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有機エレクトロニクス材料研究会「フラットパネルディスプレイ」 (12月11日)


有機エレクトロニクス材料研究会「フラットパネルディスプレイ」
プリンタブル有機TFTは駆動電圧が高い電子ペーパーに最適
有機TFT駆動で有機ELD&LCDをフレキシブル化

 有機エレクトロニクス材料研究会は12月11日、都内で「第173回JOEM/第171回フォトポリマー懇話会“フラットパネルディスプレイ”」を開催した。メインテーマは有機TFT駆動FPDで、大日本印刷から有機TFT駆動の電子ペーパー、NHK放送技術研究所から有機TFT駆動有機ELディスプレイ・LCDが報告された。2件の講演をピックアップする。

 プリンタブル有機TFTを開発している大日本印刷は、有機TFTでブリヂストンのモノクロ電子粉流体型電子ペーパー「QR-LPD(Quick Responce-Liquid Powder Display)」をアクティブマトリクス駆動した研究成果について報告した。

 電子ペーパー向けとして有機TFTをチョイスしたのは、他のFPDに比べ駆動電圧が高いため。周知のように、コンベンショナルなa-Si TFTはLCD向けに設計されているため、耐圧を50V以上にするにはゲート絶縁膜の膜厚を大幅に厚くするといった工夫が必要になる。これに対し、とくにウェットプロセスで作製する有機TFTはゲート絶縁膜の厚膜化が容易で、基本的に駆動電圧の高いFPDに適しているため。もちろん、要求されるキャリアモビリティもFPDのなかではもっとも低いという理由もある。


図1 ボトムゲート・ボトムコンタクト型

 作製した有機トランジスタはボトムゲート・ボトムコンタクト型(図1)で、まずナノサイズAg分散液を塗布しフォトエッチング法でパターニングしてゲート電極とバスラインを形成。続いて、感光性ポリマーを塗布しフォトリソでパターニングしてゲート絶縁膜を形成する。膜厚は1μmで、Ra=0.6nmという表面平滑性が得られた。

 続いて、ゲート絶縁膜を表面改質するとともにソース/ドレイン電極のパターニング精度を高めるため、SAM(Self Assembled Monolayer)材料を成膜しマスク露光によってパターニングする。この結果、SAMがある部分は表面エネルギーが低くなり撥水性に変化する。SAM材料としてフッ素化アルキルシランやOTS(オクタデシルトリクロロシラン)などを評価したところ、OTSでもっとも高いモビリティが得られた。ただし、OTSなどのSAMでゲート絶縁膜を表面改質すると表面エネルギーが低くなり撥水性となるため、上部に有機半導体溶液が塗布しずらいという難点がある。これについては、まだ明確なソリューションはみつかっていないという。

 ゲート絶縁膜表面改質後はナノAgペーストをスクリーン印刷しソース/ドレインとデータラインを形成する。焼成後の膜厚は500nm、比抵抗は20μΩ・cmだった。チャネル長は50μmで、このレゾリューションでも十分QR-LPDをドライブできる。

 この後、有機半導体層を形成する。用いたのは、膜状で自己整合的に配向する液晶性有機半導体。分子の配向によってキャリアを伝播するホッピングサイト同士が近くなり、モビリティが向上するためで、液晶性があるポリチオフェンをキシレンで溶解し、インクジェットプリンティング法でチャネル上に滴下した。膜厚は50nmである。

 続いて、マル秘組成のポリマーをスクリーン印刷しパッシベーションを形成。最後に、ナノAgを薄膜で塗布・パターニングし画素電極を形成した。コンベンショナルなITOに代わってナノAgを用いたのはプリンタブル化するとともに、フレキシブル化が容易なため。もちろん、透明導電性ポリマーであるPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)を用いることも可能だ。

図3 ベースメタル構造の縦型静電誘導有機発光トランジスタ
 メタルベース有機トランジスタは縦型SIT(静電誘導トランジスタ:Static Induction Transistor)をモデファイしたもので、有機半導体層内に面状Alゲートを挿入する。つまり、櫛形のゲートメタル電極に代わって面状メタルを設ける。メタルベースの厚さは20nmと薄いため、Agカソードから注入された電子はほぼ100%透過してITOコレクター電極に到達し、いわゆる弾道電子現象が観察される。このベースメタル有機トランジスタを有機EL素子に組み込むと有機発光トランジスタになる。図のようにITO/有機EL層/Me-PTC/Alメタルベース/C60/Agという構造が代表的だ。

