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高分子エレクトロニクス研究会-フレキシブル表示デバイスの進展-


高分子エレクトロニクス研究会-フレキシブル表示デバイスの進展-
カラフルな電子ペーパーでアイキャッチ効果をUP

 6月17日、千葉大学で開催された「高分子エレクトロニクス研究会フレキシブル表示デバイスの進展」。タイトル通り、フレキシブルディスプレイに関する4件の講演が繰り広げられた。ここでは、電子ペーパーに関する二つの講演をピックアップする。

3電極方式で白黒に加えカラーの3色表示を


図1 3色表示電子ペーパーの表示メカニズム1)

 電子ペーパーの権威である千葉大学 北村孝司氏は、事実上のデファクトスタンダードとなりつつあるマイクロカプセル型電気泳動ディスプレイを中心に解説。ユニークだったのは黒色トナー、白色トナーに加え、着色トナーをマイクロカプセルに充填し3色表示するというアイデアだった。

 白色トナーには帯電レスのポリビニルナフタレン粒子、黒色トナーには負に帯電させたチタンブラック粒子、カラートナーには正帯電性のキナクリドン顔料粒子(マゼンダ)を使用。顔料および帯電制御剤、分散剤を加えて絶縁性有機溶媒であるアイソパーG(エクソン社製)に三つの粒子を分散して電気泳動液を作製し、マイクロカプセルに充填してサンプルを作製した。

 図1は表示原理で、背面基板上に下部電極を二つ設けた3電極型を考案。3電極への印加する電圧の極性を制御してホワイト、ブラック、カラーの3色を表示する。具体的には、二つの下部電極にマイナスおよびプラスの電圧を印加すると、上図のように黒色粒子、カラー粒子がそれぞれの電極に引き寄せられ、帯電レスで動かない白色粒子の色が認識されて白表示となる。一方、下図左のように上部電極にプラス、ツインの背面電極にマイナスの電圧を印加すると黒色粒子が上部電極に引き寄せられて黒表示に。さらに、右図のようにその逆のケースではカラー表示となる。電気泳動液におけるそれぞれの粒子、分散剤、顔料および帯電制御剤の重量比、そして3電極への印加電圧を最適化したところ、ホワイト、ブラック、カラーという3色の色制御が可能なことが確認できた。また、カラー粒子を変えればイエロー、シアンといったマゼンタ以外のカラー色も表示できる。

 ちなみに、上記のメカニズムからグレースケール表示は困難だが、カラフル性が要求される電子棚札やPOPといった用途に有望といえよう。

QR-LPDは安価なフレキシブル電子ペーパーに最適

 一方、ブリヂストンの増田善友氏は独自の電子粉流体を帯電トナーに用いた電気泳動型電子ペーパー「QR-LPD(Quick Response-Liquid Powder Display)」について講演した。

 まず、いまだからいえるアプリケーション戦略として電子棚札に代表されるリテール分野に特化していることを説明。このフィールドではメモリー性がありローパワーという電子ペーパー以外では不可能な特性が求められるためで、さらに温度がエアコンで一定に保たれているため、ファーストタ


図2 カラーパネルの構造

ーゲットとして最適な応用分野と判断した。しかも、電子棚札は単価こそ安いものの、スーパーマーケット1店舗に1万台以上が必要になるなど、決してマーケットスケールは小さくない。すでに同社は欧州で10カ国、計200店弱にQR-LPDを出荷。最近では日本でも導入が進んでいる。この分野では従来のモノクロ表示に加え、赤色表示が求められるため、パネル内の一部のセルに赤色電子粉流体と白色電子粉流体を充填したエリアカラーパネル(写真1)も開発、製品化にこぎつけた。

 モノクロパネル、エリアカラーパネルに次ぐ第3世代パネルといえるカラーパネルに関しては07年に4096色表示のプロトタイプを開発。前面基板上にRGBのマイクロカラーフィルター(CF)を形成したもので、電子粉流体の応答速度が速いためパッシブマトリクス駆動でもさほど違和感のない表示を実現。前面にタッチパネルを設けたペン入力機器でも、ペン入力にほぼリアルタイムで追従する応答性を実現した。

 本題のフレキシブル電子ペーパーに関しては、コンベンショナルなガラス製パネルに比べ厚さを1/5、重さを1/10に薄型軽量化することを目指して開発中。当初、開発に当たって懸念したのが@プラスチックフィルムをサブストレートに用いるため、水蒸気などによる不純物ガスによって寿命が低下しないか、A曲げを繰り返しても表示が歪まないか、の2点だった。@については、元来QR-LPDはセルに液体ではなく空気を充填しているため酸素による劣化は考えられないが、水蒸気による劣化もほとんど観察されなかった。このため、有機ELデバイス向けとして開発されているハイガスバリア性フィルムを使用する必要はないと判断。簡易的なガスバリア膜を設けた安価なPETフィルムでも安定動作することがわかった。Aについては、電圧によって前面基板または背面基板上のストライプ電極に引き寄せられた電子粉流体が電気鏡像力によって曲げても離れないことが絶対条件になる。この点についても、曲げても押しても電子粉流体が電極から離れず、表示が劣化しないことが確認できた。

 そこで、07年にフレキシブルカラーパネルを開発した。最初のプロトタイプは8型29dpiパネルで、厚さを0.29oに薄型化。さらに、第2弾として解像度57dpiパネルも開発。パッシブマトリクス駆動でも動画をほぼ問題なく表示できた。


写真2 フレキシブルカラーQR-LPD

写真1 電子棚札

 このため、実用化への課題はコストダウンに尽きる。そのソリューションとしてプリンティングテクノロジーとRoll to Roll生産方式の導入を予定している。前者に関しては、解像度57dpiパネルのCFを印刷法で形成することに成功。表示品質も従来のフォトリソ法(顔料分散法)と遜色ないレベルが得られた。また、電極を印刷することにもトライしており、その準備として塗布型の導電性ポリマーであるPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)をベタコートし300μmピッチでレーザードライエッチングしたところ、解像度72dpiのモノクロパネルが試作できた。このため、今後、PEDOT/PSSをダイレクト印刷することにトライする考え。他方、後者についてはフレキシブルパネル専用のRoll to Roll生産設備を導入。現在、試作ラインを立ち上げ中で、ここで量産性が確認できればローコストなフレキシブル電子ペーパーの量産にメドがつくと結論づけた。

参考文献
1)北村:粒子移動型電子ペーパー技術の現状、高分子エレクトロニクス研究会-フレキシブル表示デバイスの進展-資料、pp.(2009.6)
2)増田:電子粉流体を用いた電子ペーパーQR-LPD、高分子エレクトロニクス研究会-フレキシブル表示デバイスの進展-資料、pp.(2009.6)

REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。