO膜をダイレクト加工して液晶材料を配向させる。具体的には、Ar+イオンソースからイオンビームを照射角度15度で照射する。チャンバ内のベース圧力は5×10-6Torr、Arガス圧は7sccmである。プロセス条件を最適化するため、照射エネルギーを50〜1500eV、照射時間を1〜300秒と変動させたところ、照射エネルギー200eV以上で10秒照射すると良好な配向性が得られることがわかった。一方、照射エネルギー・照射時間とも不十分だと液晶材料は配向しなかった。
図7はコンベンショナルなラビングPIセルとIB-ITOセルの印加電圧-光透過率特性を比較したもので、Vthをはじめとする挙動はどちらもほぼ同じだった。一方、高透過率状態におけるIB-ITOセルの光透過率はPIセルに比べ2.05%高かった。いうまでもなく、これはPI膜がないためである。 IB処理+SAMでラビングPIをリプレース Kyungpook National University、Pusan National University、Hanyang Universityの研究グループ(いずれも韓国)はVAパネル向けとしてSAM(Self Assembled Monolayers)を用いることを提案した。 プロセスイメージは図8の通りで、プラズマCVD法で成膜した無機SiO2膜(膜厚500nm)をイオンビーム照射によって配向させた後、SAM材料を塗布する。SAM材料にはオクチルトリクロロシサン(OTS)、ドデシルトリクロロシラン(DDTS)、オクタデシルトリクロロシサン(ODTS)を使用。トルエン溶媒に1%溶解させてN2環境で塗布した後、50℃×4時間加熱して硬化させた。この結果、SiO2膜表面は本来の親水性から写真6のように撥水性へ変化した。これは、SAM分子の撥水性末端基によるためである。実験では@イオンビーム処理レスのOTSサンプル、Aイオンビーム処理OTSサンプル、Bイオンビーム処理DDTSサンプル、Cイオンビーム処理ODTSサンプルを作製した。
そのVA特性を評価したところ、電圧OFF時ではいずれのサンプルともホメオトロピック性を示した。これは、液晶分子とSAM分子のアルキル鎖との間に疎水性相互作用が起こるためである。つまり、イニシャルなホメオトロピック特性はSiO2膜の表面異方性に影響されない。これは、液晶材料のアンカリングはSAMによって支配されることを意味する。
一方、電圧を印加するとサンプル@はランダム構造状態となった。これに対し、イオンビーム処理したサンプルA、B、CはSiO2膜の表面異方性によってユニフォーム構造になった。つまり、イオンビーム処理によってプレチルト角が発現したわけである。 表2、3にイオンビーム照射条件とプレチルト角およびアンカリングエネルギーの関係を示す。この結果、照射エネルギー500eV以上で80秒照射すると安定なプレチルト角が得られることがわかった。
また、SAM材料の熱的安定性を評価するため、サンプルA、B、Cを100〜260℃×1時間熱処理したところ、いずれのサンプルとも加熱条件に関わらず電圧OFF時にはVA状態を示した。つまり、コンベンショナルなPIと同等の耐熱性があることがわかった。しかし、電圧印加状態ではいずれのサンプルとも温度によってランダム構造を示した。そこで、プロセス条件を最適化し、斜め方向から2段階でイオンビーム処理すると写真7のように良好な配向性が得られた。 UV配向でIPSパネルの視野角をさらに改善 LG DisplayはPI膜をUV配向させたIPSモードTFT-LCDについて報告した。実験に用いたのは17型ワイドXGAパネルで、まず独自開発したPI材料をTFT基板、CF基板に塗布。続いて、UV光を照射してPI膜を配向させた。PI材料の組成やUV照射条件といった詳細は明らかにしていない。
図9に方位角0度におけるラビング配向パネルとUV配向パネルの光漏れ-視角依存性を示す。前者は非対称なため低視角では光漏れが増大する。これに対し、UV配向パネルは総じて光漏れが少なく、対称的な曲線を描く。こうした違いは斜め方向でしか観測されない。これは、ラビングPI材料のプレチルト角が1〜2度であるのに対し、研究グループのUV配向PI材料は0度とプレチルト角が異なるためと考えられる。事実、図10のように視野角-コントラスト特性も同じ結果を示し、ラビング配向パネルは左右方向とも非対称のコントラスト特性を描いた。これに対し、UV配向パネルはプレチルト角が0度であるため、左右方向でコントラストの違いがみられなかった。また、輝度が半減する視角はラビング配向パネルが71度だったのに対し、UV配向パネルは92度だった。
図11に方位角45度におけるカラーシフトと視野角の関係を示す。ラビング配向パネルは明らかにカラーシフトが観測されるのに対し、UV配向パネルはカラーシフトが0.08以下とわずかでかつ対称であることがわかる。周知のように斜め方向でのカラーシフトはIPSパネルにとって本質的な弱点だが、UV配向パネルではこうした問題をミニマム化することができる。 参考文献 |
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