図2 有機TFTの特性1)

 その特性だが、キャリアモビリティは0.04cm2/V・sec、ON/OFF電流レシオは106とQR-LPDをドライブするのには十分な値が得られた(図2)。

 この有機TFT基板上にQR-LPDを作製しアクティブマトリクス駆動させた。最初に試作したのはガラス基板製の4型QQVGA(160×120画素)で、電子ペーパーでは最高水準といえる書き換え速度0.3秒を実現。有機TFTとQR-LPDの組み合わせが有効なことを実証した。次に試作したのがPENフィルムをサブストレートに用いたフレキシブル電子ペーパーで、最新の研究成果では解像度80ppiの10型VGAパネルを試作することに成功した。

 一般的にプラスチックフィルムをサブストレートに用いる場合、熱プロセスによって寸法が変動するため、ハイレゾリューション化が難しい。10型VGAパネルの作製に当たっては、PENフィルムをガラス支持基板に固定するとともに、熱処理温度を低温化するなどプロセスを最適化し、寸法伸縮を200ppm程度から30ppm以下に低減。設計値との電極ずれ幅を最大でも8μmに抑制した。

 ちなみに、同社はグラビア印刷法で作製したモノカラー/エリアカラー高分子有機ELDを開発済みだが、ここにきて方向を転換。メタルベース構造の縦型静電誘導有機発光トランジスタ(図2)を開発中で、近い将来、何らかの形で製品化したい考えを示唆した。

新たなゲート絶縁膜材料、高分子半導体材料が

 本格的なユビキタス社会に向けてフレキシブルディスプレイを開発しているNHK放送技研の藤崎好英氏は、有機TFT駆動の有機ELDとLCDについて報告した。

 有機TFTはボトムゲート・ボトムコンタクト構造で、フレキシブル化するため、サブストレートにはゼオノアフィルムまたはPENフィルムを使用。室温でスパッタリング成膜したTaゲートを陽極酸化によってその表面をTa2O5にしたゲート絶縁膜を用いたのが特徴で、この結果、比誘電率が24と高くなり、5V以下という低電圧動作を実現した。また、有機半導体にはコンベンショナルなペンタセンを用い、マスクスルー蒸着法またはベタ蒸着+フォトエッチング法(O2ドライエッチング)でパターニングした。

項目
未処理
O2プラズマ&UV処理
O2プラズマ&UV+HMDS処理
モビリティ(cm2/V・sec)
0.07
0.12
0.3
ON/OFF電流レシオ
104
105
106
Vth(V)
13
20
4.9
サブスレッショルドスロープ
1.1
0.9
0.3
表1 ゲート絶縁膜の表面処理効果2)

 NHK技研も有機TFTの特性改善にはゲート絶縁膜の表面処理が有効と判断。O2プラズマ&UV処理とHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理を併用すると、表1のようにモビリティは0.07cm2/V・secから0.3cm2/V・secに、ON/OFF電流レシオも104から106に向上。また、Vth(しきい値電圧)も13Vから4.9Vに低下した。モビリティが向上したのは、表面処理によってペンタセンのグレインサイズが大きくなりグレインバウンダリーが減少するため。また、HMDS処理によってキャリアのトラップサイトになりやすいO-H基が減少し、Vthシフトが小さくなり、サブスレッショルド特性も改善された。

 図4はチャネル長とトランジスタ特性の関係で、モビリティ(飽和領域、線形領域)とVth特性を両立させるため、チャネル長を5μmに設定。この結果、単素子でモビリティ0.43cm2/V・sec、ON/OFFレシオ107を達成した。また、5型ワイドQQVGA(213×120)アレイでもモビリティ0.3cm2/V・sec、ON/OFFレシオ107、Vth5.7Vと良好な特性が得られた。


図5 トランジスタ特性2)

図4 チャネル長とモビリティ・Vthの関係2)

 上記はこれまでに発表されてきた旧知の報告だったが、今回はさらなる特性向上を図るため、新たなゲート絶縁膜材料と有機半導体材料についても紹介した。前者は非晶質フルオロポリマー「Cytop」で、キャリアのトラップサイトとなるO-H基が分子構造にないのが特徴。膜の表面エネルギーも低く、塗布膜上の水の接触角は112度と高い撥水性を示す。このため、上部に形成される有機半導体の配向効果が期待できる。Cytopをゲート絶縁膜に用いてボトムゲート・トップコンタクト型ペンタセン有機トランジスタを試作したところ、モビリティは0.5cm2/V・sec、ON/OFFレシオは3×107が得られた。また、有機TFTで問題となるヒステリシスも観察されず、大気中でも安定動作した。

