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有機エレクトロニクス技術継承のための若手勉強会(3月8日) |
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3月8日、都内で電子情報通信学会 有機エレクトロニクス研究専門委員会(OME)主催による「有機エレクトロニクス技術継承のための若手勉強会」が開かれた。有機系太陽電池と有機トランジスタに関する2件の講演をピックアップする。
有機系太陽電池について講演したのは九州工業大学の早瀬修二氏。勉強会ということもありベーシックな内容がほとんどだったため、ここでは予稿集に記載されていた透明電極(TCO:Transparent Conductive Oxide)レス色素増感太陽電池についてとりあげる。 図1はデバイス構造の比較で、FTOなどの透明電極をレス化することによってローコスト化&高効率化を図るという狙いがある。図2のようにTCOをレス化すると太陽光の全波長領域にわたって透過率が向上。とくに長波長側における透過率が大幅に向上し変換効率の向上が期待できる。そこで、ポーラス金属電極を用いてTCOをレス化した。 その作製プロセスだが、まずガラス基板上にナノサイズTiO2ペーストを塗布する。次に、テトラポット形状のナノサイズZnOをエレクトロスプレー法によって成膜する。続いて、Ti膜をスパッタリング成膜した後、塩酸処理することによってテトラポッドZnO膜をエッチング処理する。この結果、ポーラスTi電極ができる仕組み。
その特性はJsc(短絡電流)=14.84mA/cm2、Voc(開放電圧)=0.78V、フィルファクター=0.69で、変換効率7.97%と高い値が得られた。これは、いうまでもなく色素増感太陽電池では世界最高クラスに当たる。 塗布型ペンタセンはグレインサイズの制御が可能 有機トランジスタに関しては、旭化成の南方尚氏がプリンタブル有機トランジスタのキーポイントであるペンタセン薄膜について講演した。 周知のように、ペンタセンは数ある有機半導体材料のなかでももっともキャリアモビリティが高いが、その高い凝集性から溶剤に溶解しにくく、真空蒸着法で成膜するのが一般的だ。そこで、ペンタセン膜をウェット法で塗布することにトライした。 まず、バルクペンタセンを加熱しながら攪拌してトリクロロベンゼンなどの有機溶媒に溶解させることに成功。図4のように蒸着膜に比べ塗布膜はグレインサイズが大きいことがわかる。このため、キャリアの移動を妨げるグレインバウンダリーも少ない。これはモビリティをはじめとする特性が向上するのはもちろんのこと、O2などのアタックが少なくなり、特性安定性も高いことを意味する。実際、大気中に放置した有機トランジスタの特性を比較すると、図4のように蒸着デバイスは時間が経過するとともに特性が低下するのに対し、塗布デバイスは44日後と77日後でもほとんど特性が変動しないことがわかる。 また、塗布膜ではグレインサイズやグレイン形状を制御することもできる。写真1は溶解溶液中における冷却速度・攪拌速度と結晶成長の関係で、攪拌速度と冷却速度を遅くするとグレインサイズが大きくなり板状に成長なる。一方、冷却速度が速いと針状やデンドライド状に成長する。
同社が参画したNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のナショナルプロジェクトでは、この塗布膜を用いたボトムコンタクトデバイスでモビリティ2.7cm2/V・secを実現。ただし、これはあくまでもチャンピオンデータであり、モビリティ0.3〜0.4cm2/V・secという測定ポイントもあった。つまり、特性バラつきを低減するのが課題といえる。
そこで、ペンタセン結晶をインクに分散させた分散インクを用いて薄膜化することにもトライした。粒径を0.3μm、2μm、10μm、50μmとふったところ、いずれも配向膜が得られた。ただ、分散インク塗布膜では結晶〜結晶間やペンタセン結晶〜電極間のコンタクトが懸念される。つまり、電極接合抵抗や粒子間キャリア輸送障壁が高くなる危険がある。そこで、焼成温度を変えて特性を評価したところ、図5のように温度依存性はあまりなかった。これは、粒子間のキャリア輸送障壁が少なく、コンタクト性が良好であることを意味する。その一方、保存安定性は粒径によって大きく変化した。図6は大気中で153日間保存した際の温度とモビリティの関係で、前述した溶解法と同様、グレインサイズが大きいと保存安定性が高いことがわかった。これは、O2などのアタックによる結晶表面の変化がスモールグレインだと多くなり、バリア障壁が増大するためと考えられる。これらの結果から、分散インク塗布膜を用いると有機トランジスタの特性バラつきも低減することが期待される。 参考文献 |
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