 後者についてはポリチオフェン系高分子材料として知られるPBTTTの分子構造を改良し、アルキル鎖を長くしたPB16TTTを合成。溶剤に溶解させた塗布液をスピンコートしてボトムゲート・トップコンタクト型有機トランジスタを試作した。その結果、モビリティは0.5cm2/V・sec、ON/OFFレシオは105と塗布型有機半導体としてはきわめて高い値が得られた。


図6 WQQVGAアレイの画素構造2)

  そこで、有機半導体にPB16TTT、ゲート絶縁膜にCytopを用いてトップコンタクト型を作製したところ、モビリティは0.15cm2/V・sec、ON/OFFレシオは3×104だった。上記の素子に比べ特性が低下したのは作製プロセスなどが最適化できていないため。特筆されるのはヒステリシスフリーだったことで、大気中でも安定な有機TFTが実現するという。

 話を戻すが、有機TFTで必須となるパッシベーションについてはまずポリパラキシリレンを室温でCVD成膜。続いて、UV硬化型PVA(ポリビニルアルコール)ポリマーを塗布した。図5はTFT作製後、有機TFT駆動ディスプレイ作製後のトランジスタ特性で、TFT作製後に比べパッシベーションレスでは特性が大幅に低下するのに対し、パッシベーションを設けると特性劣化が抑制できることがわかる。

 冒頭のように、この有機TFTを用いて燐光有機ELとフィールドシーケンシャル駆動強誘電性LCD(FS-FLCD)を作製した。まず有機ELDだが、赤色としてIr(piq)3、緑色にIr(ppy)3、青色にFIr-6というIr錯体ドーパントを使用。低分子パネルはCBPホストとこれらのドーパントを共蒸着しマスクスルー蒸着法でパターニングした。一方、高分子パネルは高分子ホストとともにこれらの低分子燐光ドーパントを溶剤に溶解し、インクジェットプリンティング法でダイレクトパターニングした。素子は透明アノード画素電極/ホール注入層/ホール輸送層/燐光発光層/ホール阻止層/電子輸送層/バッファ層/メタルカソードという一般的なボトムエミッション構造で、有機膜と無機膜によるハイブリッドレイヤーで膜封止した後、プラスチックフィルムでファイナル封止した。試作したのは5.8型ワイドQQVGAパネル(213×120画素)で、画素ピッチは600μmに設定。図6は有機TFTの上面図で、開口率は約30%である。低分子パネル、高分子パネルとも60Hzでカラー表示することに成功。曲げても表示特性は変化しなかった。

  一方、FS-FLCDはパッシベーション付き有機TFTにポリイミド膜を塗布しラビングした後、強誘電性液晶(FLC)とポリマーウォールをフィルム化した対向フィルム基板をラミネート。この後、フォトマスクを介してUV光を照射してポリマーウォールを硬化させる。なお、ポリマーウォールにはフレキシブル化してもメカニカル強度を確保するという機能がある。最後に、UV光を液晶セル全面に照射しFLCをポリマーネットワーク化した。FS駆動については、RGBそれぞれのLEDをモジュールの両端に配置し、RGBそれぞれのLEDを1/240秒ずつ点灯させる時分割カラー表示方式を採用。フル動画にも対応できるようにした。試作したのは5型QQVGAパネルで、フレーム周波数60Hzで駆動させたところ、動画が表示できることを確認した。

参考文献
1)前田:印刷法で形成した有機アレイによる電子ペーパー駆動、第173回JOEM/第171回TAPJ“フラットパネルディスプレイ”資料、pp.7-10(2008.12)
2)藤崎:有機TFT駆動フレキシブルディスプレイ、第173回JOEM/第171回TAPJ“フラットパネルディスプレイ”資料、pp.11-30(2008.12)

REMARK
1)Stella通信はFPD&PCB関連ニュースの無償提供コーナーです(ステラ・コーポレーションがFPDやPCBそのものを製品化しているわけではありません)。
2)この記事はステラ・コーポレーション 電子メディア部が取材して記事化したものです。